【感想・ネタバレ】レモンケーキの独特なさびしさのレビュー

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Posted by ブクログ

たまらなく愛おしい物語。
エイミー・ベンダーは人間の感情を描くのがほんとに上手い。
母親のこさえたケーキをかじった9歳のある時から
食べ物をこさえた人の感情しか味として感じられなくなる少女が成人するまでの物語。
この一家の秘密と、兄の悲しすぎる能力に衝撃をうける。
人間は渇望と虚しさを飼い慣らして生きていくが
それに食い殺されるのもまた、人間らしい気がする。

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2021年01月22日

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エイミー・ベンダーは、はっとするような言葉で読者を引き寄せたりしない。訥々と単純な言葉を重ねてゆく。けれどもその言葉の組み合わせが穏やかではないので、とても非日常的な物語が展開する。しかしそれもよくよく眺めてみれば、誰にでもある小さな違和感を少しだけ別の出来事のように描いてみせるだけなのだ。決して大袈裟に言ったりしないだけで。

sensitiveとtoo sensitiveの間のどこに線を引けばよいのか、という問い掛けが日本の読者に向けた作家の文章の中に出て来る。恐らくその疑問に対する物語であることが本書の全てであり、結果として、自分を取り巻く世界に対して生まれて初めて抱いた違和感が、実はまだ身体の中に記憶として残っていることを、読み進める内に気付かされることになる。もちろん本書の主人公のように、皆その違和感を、例えばピーマンが食べられるようになるように飲み込み、気にしないようにすることを覚えてゆく。それがsensibleであると、自分を取り巻く社会が要求していることに従うことを受け入れるのだ。たとえそれを善しとしなくとも。

違和感に共感するという自家撞着。けれども鬼束ちひろの言葉に耳を傾けたり、エイミー・ベンダーの文章に身を寄せたりする人がいるという事は、それが誰にでもある違和感だと言うことを示している。岡崎京子の言葉にあるように『ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね』。あるいは、忘れたフリをしてしまうね。

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2017年05月17日

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独特なさびしさ、というタイトルそのまんまの読後感。これがさびしいってことなんだと思う。すっきりしなくて、飲み込めないけど、いつか分かる日が来るんだと思う。「すぎる」と「足りない」の間の線について。

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2022年12月06日

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まさに感受性という言葉にぴったりな物語だった。表現という表現がセンシティブ(本来の意味で)すぎる。このお話を読んでいるとまるでローズが何か人の作った食べ物を食べた時のようにローズの感情を感じられて、だんだんローズと同調してくるようで、一気に読むには少し重かった。少しインターバルが必要。文章の意味を追わずに表現だけをうっとりと眺めていたいと思った。

時折登場人物が「へい(Hey?)」というところだけ翻訳が気になった。舞台がアメリカと考えれば自然(?)な呼びかけか。

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2022年03月28日

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食べ物から作った人の中身を読み取ってしまう9歳の少女ローズが、その能力故の辛さを抱えながら成長していくストーリー。
ローズの天才的な理系少年の兄は成長とともに、自分より優秀な少年達が多く存在することを知って内にこもっていく。その兄には説明も理解もし難い能力がありローズだけがそれを理解する。
この特殊な兄妹に対して両親は基本的に普通なので、このストーリーを現実世界から浮遊させることなく読み進めます。
ローズの未来に希望を感じつつ、兄のことが気になって、心にざわざわ感が残りました。

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2021年06月01日

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ネタバレ

本当にこの人の翻訳がとても読みづらくて苦手。でもエイミーベンダーの小説の雰囲気は好き。でも私が読んでいるのは翻訳版のみ。結局私はこの読みづらい翻訳の雰囲気が好きなのか?

