あらすじ
『あなた』と『わたし』は交換可能?
5階A田、6階B野、4階C川、7階D山、10階E木……似ているけれどどこか違う人々が各フロアで働いているオフィスビル――女とは、男とは、社会とは、家族とは……同調圧力に溢れる社会で、それぞれの『武器』を手に不条理と戦う『わたしたち』を描いた、著者初の小説集!
短篇「タッパー」を収録。解説は穂村弘さん。
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現代社会の絶望を圧縮し、その先にある希望を浮かび上がらせようとする奇才、松田青子のデビュー作。
川上未映子の詩を思い出す部分もあるし、彼女の短編を彷彿とさせる部分もあるが、松田青子には松田青子にしか書けない何かが明らかにある。
スタッキング可能
ウォータープルーフ嘘ばっかり!
マーガレットは植える
もうすぐ結婚する女
タッパー
どれも掴めそうで掴めない
それこそ小説の意味
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p.53「何千人と人がいたって、どの階でも同じようなことが話されていて、行われている。構成要素だいたい同じ。」
望む望まない、戦う戦わないに関わらず女性として会社で働くこと。本人が様々な環境で自分らしく考えて化粧をし服を着て、男性と会話をし、仕事をしているとしても、周りがそれを評価し、ラベルを貼っていく。5階でも7階でも11階にも、A山さんもB木さんもC川さんD田さんもいて働いている。
最初は、この没個性的なABCDEのネーミングとエレベーター階の表示、スタッキングの意味がわからず、前衛的な女性論的な本を読んでいると思っていたが、漠然とそれぞれのアルファベットの位置付けと「個性」を感じるにつれて、この小説の試みと良さが分かってきた。
「わたし」は誰だろうか。どういうアルファベットが割り振られる人なのだろうか。
このつぎの「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」の短編がコメディっぽくて女性あるあるで勢いがあって面白かった。
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twitter文学賞から。匿名にされたA田やらB川やらC山やらが、当たり前だけどイメージしにくくて”何これ?”って思ったけど、お互いに置換可能な、結局は田でも川でも山でも大差ない、っていうインパクトを強めることに成功している。実際、途中からフロアはこんがらがってくるんだけど、相対的な理解には殆ど影響がないという。表題作以外も、繰り返しが印象的な「ウォータープルーフ」とか、魅力的な短編集でした。
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会社での同調圧力。抗っていた時期もあるけど、ひとりで生きるために手放したものもある。誰かに頼って生きている間は反抗できるのに、ひとりで生きるためには従わなくてはいけないなんて不思議だ。
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なんだかグダグダと愚痴を言っているだけではないか、と感じる瞬間もあるけれども。いやしかしお笑いみたいなもんというか聞かないけどラジオとか、そういうどーでもいーことを宣っているのを聞いてても楽しげなのもまたテクニックではなかろうか。もしくは単に波長が合うだけか。
その愚痴の隙間に謎すぎる展開の話が挟み込まれていてこれがまたいい味を出していて、結婚する人の話とかマジメに解釈したら面白いかもしれないけど面倒くさいからやらない。
でもそれが良い。なんて。
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一日中股から血が出てる人間は、家で寝てるのが普通じゃないか?結婚するから、ただの皿洗いが、ただの生活を営むために必要なことが「家事」と名付けられ、義務感を帯びるのではないか?
私も透明性の高いマスカラボトルは欲しい。
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面白かった〜うわーうわーと思いながら読みました。
表題作の社内の描写がリアル過ぎて気持ちが落ち込みそうになるけれど、ユニークさがとてもあるので楽しく読めます。落ち着いてよく考えると随分とひどい社会だな…となるけれど。
「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」はキャッチフレーズの勢いが良いです、唱和したくなる。「ヒートテックを着ています」は世界平和です。「パンツ問題」、今のところイントネーションで区別しているけど、(ズボンのままがいいのに…)は消えない思いです。なぜ全て英語にするんだろ、フランス語でもいいのに。
「マーガレットは植える」「タッパー」も不条理だけじゃないんだろうなきっと…というのがわかります。「もうすぐ結婚する女」は全て同一になるのか、、、
Posted by ブクログ
大絶賛の嵐。たぶん2方向で。
・ポップなモチーフたち。貫かれた皮肉へのライトな共感。
・物語重視以外の小説への共感。→前衛。
表題作は言われているほどかなー、と個人的には感じた。
むしろみんな一緒じゃんという感慨を描くには「もうすぐ結婚する女」のほうが。
さらにシュール路線でいえば「マーガレットは植える」は、3.11を受けて書かれたものであるといえばかなりの感動作。こちらのほうが凄味がある。
「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」は言葉のリズムが素敵すぎる。
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活字ならではの着眼点というか、もうとにかく発想が突出していて、好き。
不安にかられ背筋がぞっとするような、でも可愛さもあり笑えるような摩訶不思議でありながら身近で起こっているような、そんな世界観にどっぷり。
「ウォーター・プルーフ嘘ばっかり!」が最高!げらげら笑いながら堪能しました。
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物語を誰かが終始語るという風ではない、いろんな形式の小説が収録されてて、面白かった。
表題作は、解釈は色々できる気がした。
あと、出てくるディテールが、わかる!てのが多い。登場人物の気持ちにも共感するとこが多かった。
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ずっと積読してたの、やっと読んだ!
