あらすじ
非僧非俗、悪人正機、絶対他力、自然法爾……波瀾万丈の生涯と独特の思想をめぐり、これまで多くの学者や思想家が、親鸞について所説を発表してきた。いったいなぜ、日本人はかくも魅かれるのか――大河小説『親鸞』三部作を書き上げた著者が、長年にわたる探究と想像をもとに、その時代、思想、生き方をひもといていく。平易にして味わい深く、時にユーモアを交えた語りの中に稀代の宗教者の姿が浮かび上がる名講義。
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Posted by ブクログ
講座の内容を書籍化しているもので、すべて「ですます」の話し言葉で書かれてある。とても分かりやすく読みやすい。
有名な「悪人正機」など、思想そのものの解説などは、本書においてはほとんどない。あくまで著者が考える親鸞像を語るものだ。
お題は「人間・親鸞をめぐる雑話」であり、著者は何度も、自分はこう思います、こうではないかと推測しています、という風に言っている。つまり、親鸞について本当のことなんて分からない、いくつかの書物をもとに想像するほかない、というスタンス。
そのスタンスに共通するものとして、諸行無常、がある。親鸞その人だって、どんどん変わっていったし、矛盾もあるのだと。変わらない根本の思想はあるが、それでも「親鸞ならこう答える」といった断定は不可能であり、それをすると生きた思想ではなくなってしまう、と。
まったくもってその通りで、論理的で、普通のことだと思う。
でも、宗教と聞くとついつい「正解」がある気がしてしまうので、こういう語りを聞く(読む)と、まぁたしかにそうだよなと納得してしまった。
肝心の親鸞についてだが、著者はできる限り多角的に観察しながら、なおかつ自分はこうだと思う、と言う。その態度自体が、親鸞的、あるいは法然的だと感じた。
親鸞も法然も、「他の神仏を軽んずるな。だが私には阿弥陀如来だけだ」というふうな、配慮された言い方をする。この感覚は現代の我々にとても馴染む気がする。
あと、仏教と音楽の関連がおもしろかった。念仏を聴く集まりの描写は、もうそのまんま音楽フェスとかレイブみたいな感じだ。
インドとか中国とか日本とかいろいろあれど、どこも音楽的な伝え方を大事にしていた。念仏は音楽そのものだ。
親鸞は晩年、和讃をたくさん書いた。五七調の歌だ。日本においてはそれが演歌にまで影響を与えているし、憲法も五七調あるいは七五調がある。その地域に住む人たちにとって、"馴染む"からだ。
ちなみにインドでは八、八、八、八、というリズムが馴染むそうだ。
Posted by ブクログ
五木寛之氏の親鸞についての講義録。
氏の親鸞についての著作は、多々目にすることが
ありますが、この本も、他に劣らず面白い本であったと
思います。
氏が以前の書籍等で語っていることも含めて
親鸞の人となりというか、歴史というか、などが
うまく伝わってくるような内容だったと思います。
特に、最後の質疑応答の部分がなかなか面白いと思います。
例えば、親鸞の言っていることも、年齢によって、
内容が変わっていて、それぞれが厳密にいうと
矛盾するところがあるようで、そこに完全なる整合性を
求めることは無意味であるととらえているところとか。
浄土真宗とキリスト教の一神教的な考え方の同一性や違い
についてなど。
Posted by ブクログ
「人間・親鸞をめぐる雑話」というタイトルで、三回にわたっておこなわれた著者の講演をまとめた本です。
網野善彦の研究以来広く知られるようになった中世のアジールに生きる人びとに目を向け、体制の外で生きる彼らの間で親鸞の教えが受け入れられていったという、著者らしい解釈がやさしく語られています。
著者の親鸞解釈には、宗教的な次元をヒューマニズムに平板化してしまっているきらいがあり、個人的には納得できないところがあるのですが、それでも小説の『親鸞』三部作には人間としての親鸞の魅力が十分に描き出されていておもしろく読めました。本書には、小説のように物語の力によって読者を引っ張っていくような魅力はありませんが、著者自身の親鸞理解がコンパクトに語られていて、小説の『親鸞』を読むうえで参考になるのではないかと思います。