"そんなにちがったことだったのだろうか、私がまだ工場で作られ自販機で売られる食べ物を食べるのを好んでいたことは?… そのころ私は十二歳くらいだった。学校であの自販機がなかったなら、いったいどうやって一日を過ごせたことか、わからなかった。私は、ありがとうというお祈りを自販機にむけ、毎晩それに商品を補充する人、また商品を買う人にもむけた。
それははたしてカードテーブル用の椅子を選ぶことと、それほどちがったことだったろうか、ただ私の選択は私がこの世界に留まることを許し、彼の選択がそうでなかったことを除けば?"

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2020年09月01日

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ネタバレ

特殊能力やアリエナイコトが起こるこの物語を、ただ深い意味のないファンタジーと捉えることもできるかもしれない。
でも、誰かの心の中で起こることは、その人の中での真実。現実とそうでないことの境目は、常に曖昧だ。自分には信じられないからと、それを嘲笑ったりたしなめたりすることが、なんの役に立つのだろう?
著者のエイミー・ベンダー氏に、「あなたはどこまで他人の真実を受け入れられますか?」と聞かれているようだった。

“食事はあいかわらず食事だし、食べ物はあいかわらず決まったはじまりと終わりのあいだにある、そして私は自分に食べられるもの食べられないものを自分で決められる、と。そして父の場合は完全に避けて通ることもできる病院であり、おじいちゃんの匂いの場合はどうやらお店でのことらしかったけど、もし、ジョゼフが毎日感じたことにはそんなはっきりしたかたちがなかったのだとしたら、どうだろう?避けることも、変えることも、できなかったのだとしたら?いつもそうだったとしたら?”

わたしたちは例え家族であっても、肌をどんなに重ねも、感覚を、思考をひとつにすることはできない。椅子になってしまったジョゼフは、その孤独さを常に感じていたのかもしれない。
愛情を注いでも、あなたが必要だと言っても、それは彼の孤独をさらに強めるだけで、彼の救いはただのものになること。ローズはそれを理解したが故に、あの「最後のお願い」をしたのではと思う。

わたしはローズのようにその選択を尊重できるだろうか。彼の選択を尊重するということ、それが正しいのかすら、今のわたしには、わからない。

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2020年06月28日

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面白かったです。エイミー・ベンダーの本を読むのは久しぶりでした。
料理を食べると、作った人の感情が解ってしまう力を持つローズが哀しくも、でも料理に携わって生きていこうとする光を感じました。
彼女の家族もつらくて…ローズの兄のジョゼフは世界を手離して、椅子になってしまうのでしょうか。そこがよくわからなかったのですが、この作者さんらしい不思議さでした。
空気を読む、とかのレベルでなく、人の感情が解ってしまうというのは大変な能力です…人の秘密や、知りたく無いことまで知ってしまう、というのは悲劇です。
それでも絶望せず、最後は進む道を獲得するローズが眩しかったです。ローズの能力を知っている、ジョゼフの友人のジョージが良い人だったというのもありますが、ローズ自身の力も大きいのではないかと思いました。
アメリカの料理は美味しそうだというより大柄だなと思っていたのですが、ローズが働くカフェの料理は優しく美味しそうでした。

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2019年08月23日

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おもしろかった。半分くらいご飯の話していた気がするけど、主人公の能力の影響で、読んでいてもお腹がすいてこなかった。著者のあとがきの「感じやすい人々」という表現はなるほどそうかと思った。どこか発達していると人の感情の機微に気が付きやすくて、生きづらい。うまい呼吸の仕方を見つけられる人もいれば、特定のものごとを避ける人も出てくるし、もちろん生きていけない人もいる。そういう話なんだなあと思った。
訳のせいか元々の文章のせいか分からないけど若干読みづらい文章だった。

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2018年07月17日

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ネタバレ

自分で料理している時、主人公のことがふとよぎる。
その瞬間の自分のことを顧みさせて貰える。
真摯に材料をかけあわせているかどうか。
わたしも主人公が口にしてもなんとか飲み込んで貰えるものがつくりたい。。
でもこわいな。
ひとに食べてもらうってほんとはそうなんだろう。
ひと をすきなひとが書いた物語だなと思う。
ひとを全身で理解しようとするのは愛がないととても無理だから。