街ってどこに行っても最近おんなじ風景で、あれ前もここきたっけってなる。ドラックストア、スーパー、本屋さん、イオンまた歩いて歩いていくとドラックストア、スーパー...まさにスタッキング可能な社会だね。
文字は読めてるのに、内容に全然追い付けなくて振り回されてるような気分、自分の中で合点がいくのも、全然わかんなくて読み直すのも楽しい。
女とは、男とはアイデンティティとは?
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小説というより、現代美術の展覧会を鑑賞するような感じの短編集。「わたし」も「あなた」もスイッチ可能なんだよバーカと言いながらも繋がりを求めてるように見えた。翻訳家でもある方なので、翻訳ではないけど文章が日本語の中を横断していく。言葉遊びや言い換えを駆使して、言葉って楽しいしその手があったか!と思わせてくれる。そして読み終わるころにはわたしは一体どこにいるのだろう?わたしは誰なんだろう?という不安。他者との境界が曖昧になり、「あなた」と「わたし」でわざわざ分けなくても、文章によって溶け合ってることも、あるよね。
好きな短編集。
Posted by ブクログ
こいつらはなんでもいつも何の疑問も無く自分たちが普通だと、自分たちがデフォルトだと信じ込めているのか。ただの脈々と続いてきた空気でしかないものを分厚い百科事典でもあるかのように鵜呑みにしていられるのか。この世界、居心地が悪すぎる。
(本文より)
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「やりがい」とか「キャリアアップ」とか「自分らしく働けます」とかどうでもいい。そんなの知るか。テレビや雑誌やネットや電車の中吊りに踊るそれらの言葉たちが片腹痛くて仕方なかった。年中ディズニー気分か。ばかばかしい。そんなのどうでもいいから買わせろ。働いた分買わせろ。
(本文より)
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「スタッキング可能」。2013年の本。松田青子。
1979年生まれの作家さん。の、単行本としてはデビュー作。
もともとは、京都を本拠地とする個性派演劇集団「ヨーロッパ企画」に在籍していた女優さんだそうです。確かに、味わい、持ち味としては、小演劇的、と言うんでしょうか。
ちょっとズラして、ちょっとぶっちゃけで。赤裸々で。多弁で。細部がこだわりで。2017年現在、代表的に言うと宮藤官九郎さんみたいな。
特になんでと言うわけでもなく衝動買い。
時折、「読んだことの無い、いまいまの作家さんの小説」っていうのが発作的に読みたくなります。
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変則的ですが、7つの短編が収録されています。
「スタッキング可能」
表題作。どうやら、とある会社のオフィスの中のいろいろな点描。
それから、同じ会社なのか?〈上司が獣だった〉、という何とも言えないカフカ的?な状態の点描。
それらを通じて。
異分子を排除したがる集団の性質とか。
男性優位的でマッチョイズム溢れる、反知性主義的な人の性向とか。
それらに対して拒絶を心の中で叫ぶストレスとか。
人と人が関係を持つことへの絶望みたいな、実にすがすがしいほどの索莫とした風情が、ユーモアと凄味を交えて描かれます。
正直、なかなか説得力があって、面白かった。この作家さん、技があるな、と思いました。
誤解を恐れずに言うと、津村記久子さんが持っているような、暴力的な世界への嫌悪感。
色んな人間模様が、心理が描かれるんですが。以下、その中の一つ。
とある男性は、若い時に父親が亡くなった。
本人はそれをなかなか消化することができない。
周囲の人々の多くは「俺もそうだった、わかる」「乗り越えよう」など励ましてくれるのだけど、本人は、それが全く受け付けられない。どうして、乗り越えなくてはならないのか。なぜ、自分と同じようにしろと押しつけてくるのか。
そんなときに、深沢七郎の本を読む。深沢さんも、同じような体験をして、同じように思っていた。
(以下本文より)
長い間友達だと思い込んでいた実際の友人たちよりもずっと、もうこの世にいない、一度もあったことのないおっさんの方がA村の気持ちをわかってくれていた。本ってすげえな、とA村は思った。無理して仲間をつくる必要ないじゃん。心が冷えたまま、友達であり続ける必要なんてない。自分の為の言葉がこの世にはある。そのことを知ったら、バンドを辞めるのも、人の輪から離れるのも、少しは怖くなくなった。
うーん。
