あらすじ
【第26回小説すばる新人賞受賞作】「わしはずっと八月を、くり返してきたんじゃ」。急性骨髄性白血病で自宅療養することになった亮輔は、中学のときに広島で被爆していた。ある日、妻と娘は亮輔が大事にしている仏壇で古びた標本箱を見つける。そこには前翅の一部が欠けた小さな蝶がピンでとめられていた。それは昭和二十年八月に突然断ち切られた、彼の切なくも美しい恋を記憶する品だった。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
圧倒された。
戦争の、それも広島での子供時代
儚い恋
軍人の父親の死
被爆者としての生活、家族
たくさんの物事が切々と描かれていて
つらいけど、悲しいけど、
生きていくんだと、顔をあげる
ネタバレになるのだけど、
気持ちにグサッとくる一部を。。。
生きる、ということは、
わしはいままでええことじゃと思っておったが、
どうやらそうでもないらしい。
それはええことではなく、
むしろ、後ろめたいということばのほうに
近いものであることを亮輔は知った。
そして、同時に、それがどんなに後ろめたくても、
つらくても、なにがあろうとも、
ぜったいに自分から手放してはならぬものであることを知った。
なにがなんでも食らいついておらねばならぬと知った。
それが生きることである、と思った。
Posted by ブクログ
この物語の分岐点は希恵の娘が死産(もしくは、そして恐らくは福子によっての窒息死)したことの様に思う。もし、この子がいれば亮輔にとっては妹、希恵は本物の妾になった。とてもじゃないが、求婚など出来なかっただろう。
それにしても、希恵は幼い。妾になったのにも関わらず、その息子と結婚することが可能であり、それを囲っている強が受け入れると信じて疑わない。彼女の言葉を借りれば「なりたくてなったんじゃない」からなのだろうが、甘い話だ。敗戦で強の心が壊れた状態で希恵を奪い合うことになったら、後味が悪い。臭い物に蓋、である。
男性は生涯少年の様なものだと誰かが書いていたが、それを象徴するかの様な小説だった。誰もが忘れ得ぬ恋をする訳でも、それを実らせる訳でもない。そんな恋があっただけ幸せなのかもしれない。
Posted by ブクログ
亮輔の淡い初恋、それに応える希恵、二人が楽しそうに会話する姿、川辺を散歩する姿などが微笑ましい。けれど、そんな二人の純情な恋も、1つの原子爆弾によって、無惨にも一瞬にして引き裂かれるなんて、悲しいの一言だった。亮輔が、原爆が投下され地獄絵図と化した広島の街中を、希恵と約束していた場所に行くために向かい、ようやく辿り着いたその場所で、希恵の赤い鼻緒の下駄と虫籠を見つけた時、二人が一緒に見るはずだった脱皮した青い蝶を見つけた時、なんとも言えない切なさが胸を突いて、もの哀しくなりますが、地獄の中舞うきれいや青い蝶が「なんて美しいんだろう」と思い、それが余計に切なさを増している感じがしました。
原爆が投下されてから現在まで、原爆投下に対する亮輔の思い、苦しみに、目が覚めるような思いがしました。
私達は、二度とこんな悲劇を起こさないようにもっと想像を働かせ、事実を知り、その事実を伝えて行くのが、今を生きる私達の使命だと思います。