あらすじ
メディアや知識人によって語られる今どきの「正義」、何かがおかしい。どうも共感できない。デモ、教育、時代閉塞、平和、震災など、現代日本のトピックスをめぐり、偉大な思想家たち――網野善彦、福澤諭吉、吉本隆明、高坂正堯、江藤淳――らの考察をテコに、そんな「違和感」の正体を解き明かす。善悪判断の基準となる「ものさし不在」で、騒々しいばかりに「処方箋を焦る社会」へ、憂国の論考。
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Posted by ブクログ
「ものさしの不在」「処方箋を焦る社会」をキーワードに、二項対立や型にはまった価値観に対して筆者が覚えた違和感について、歴史や思想家のことばを参照しながら考える。
現代日本は「普遍的な価値や真理」が存在しない相対主義の時代、各人バラバラに正解を導き出す必要がある。その困難と不安に耐えきれず、「反原発」や「アメリカ批判」といったわかりやすいスローガンについ飛びついてしまう。そして、友と敵を明確に分け、敵対する勢力を排除することで友=つながりを強固にしようとする。しかし、自分の考える「正義」を声高に叫ぶのではなく、微妙な均衡点を探りだし新たな秩序をつくりあげるために、理解困難な他者と粘り強く交渉を続けなければならない。
本書で紹介されている思想家のなかで、「自分の価値観の主張はエゴイズムである」と自己の限界を意識した「現実主義者」高坂正曉、自分の正義感を自問し続けた吉本隆明、日々の生活のなかで問題を解決し続けること、秩序を維持し続けることこそが「政治」であると考えた江藤淳に興味を覚えた。