この気持ち、この表現。たたきつけるような。
読書への愛情体験というのか、そういうことも含めて、分かるなあ。
(親はピンピンしてるのですが、子供の頃、転校が多かったので。周囲との絶望的な〈価値観の断絶体験〉みたいなこと。)
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「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」
戯曲。いわゆる不条理劇、でもないけれど、女性ふたりが出てきて、「世の中で、広告で、ネットや雑誌で言われているイメージみたいなものが、どれだけ嘘ばっかりか」ということを吠え、訴える内容。
ちょっと面白かった。
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「マーガレットは植える」
童話みたいな、短編。
マーガレットさんは色んなものを植える。
素敵なものも植える。
残酷なものも植える。
落ち込んだり、悲しんだりするけれど植える。
だからどーした、とも言えるんだけど、けっこう、じんと来ました。
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「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」
幕間劇のようなかんじで、もう一度。
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「もうすぐ結婚する女」
もうすぐ結婚する女、に対して、結婚する予定のない女性(友達?)が思いを語るような。
とにかく相手を名前で呼ばず、「もうすぐ結婚する女」としか呼ばない執拗さがこわい。
相手より、語り部の一人称主人公の中の、結婚というか、結婚に代表される世間的なシアワセイメージ、みたいなものの暴力的な圧力への自意識過剰さがひりひりする短編。
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「ウォータープルーフ嘘ばっかりじゃない!」
幕間的なような感じで、もう一度。
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「タッパー」
不気味で不条理な掌篇。
色んなタッパーに色んな世界が入ってる。
ふーん。
以上。
総じて、ちょっと楽しみな若い小説家さんだなあ、と思いました。
地盤というか出が関西なのもちょっと頼もしい。
Posted by ブクログ
同調圧力や「普通」との戦いにまつわる小説。戦いというのが大げさだとしても、この小説は、自分たちを縛りつける「普通」を正視し抗おうとしている。
たとえば、男同士でよくやる女の噂話が嫌いな男性社員が出てくる。「あいつは女の話をしないからゲイだ」という決め付けに憤っている。まさに自分がそれと同じだったから、なんだか頼もしい気分になった。
なぜか罷り通ってしまう根拠のない「普通」に対して、それってホントに「普通」なの?と一緒に立ち止まってくれる人がこの小説の中にはいる。それだけで、こちらの気持ちはだいぶ楽になる。
間に挟み込まれる戯曲?コント?風の「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」は声に出して読みたい日本語のオンパレード。いろいろあるけど、「土偶ぐらい長生きしてから言ってみろ」とか。
Posted by ブクログ
全編を通してあるのが、「匿名性」というキーワードだろう。
匿名であることの空虚さ(のようなもの)。そのせいで生まれるややこしさ。特に「もうすぐ結婚する女」はもう、語り手が誰で、語られ手が誰で、それがどういう関係で、何人居て、ということが、一読しただけでは分からない。というか再読しても分からないし、人物相関図を書いてみても分からないと思う。だって、この人とこの人が同一人物である、という保証がないのだから。名前が存在しない所為で。
表題作の「スタッキング可能」では人物に名前が与えられてはいるけれど、「付けられている」というより「振られている」というだけみたいな名前だから余計ややこしい。「A田」と「A村」、「B野」と「B山」のような同じアルファベットを持つ名前は、果たして同一人物なのだろうか? 「入れ換え可能」なのだろうか? これこそ、一度図表にして整理してみるべきだろう。
それらの人たちが積み重ねられたビルの中で、唯一の存在感を持つのが、最後の章で唐突に現れる『わたし』である。
