【感想・ネタバレ】株式会社の終焉のレビュー

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Posted by ブクログ 2024年04月25日

 21世紀の原理は「よりゆっくり、より近く、より寛容に」であると著者は主張する。それは資本主義の原理「より速く、より遠く、より合理的に」を棄却し新しいベースとなる考え方に乗り換えることを意味する。
 二十代前半の私にはこれの原理は非常に示唆的である。経済という観点から反近代的原理を導き出すことはとて...続きを読むも参考になった。人件費を削って自己資本利益率をあげた結果、進歩は行き詰る。進歩の行き詰まりの結果、デフレや人口減少に至る。そこで主張されるのが中世的な原理である。実際に、トヨタは新型株式を発行し目先の利益を求める投資家を切っているし、三菱東京UFJ銀行も「子国際市場特別参加者(プライマリーリーダー)」を財務省に返上し、日銀のマイナス金利政策に反旗を翻している。法人概念について知るために読み始めたが、このように非常に示唆的な内容だった。

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Posted by ブクログ 2016年10月30日

今から2年前に、この本の著者の作品(資本主義の終焉と歴史の危機)という本を読んで、中学生の頃に、半分笑いながらよんでいた、ノストラダムスの予言に書かれていた詩を思い出したのを覚えています。その詩の内容とは、「共産主義はいずれ衰退する、しかし、資本主義も終わらせなければならない」という内容で、助動詞の...続きを読む「must」が話題になっていたので覚えていました。

さて、この本は、その本の続編もしくは、前作で資本主義の次に来るものが明確に書かれていなかったので、それを詳しく書くことが趣旨のようです。

資本主義の繁栄を支えてきた「株式会社」というシステムが、時代に合わなくなってきているようですね。大企業でも最後は行き詰って不正をすることになる、現在の状況は、かつての「中世」と同じ状況である、というのは、痛烈なメッセージでした。

今後株式会社が生き残っていくためには、今出の考え方を変えなければいずれ行き詰る、というのがこの本の結論のようでした。強烈な本でした。
以下は気になったポイントです。

・資本を含めたあらゆる「蒐集(しゅうしゅう)」は、必ず「過剰・飽満・過多」に行きつく。蒐集の尺度である利子率がマイナスになったということは、いよいよその限界が近いことの表れである(p12)

・20世紀末(1998年以降)には、新自由主義が世界を席巻し、国家は国民に離縁状をたたきつけ、資本と再婚することを選んだ。これは、株価と利子率の離婚を意味する(p13)

・家計所得を測る指標はいくつかあるが、最も適切なのは、一人当たり実質賃金である。これが、1997年1-3月期をピークに、最新まで年率:0.8%で減少している(p15)

・2000年度から、限界労働分配率が1.0を下回っている、長期間にわたって下回るというのは、労働の成果を認めないということに外ならない、近代の理念に対する資本の反逆(p22)

・1991-1999年度までの失われた10年の前半と、後半で分配の在り方が異なるのは、1995年の報告書がきっかけである。派遣労働の全面解禁への道を開き、労働の低賃金化に大きな役割を果たした(p24)

・経常収支が恒常的に黒字である、日本・ドイツ(供給過剰の国)と、経常収支が赤字である、英米(需要過剰の国)を同じ土俵にあげて、欧米並みにROEを高めろと言われれば、企業は経費の一つである人件費を下げるか、納入単価を下げさせるしかない(p28)

・MxV(貨幣数量:マネーストックx流通貨幣速度)=PxT(一般物価指数x取引量)、フィッシャーの交換方程式において、3つの前提が置かれた。1)貨幣の流通速度は一定、2)取引量は、実質GDPと比例、3)実質GDPは短期内には増大できない、つまり、貨幣供給量の変動は、長期的には物価にだけ影響する、新貨幣数量説となった(p37)

・日本とドイツは、10年国債利回りがマイナスとなっているが、これは日本とドイツが世界で最も「資本係数(民間資本ストックを実質GDPで割ったもの)」が高い国であることを示している。日本では、戦後2度を除いて一貫して上昇している(p49)