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2016年10月14日

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最初の、お誕生日にリクエストした、チョコレートのアイシングがたっぷりかかったレモンケーキ(なんて美味しそうなんだろ)を食べて、「ママとパパ、けんかしたの?」
と、ママの寂しさ、空虚感に気づいてしまうシーン!これを読んだらもう最後まで知りたくなる。小さなローズの繊細さ、食べ物に、特に母の作る食べ物にとらわれる日々。

その中で父のおかしな習性、天才肌の兄と素敵な兄の友人ジョージ、近親相姦のように兄に固執する母。
ローズ自身もそんなに簡単に友達とやって行くことも出来ない… 毎日がハッピーだと思い込んでる人たちとは違い、この家族が大好きだ。

不思議なアイテムがいろいろ登場する。それらに気をつけて読み進める楽しさ。お婆ちゃんから届くどうでもいいような荷物、父と母の思い出のスツール、ママの作る木工作品、父のアルバム、そして食べ物。

物語の後半は、兄のジョゼフの不可解な行動にこちらも訳が分からなくなるし、悲しい。
でも全てがクリアになって来るころ、ローズは自ら料理を始める。そこからがすごく好きだ。レストランの温かさ、料理する人の思い。私も料理が好きだし、もてなすことが好きだから、最後まで読んで幸福な気持ちになれた。

自分の今置かれた環境とも重なり、忘れられない本になりそう。

人はそれぞれ異なる環境に置かれているけれど、それぞれの幸せの形があり、どれがいいかなんてある訳がない。それを見せてくれる、教えてくれる、感じさせてくれる、そういう本の力を思わずにはいられなかった。

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2016年08月16日

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九歳の誕生日の週、ローズは食べ物の中に潜む味がわかるようになった。

チョコレートチップは工場製なので、かすかに金属的で上の空みたいな味がするし、バターは室内で飼われた雌牛からとったものなので、ゆったりとした味わいに欠けているーーーこうした材料のすべてが遠くでぶんぶんと唸るような音を立てていて、ぜんぶを混ぜてドウをこねた職人さんは、怒っていた。

サンドウィッチがあなたに愛してほしいって、

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2016年06月25日

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"ガーリーもの”好きな人たちには、とっても受けそう。
感じやすいって生きにくいんだけど、そのずっとずっと先に違う地平もあるんだよ、と言ってあげたくなる。

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2016年06月07日

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誰かが孤独を抱えていてもなぜ孤独なのかまではわからなかったりするだろうし、その孤独を自分が癒せないことだって往々にしてあるのだろう。

食べ物の味で作り手の感情がわかる、という一見ポップな設定ながらも、訥々とした書き振りで、また、それぞれが孤独を抱えており、それが癒されることもないという物語だった。
お兄さんはおそらく、主人公と同じような特別な力があり、常に「何か」がわかってしまう人だった。そのことに耐えきれなくなり、椅子になることにした、ということなのかな?

食べ物の味で作り手の感情が手に取るようにわからなくても、誰かの感情を汲み取れる、という力は、程度は異なれど誰にでもある。
私がたまに実家に帰ったときに、ふとした瞬間に父と母の関係性と、それについて母がどんなふうに思っているかを感じとり、夜ぐるぐるといろんなことを考え、眠れなくなってしまうのも、この物語と少し近いものがあるのかな。
私に何ができるだろうか、私にできることがあるはずなのにそれをしないのは、母の苦しみを無視していることになるのか、そんなことを考えずにいられない夜がある。

sensitiveとover sensitiveの線引きはどこで引かれるのか、という著者の言葉が印象に残る。

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2023年04月24日

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表紙とタイトルに惹かれて手に取ってみた。
親目線で読むと、母親が終始気の毒で辛い。
ハッキリとした結末を期待して読み進めたけど、釈然としないまま終わってしまった。
翻訳は、洋書を読んでいるような気分になれてとても良かった。