この『わたし』とは誰なのか? おそらく、著者本人の視点そのものだろう。その『わたし』が、世界を作るということ。『わたし』が作ったビルの中に、匿名の人々の、入れ替え可能な幾つものエピソードを整然と積み上げていくということ。それはすなわち、「小説を書く」という行為そのものなのではないだろうか。
小説を書く世界では、この『わたし』は誰とも交換され得ない。だって、書き手の『わたし』が存在しなければ、小説が書かれることはないのだから。
世界を視て、それを書き記す『わたし』だけは、誰とも交換されない。失われようがない。
「我思う、ゆえに我在り」なのだ。
というのは、深読みしすぎだろうか。
Posted by ブクログ
この小説の初版は2013年で、その時点でなら女あるあるを羅列するだけでも成立していたような気がする。この場合の女というのは、基本的には20代から30代前半くらいの独身社会人女性である。会社での扱いとかコミュニケーションの齟齬とか嫉妬とか、彼氏とか結婚とかハラスメントとか容姿の美しさとかそれへの翳りとか、その手のあるあるネタ。たしかに、そのくらいの年代の独身社会人女性にはさまざまな抑圧なり圧力なりがかかる、ネタにしやすい。いまどきはテレビやSNSやネット漫画などで消費されるアレだ。
本書では、そのようなあるあるネタを羅列するだけでなく、いちおう小説的なしかけもほどこされている。ただ、初版から10年が経ったいま、そのしかけ込みでもなかなかきびしい。これは本書というより、私のほうに原因がある。この手の言葉があふれすぎており、なんだか凡庸に思ってしまった。またこれか、と。くりかえしになるけれど、それは私の読むタイミングだけの問題で、本書の責任ではない。
Posted by ブクログ
この作品の初版は2013年に上梓されているのですけど、まだまだ今どきが「わかる、わかる」「そうなのか」と新鮮だったですね。
「スタッキング可能」は会社で働く女子社員の嘆きっぽい独白、オフィス模様。「マーガレットは植える」女の子の不如意な暮らし、昔なら乙女な嘆き。「もうすぐ結婚する女」ずばり、マリッジブルーに絡めた期待と不安の風景。
松田青子さんの初期の作品でしょうか、作風が出ています。ぼやいたり嘆いたりなのですが、なんとなくおかしみがあるのです。小品の間に挟まれている「ウオータープルーフ噓ばっかり」の3編が特におもしろいなあ、TVドラマ「家政婦は見た」の家政婦協会の事務所(畳のくつろぎ部屋)での会話が思い出されます。クスクス笑ってしまいました。こういうの好きです。
Posted by ブクログ
登場人物名に名前がないとなかなか話に没入できないのは、私の想像力とか理解力が乏しいからなんでしょうかね、きっと。おそらく私は今、不思議な世界観の短編よりも、リアル世界が背景のガッツリ物語が読みたい。
松田青子さんは今いちばん気になる人。だから、だから、これで私には合わないって決めつけたくない!次は、松田さんの長編小説や『おばちゃんたちの〜』を読みたい。
Posted by ブクログ
面白かった。難しいな〜と思う部分もあったけど納得させられる言い回しも多く、女の私はこれでいいんだ!こう考えればいいんだ!と思えることが多く、前向きな気持ちになれる。読みやすかった
Posted by ブクログ
オフィスビルで働く人たちの男女の考えの違いとか、悩みとか。
A田とかC山とか登場人物全てアルファベットで匿名性を出している気配なんだけど
どういうわけか別の人物が同じことを思っている謎。
他、ウォータープルーフ嘘ばっかり女子2人の漫才風の雑談。
他、いろいろなところにいる、もうすぐ結婚する女たちの日常。
正直、よくわからなかったなあ。
一番共感できたのは、ウォータープルーフ嘘ばっかり漫才で
マスカラの替え時が一体いつなのかわからないという話は
心底共感してしまったなあ。
Posted by ブクログ
穂村弘さんの後書き、
「また、恋愛について尋ねた時の答えはこうだった。
恋愛とか全然面白くないですよね、なんなんですか、あれ。岩館真理子さんとかの少女漫画がすごく好きで恋愛とはああいうものだと思っていたのに、実際自分が恋愛をしたら同じことは再現されないじゃないですか。それがまず不思議で。
「花椿」787号(2013年7月)
「なんなんですか、あれ」って訊かれても困るけど、笑ってしまった。」
これも面白い。
Posted by ブクログ
『偏愛読書トライアングル』で紹介されていたのをきっかけに、読みました。
解説に書いているとおり、生きにくい現代という時代に遍在する、明確に表現しづらい苦悩を、ユーモアタッチですくいとってくれた小説のような気がします。悪くはないですが、あまりピンときませんでした。【2019年10月8日】