・コンビニの新規設備投資は、既存の設備を不良債権化してしまう段階にきている。新規出店をして、既存店の売り上げを上げるには、客単価を上げるか、来客数を増やすかだが、賃金が伸びていない状況下では、客単価は上げられない。一日二回の来店を促すのは、コンビニの定義に反する(p54)

・欧州では、遠い場所との取引には銀や金が使用されたが、領内では独自通貨を流通させていた。これは6-8か月流通したら回収、新しい通貨は、年換算で3-6%のマイナス金利となった。こうして集められたお金で、カテドラルを建てた。見方を変えると地方消費税であった(p60)

・生活が楽になったか否かは、貯蓄残高の中央値の増減で判断できる。2002年の817万円から、2015年の761万円へと減少している(p68)

・特許会社のなかでも、モスクワ会社と、後に設立された東インド会社(1600設立)は、永続資本だったという点も大きな変化であった(p84)

・コペルニクスが公表した7つの公理のなかで、ローマカトリック教会が支配する中世社会をひっくり返したのは、「地球から太陽までの距離は、地球から恒星までの距離に比べれば、取るに足らないほど小さい(地球と天上に君臨する神は、無限に遠いとした)」というもの(p92)

・コペルニクスらは、閉じて均整のとれた宇宙を、崩壊させて、無限の宇宙を登場させた。だからこそ、あらゆる分野が思想の転換を迫られた(p95)

・1721年、国家の都合により海賊行為は禁止。アフリカ大陸からアメリカへ奴隷を運ぶ際に、海賊が奴隷船を襲い、奴隷を解放し、船舶を奪うようになったため。奴隷貿易で繁栄するイギリスとイギリス資本主義にとって、海賊の撲滅が最大の課題であった(p100)

・奴隷貿易を行うのが国家で、奴隷を解放したのが、アウトローの海賊であった(p101)

・特許会社の多くは衰退したが、三大特許会社(東インド会社、イングランド銀行、南海会社)は重要になった。イギリス国債を大量に購入してくれるので(p102)

・イギリスは、世界に先駆けて、王国の借金ではなく、国民の借金(すなわち、国債)を発明した。これが、国民国家イギリスが、絶対君主制のフランスとの覇権争いに勝利できた大きな要因であった(p103)

・1820年以降、蒸気の力を得て、鉄道と運河の時代がスタートした。ここに、「より速く」が、大航海時代の「より遠く」、そして科学革命の「より合理的に」に加わったことで、近代を特徴着ける3つの原理がそろった(p133)

・日本とドイツという、その産業において最も成功をおさめた特別の国(マイナス利回りの国)で、不正事件が起きた。これは近代の限界を示す、なによりの証拠である(p143)

・AIを所有できる人は世界の中でほんの一握り、このように特定の人を対象とした商品では、売上に限界があるにもかかわらず、仕入れにあたる研究開発費は高騰、そのため企業利益が伸びない。そのために人件費がカットされる、これが資本主義の陥っている問題。(p157)

・20世紀の「技術の時代」は、17世紀の「科学の時代」からの累積の上に築かれていた。21世紀が引き続き「技術の時代」だと信じるのであれば、少なくとも「よりゆっくり、より近く、より寛容に」を目指す技術でなければならない(p158)

・成長力は、技術進歩・資本量・労働人口の3つが源泉である。資本はすでに過剰なので、3つとも成長に貢献できなくなった。このことから、近代みずから反近代を生んでいることがわかる(p161)

・政権の良し悪しは、株価ではなく、国債利回りで評価する。ゼロ金利が目標で、マイナスでもプラスでもダメ(p173)

・企業の負債総額と株主資本の比率を考えると、リスク顕在化するのは、0.3%、預金者が間接的に保有する国債は、預金の4割に相当する、506兆なので、預金者のほうが圧倒的にリスクを負っている(p179)

・中世に一般的であった現象(人口一定社会、定住社会、身分社会、定常経済、パートナーシップ形態企業=出資と融資曖昧)が、21世紀になって再び現れてきた(p184)

