【感想・ネタバレ】社会心理学講義 ──<閉ざされた社会>と<開かれた社会>のレビュー

あらすじ

生物と同様に、社会システムは「同一性」と「変化」に支えられている。だが、この二つの相は本来両立しない。社会心理学はこの矛盾に対し、どのような解決を試みてきたのか。影響理論を中心に進められる考察は、我々の常識を覆し、普遍的価値の不在を明らかにするだろう。本講義は、社会心理学の発想を強靱な論理とともに伝え、「人間とは何か」という問いを読む者に深く刻み込む。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

すごく面白かった。
自分の価値観が広がっていく瞬間が、読書をする中で随一の快感である。

個人に主体があるという概念が近代以降のものだとは思いもよらなかった。社会あるいは集団の中の個人、そして社会または集団を別個のものとして、もしくは実体的なものとして研究しても答えは出ない。認識とはあくまでも社会と個人の相補的なものである。
まさに目から鱗だ。だが同時に、納得感が強い。こうして変化することにより、私自身の自己の同一性が保たれているのだろう。そして、認知不協和状態になると、安定させようと自己を変化させる。それの限界が訪れた時に、自身の変化が難しい時や、折り合いがつかない時──人は精神が参ってしまうのではないか?
特に今は仕事の影響で私自身が脅かされている印象があり、その意味でも本書は有益だった。

第13講では日本の異文化受容について触れていた。日本人が特殊な民族だという信仰こそが、異文化受容を進めることになるという。〈外部〉と〈内部〉の融合を阻止するが故に、〈外部〉の内部化に成功するのだ。印象的な一文があった。
「日本の西洋化の背後に見るべきは、新しい物好きで好奇心旺盛な模倣者でなく、荒々しい野生の外部を馴致された〈外部〉とすり替えて内部化する奇術師の姿でしょう」

そのほかにも、印象的な文言が数多くあった。
以下にいくつかを備忘のために記す。

矛盾が創造を生む泉である。
知識とは常識を破壊する運動である。
常識や従来の理論ではうまく説明できないから、矛盾が起きる。
心の論理にしたがい、社会と歴史の文脈でしか生きられない人間という存在に対する侮辱、これが合理性の正体です。

そして、今の自分に一番、響いた言葉が後書きにあった。

「確かに迷いは誰にもあります。私などは今でも迷ってばかりです。しかし文科系の学問なんてどうせ役に立たないと割り切って、自分がやりたいかどうか、それしかできないかどうかだけ考えればよいのだと思います。落語家もダンサーも画家も手品師もスポーツ選手もみな同じです。やりたいならやる。親や周囲に反対されてもやる。罵られても殴られても続ける。才能なんて関係ありません。やらずにはいられない。他にやることがない。だからやる。ただ、それだけのことです。研究者も同じではありませんか。

死ぬ気で頑張れと言うのではありません。遊びでいい。
人生なんて、どうせ暇つぶしです。理由はわからないが、やりたいからやる。
それが自分自身に対する誠実さでもあると思います」

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2025年11月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

同一性と変化という観点を通して人間とは何かという問いについて考察される書とのこと。いくつかの書籍で引用されており、前から気になっていた本。
社会、人間についての理解を深め、今後の人生に活かすべく読書。

メモ
・客観性の追求は主観性の絶え間ない相対化の努力に支えられる。

・自分がしなくても他の人がやるだろうと安心すると責任感が希薄になり、犯罪阻止したり、救助の手を差し伸べる気持ちが鈍る。

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2021年07月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

• 新しい価値やアイディアはなぜ生まれるのか(297)
-少数派が行使する影響は盲目的な追従や模倣ではない。常識を見直すきっかけを少数派が与え、そこで新しい発見や創造が生まれる(298)
-閉鎖系として影響を把握する機能主義的発想を脱し、自己言及的な相互作用を通してシステムが変遷する可能性を見据える必要がある。少数派に影響されるとき、主張内容を超えて、背景にあるイデオロギーや人間像も問い直される。多様な見解が衝突する中で、暗黙の前提を新しい角度から見直す契機が与えられる。こうして多数派の見解にも少数派の立場にも収斂されない新しい着想が現れる。社会という開放システムは異端者を生み続けるおかげで停滞に陥らず、歴史の運動が可能になる。
-イデオロギー・宗教・科学・迷信・芸術・言語・価値・道徳・常識などの精神的産物は、多くの人々のコミュニケーションによって生成される。
-人間が複数集まって集団を作ると、そこに規範が生まれる。市民全員が同じ考えに染まる完全な全体主義社会でない限り、多数派に従わない逸脱者が必ず現れる。少数派と多数派との対立を通して新しい価値や思考が誕生する(299)

• 非連続性は連続性の懐から滲み出てくる。知識は開かれた系をなすから。新発見の源は、過去の遺産の周辺部にすでに潜んでいる(300)

• 国語が人工的に発展させられる事実:日本、フランスにおける標準語化政策、トルコ語のラテン文字採用、イスラエルのヘブライ語(312)
-初等義務教育制度、戦争中の兵士動員を通して言語の均一化が進む

• 太古から続く伝統などというものは、たいていが後の時代になって脚色された虚構である。実際に生じた変化、そして共存する多様性が忘却されるおかげで、民族同一性の連続が錯覚される(e.g.スコットランド「伝統文化」)(314)

• 血縁の連続性も虚構:文化も血縁も実際には断絶がある(314)
同一性維持の錯覚(317)
-同一性と変化をめぐる謎:<部分>の変化にもかかわらず、<全体>はそのまま維持される:テセウスの舟
-形相の連続性を根拠に同一性は保証できない。それ以外の何かが必要になるが、その何かは舟自体にはない。同一性の根拠は当該対象の外部に隠されている。
-変化が極めて小さければ、同一性が維持されると我々は認識する。もし人間の感覚に探知されない程度の変化が徐々に生じるならば、同一性が中断された事実に我々は「気づかない」(319)
-対象の異なる状態を観察者が不断に同一化する。これが同一性の正体。時間の経過を超越して継続する本質が対象の同一性を保証するのではなく、対象の不変を信じる外部の観察者が対象の同一性錯視を生む。同一性の根拠は対象の内在的状態にではなく、同一「化」という運動に求めなければならない(320)

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2021年03月11日

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