あらすじ
昭和二十年九月、敗戦後間もない日本を未曾有の暴風雨が襲った。その名も枕崎台風。「もたらした被害また広島県の死傷行方不明三○六六名をはじめとし……」なぜ広島で……。人類最初の原爆による惨禍から、わずか一カ月。廃墟の街で、人々はどのような災害に巻き込まれたのか。気象台は何をしていたのか。綿密な取材によって明かされる、天気図の空白に秘められた知られざる真実。
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Posted by ブクログ
日本の歴史を紐解いても、これほど残酷で凄まじい1ページはないことでしょう。広島に原爆が落とされた直後、昭和の時代で三本の指に入る台風がその現場に襲いかかったなんて、僕は今の今まで知りませんでした。
この「忘れられた災害」をどう捉えるべきなのか、読み終えてもなんとも言葉のない、やり切れない一冊ではあります。おそらく作者の柳田もそうだったのでしょう。
しかしこの本は、単なる惨劇の記述に終わってはいません。
むしろ、そんな惨劇の土地の真っ只中にありながらも、自分たちの仕事を放棄したりしなかった気象台職員たちの熱意が主題となっています。それがあるからこそ、読者もそこに一筋の光明を見るような思いで読み進めることができます。そして作者の柳田も、やり切れない現実の記述の中に、そのような形で「人間性」というたったひとつの希望を見出していたのではないでしょうか。