・出資(株式)と融資(債券)の垣根が曖昧であるのが中世の特徴だが、21世紀の代表例として、トヨタの新型種類株式「AA型」(2015.7)である。発行後5年間は譲渡・換金できないが、その後は、発行価格で買い戻しを請求できる、元本保証付きの株、配当比率も年毎に段階的に上昇する、これは利益のことしか考えない株主とは縁を切れ、というメッセージ(p191、192)

・株価暴落等のバブル崩壊は、実は、古代ローマ帝国や、中世のイタリアでも起きていた(p198)

2016年10月30日作成

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2017年08月13日

今日は水野和夫先生の「株式会社の終焉」。なかなかの力作ですが(お前が言うなよ~って怒られそう)、全部は紹介しきれませんので、最後の方をちょちょっと詳述します。

まず1000兆円の国・地方の借金だが、ストックとしての800兆円にも及ぶ国債をこれ以上増やさないことだ。

そのためには毎年のフローとして...続きを読むの国債発行額をゼロにするべきであるとする。それによって国債発行残高の増加に歯止めがかかるとのことだ。

次に、2015年度には8.8兆円と歳出100兆円の8.8%を占めていた国債利払い費が、マイナス金利によって、近い将来ゼロになることが考えられることから、それによって節約できた8.8兆円を国債の償還と社会保障関連のサービスの充実に充てることだという。

そして、国債管理庁を設立して、国際資金繰りのショートが起きないようにすることが大事であるという。これは日銀が適任だと水野先生は主張する。

また銀行(メガバンク、地銀)の預金1363兆円の53.3%が貸し出しで、残りの5割弱が国債などの有価証券投資であり、預金に占める国債保有と日銀預け金(市中銀行の日銀への預金)の合計の割合は37.9%となっており、異次元の金融緩和を始めた直前の2013年(35.4%)と比べても大して変わってない。

これは預金取扱金融機関が日銀に国債を売却して受け取った分を、日銀に預けているからである。

この結果、2015年度末で、預金取扱金融機関の日銀預け金は267.1兆円と、2011年の2011年の31.5兆円と比べて235.6兆円増加している。

つまり、預金取扱金融機関1363.2兆円の預金のおよそ4割が、国債とリンクしているといっていい。

これでは預金者がいくら預金を各金融機関に1000万円ずつ分散させても、その預け先である国内金融機関がどこの国債に投資しているのであれば、それは預金者が国債のリスクを負っているとの同義だ。

会社が倒産すると、株価が基本ゼロになるので、株主はリスクを負っているといわれていた。しかし、株式は証券市場で自由に売買できるので(公開企業を前提とする)、売却することで、リスクを回避することができる。

もちろん、倒産した株主を購入した人はリスクを被る。2015年に倒産した企業の負債総額は2.04兆円だった。日本の株式会社の株主資本は598.5兆円なので、比率にすればリスクが顕在化するのは、わずか0.3%である。リーマンショックの時でもその値は2%台半ばだった。

それに対して、預金者が間接的に保有する国債は預金の4割に相当する506.5兆円と巨額で、圧倒的に預金者の方がリスクを負っていることになる。

これには次の仮定をする。

「株主のリターン>預金者のリターン」となっているので、預金者のリスクを株主のリスクより低くすべきだと考える(A1)
「預金者のリスク>株主のリスク」なので預金金利を株主のリターンよりも高くすべきと考える(A2)

A1のケースの場合、国の借金を減らしていく政策をとり、かつ、日本の潜在成長率を高めていくことだ。

しかし、現在のようにROE(株主資本利益率)が8%弱のときに、預金金利を3%まで引き上げるには、潜在成長率もおよそ3%に高める必要が出てくる。これは、通常、資本コストは5%と言われているために、ROE8%から5%を引いた3%がリスクを負わない人が受け取るリターンとなるからだ。

次にA2のケースは、預金金利を株主のリターンより高くすることで、正常な関係に戻そうとするというものである。しかし、預金金利をROE(≒8%)以上にするのは、常識的に考えて無理がある。