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2022年10月23日

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文体が慣れなくて最初なかなか読み進められなかったけど、真ん中ぐらいから一気読み。
お父さんやお兄ちゃんのことが結局どうゆうことなのかよく分からなかったけど、予想通りの終わり方でした。

私小説っぽい?
好きな人はハマりそうな小説だけど、私にはもう少し短い方が読みやすいかも。

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2022年03月21日

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最初の3分の1くらいは、どうしたものかと思いながら読んでいたけれど、真ん中過ぎからは止まらず、一気読み。

翻訳にクセがあるのは、詩人の方が訳しているからか。
びっくりするような誤植がいくつかあったのは残念。
不思議で、予定調和のない世界観、どのキャラも痛烈な個性を持っていることが魅力。

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2021年09月20日

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靄に包まれるような気分でした。現実的でそれでいて非現実的だと思いました。短い文を重ねることからたくさんのこころを感じました。

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2021年08月08日

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子供の頃の私は、用水路に落ちた汚い葉っぱのようなもので、生きてるのか死んでるのかわからず、むしろ自ら仮死状態を装っていました。

時々まれに覚醒することがありました。その1つに、自宅にて、ロッテから発売していた「ジャフィ」というオレンジジャム入りのチョコレートビスケットを見つけた時です。後からなんと言われようが、とにかく限界まで味わいたい、とリミッターが外れる美味しさでした。エイミーベンダーはもう読まないつもりでしたが、表紙のずるさに負けました。また余計なことを書いて感想は書かないというね。。。

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2019年02月10日

Posted by ブクログ

食べ物に敏感でその産地から作り手の気持ちまで感じてしまうローズ,その生きにくさを思うと怖くなるほどだ.9歳からその能力?に目覚め,ただ生きるためにあるいは食べるために払う努力工夫に圧倒される.そしてその兄のジョーのまた変わった性質,違う物の世界へと侵食される様な形に,ローズだけは気がつく.ただ生きて行く事の大変さにおずおずと手探りしているかの様な,そんなローズの人生に幸せが訪れそうな予感で物語が終わって,ほっとした.ところで,お父さんの能力ってなんだったんだろう.それがとても気になる.

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2018年07月01日

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ローズは、9歳のときレモンケーキを食べた瞬間奇妙な感じを覚えた。それは、ケーキを作った母親の内側にあるもの。空しさや不安だった。それ以来ローズは食べたものから作り手の感情や素材の生産過程などが分かるようになる。
母は兄のジョゼフを溺愛している。どのジョゼフは、科学において天才的な才能を持ちながらも、他人と打ち解けることがなく、自分の世界に生きている、ただ一人の親友ジョージを除いては。
ローズは、自分の特殊な才能を誰にも打ち明けられずにいるが、兄とジョージにだけは伝える。兄は、無関心だがジョージはすぐに信じてくれて理解もしてくれる。
ローズはその才能ゆえに母親の浮気をしってしまう。そして、兄の失踪。
成長したローズは、無関心であり続けた父親から自分の才能の秘密を知らされ驚きとともに家族の結び付きとかつてない安堵感を抱く。

その才能にちょっと突飛な設定と思わざるを得ないが、読後はやわらかい感情にひたれて良かった。

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2017年03月23日

Posted by ブクログ

9歳のお誕生日に、お母さんが焼いてくれたレモンケーキを食べた時に、少女は奇妙な味を感じた。
彼女は食べ物を通じて...というちょっと変わった設定から始まる物語。

彼女はその感覚を除けば、ちょっと感受性豊かな、でも普通の女の子。
そして、彼女には兄とその友人がいる。
彼女の不思議な感覚、そして繊細な兄、優しい兄の友人。

それぞれの登場人物がおそらく何かの意図を持っているのだろうけど、私はアメリカのこの手の文学作品は、苦手分野。

でも、読んでおいて頭の中にしまっておくと、ふとなにか思いつくことがあって、そして読み返すと、その文章の持つ意味がわかったような気がすることがある。
きっとそんな作品なんだと思う。

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2016年08月10日

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