次に、もう一つには現実を認めようとするケース(B)である。
預金者はハイリスク・ローリターンで我慢しろ、株主はハイリターン・ローリスクで当たり前だとするケースだ。

この考え方は「国民国家」の時代が終わり、「資本の帝国」の時代に変貌したと認識すれば正当化される。「国民国家」の時代には、預金者はローリスク・ローリターン、株主はハイリスク・ハイリターンが正常だったが「国民国家」の時代に正常だったことは、「資本の帝国」の時代には異常になるからだ。

「資本の帝国」とは一級市民の株主と二級市民の預金者からなる階級社会だ。国民は平等であるという近代の理念に反するという点で、「資本の帝国」は「反近代」であって、反動勢力なのだ。

とこのように、本書の一部を紹介してきたが、上記に続いて、「株式会社の終焉」について、水野先生の議論が展開されている。興味を持った方はぜひ本書を手に取って欲しい。

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Posted by ブクログ 2017年06月27日

★★★2017年6月レビュー★★★


我々は歴史の転換点に立っている、と筆者はいう。かつては「株価」と「利子率」は景気の体温計ではなくなっている。急速に力を持ちはじめた「資本帝国」。


勤労からはお金を得られず、株などの資産からでなければ、お金を得られない時代。企業は人件費をカットし、利益を確保...続きを読むする。そんな時代だ。事実、90年代後半から労働分配率は下落の一途をたどっていると、数字が示している。
これは何となく実感できる。


では、これからの世の中はどうなっていくのか。
1、筆者は「成長」信仰を鋭く批判する。企業は「減益計画」を立てるべき、と。これは頷ける、企業でも人でも、永遠に成長し続けることは出来ないから。
2、もう一つ。近代資本主義の「より速く、より遠く、より合理的に」→「よりゆっくり、より近く、より寛容に」と思想を転換させるべき。この提言も頷ける。筆者も述べる、「すでに過剰な資本が存在するのだから、地球の裏側から株主を募る必要はない」株主も地域住民でいいはず・・・・・


成長、成長、成長・・・・という某新聞社の主張には疑念を抱いていた。この本の、「減益計画」「よりゆっくり、より近く、より寛容に」という主張に基本的には同意したい。資本主義の歴史についての叙述も詳しく、歴史を知って初めて自分の立ち位置や、未来が見通せると改めて思った。

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Posted by ブクログ 2020年03月21日

株式会社という存在を通じて21世紀社会のあるべき姿を論じています。20世紀型の成長進歩の考え方から脱することができないことが現代の経済危機の本質であることを指摘、「進歩は近代が生み出した最大のイデオロギー」という著者の言葉が印象的でした。

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Posted by ブクログ 2018年11月10日

資本が過剰に累積した日本では、これ以上の潜在成長率の底上げは困難で、永劫の成長を目的とする株式会社という仕組みがすでに立ち行かなくなっている、とするのが著者の視点と理解しました。

一方、グローバルな競争にさらされている日本企業は海外の市場での売り上げが既に過半を超えている会社が相当数あることから、...続きを読む縮小していく国内事業に割り当てる資源を、海外事業により一層振り向けることとなる、という視点もあります。
こうした企業は、持ち株会社をより資本市場の厚い国(米国、英国、香港など)に移し、日本国内事業を子会社化して事業の縮小を図っていくのではないでしょうか?

著者の前著「資本主義の終焉と歴史の危機」も読ませて頂きましたが、グローバリズムは一国の中に周辺と中心を発生させ、格差拡大を助長するという点は確かにあります。世界経済におけるシェアが縮小していく日本と日本企業が、グローバルな市場での存在感を維持するためにはどうやって付加価値を高めていくか、その一方、国内事業の統合と最適化をどう図っていくのかという課題が、本書の提起する問題とともに思い起こされました。

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Posted by ブクログ 2018年02月25日

ちょっと難しかったかなぁ。
短期的に利益を追い求めるのではなく、ゆっくりのんびりと寛容にってことなんかな?

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