あらすじ
前代未聞の「プロ野球×地域創生」物語。
経営難で球団存亡の危機に瀕していたプロ野球・独立リーグの四国アイランドリーグプラスに所属する球団「高知ファイティングドッグス」。しかし、若き実業家・北古味鈴太郎がオーナーに就任することで事態は大きく変わっていく。鈴太郎は前例のない取り組みで球団を活性化させ、無謀とも思える球団の黒字化を目指していく。そのなかで始めたのが「牛を飼う」ことだった――。
●序章 異質の光景
●第1章 運命に導かれ
●第2章 理想の町を創る
●第3章 牛を飼う
●第4章 農業事業部
●第5章 ベースボール・ツーリズム
●第6章 最貧国からの挑戦者
●第7章 野球好きの女医
●第8章 「主将」と「県議選」
●第9章 真夏のご褒美
●終章 孫の手貸します
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Posted by ブクログ
経営難で球団存亡の危機に瀕していたプロ野球・独立リーグの四国アイランドリーグに所属する球団「高知ファイティングドッグス」。
しかし、高知出身の若き実業家・北古味鈴太郎が一般公募によりオーナーに就任することで事態が大きく変わっていく。
バイタリティ溢れる北古味は抜群のアイデアマンでもあった。自らの弟や同級生やその知り合い、またその知り合いから人材を集め、野球チームとは思えぬ事業展開を繰りひろげ、自らも売り子として球場でパンを売ります。
選手たちに練習後、グランド脇の畑で野菜を作らせる。参加費を取って外国選手のトライアウトをし、野球好きな女医をボランティアのチースタッフにする。ついでに地域の訪問介護をやってもらう。引退したばかりの選手をいきなり社長に抜擢するとかいろいろやります。
なかでも本のタイトルにもある「牛を飼う」。このエピソードは秀逸で、しかも胸を打つなあ。
Posted by ブクログ
四国アイランドリーグ。野球好きなら、ご存知な方も多いであろう、独立リーグ球団。
そこの選手はプロ扱いだが、低給でNPB(日本のプロ野球)やメジャーを目指す、球団である。
“四国”であるから、当然4県愛媛、香川、徳島、高知に球団がある。それぞれ愛称があり、高知の場合は高知ファイティングドッグズだ。
Jリーグなどで概要に詳しい方もおられると思うが、地方の球団はその地方の企業や個人から寄付を受けて、試合を行い、地域貢献などをして、球団を運営している。Jリーグと違う点は、四国アイランドリーグは、NPBとは別個・無関係の球団だ。
当然、NPBからヘッドハンティングされることもある。今年のパシフィック・リーグ、千葉ロッテマリーンズの中心選手で、首位打者のタイトルを取った角中勝也選手は2006年のドラフト会議で同球団に7位で指名された。彼は当時高知ファイティングドッグズの選手であった。
で、なんで私がこの本の書評を書こうと思った訳は、独立リーグは「プロ」を名乗っているのにもかかわらず、彼らはほとんどは無名で、かつそうでなくとも、諸般の事情で社会人チームを辞めたり、大学を中退した選手が最後の望みをかけて、死に物狂いで野球(を含む球団行事)をがんばっている。いい意味でのスポーツマンシップの持ち主たちなのだ。
高知県といえば、ご存知の方も多いと思うが全国最貧県の一つで、上場企業も数えるくらい。法人スポンサーもなかなか思うように集められない。そんなわけで、球団の方針として、多角化経営をしている。
その一つが、本書の題名ともなっている、「畜産」である。高知ファイティングドッグズの職員はオーナーが球場で、高知名物の「帽子パン」を売る、練習後選手は農作業に精を出す。畜産をする。まさに「牛を飼う球団なのだ」。
ここでこのブログを読んでいる方は、オーナーがどういう方か知りたいと思うだろう。名前は北古味鈴太郎、短髪で少し太った好青年といったいで立ちだ。
彼は高知の名門・土佐高を卒業後二浪し、大学進学を断念。様々な職を遍歴した後、不動産会社の経営者となった。そんなエリートサラリーマンに故郷からSOSが届いたのだ。
それは「高知ファイティングドッグズにメインスポンサーが見つからない」ということで、オーナーを球団が公募するということだった。
リーグCEOの鍵山誠は鈴太郎に会うとともに、意気投合。
「この人に任せたい。すぐにそう思いました」と述懐している。その結果、鈴太郎は晴れてファイティングドッグズのオーナーとなったのだ。
そこで鈴太郎のオーナーとしての営業が始まる。
球団経営には最低基本的に6千万円程度必要。当時の収入ベースは4000万円に過ぎなかった。
高知球団の2014年の人件費総額は5600万円に上った。これに経費が加わってくる。
「4000万円足りない!」年間2000万円くらいなら、「自分で何とかなるんですよね。(鈴太郎談)」したがって2000万円足りない。メーンスポンサー探しが始まった。
大阪市に本社を構える整水器メーカー創業者社長の森澤紳勝は、高知県土佐清水市の出身。一代で東証一部に上場する企業を作り上げた名経営者だ。
森澤のもとには、高知県選出の国会議員や、高知の政財界など、あらゆるルートから球団救済の声が届いていた。
鈴太郎は大阪本社の日本トリムに森澤を訪ねる。「2000万円を3年間」無理を承知の話だ。しかも鈴太郎にとってはこれがオーナーとしての初仕事。
この商談の内容は本書には詳述されていないが、森澤は快諾。理由が「君のような若い経営者を支える。それが、僕の仕事だ」しかし「だから、口の出しようがないねん。訳が分からへんしね」金は出すけど、口は出さない。ベストなオーナーの有りようだ。
鈴太郎マジックは他にもあった。
なんと「越知(町)と佐川(町)」をファイティングドッグズのホームタウンにしたのだ。
つまり、過疎の町に球団の拠点を置くという球団の新構想だった。
高知に詳しい人なら既知のことかもしれないが、越知も佐川も清流で有名な仁淀川沿いの典型的な田舎町。越知町の人口は6065人。高齢化率も43・8%。小学校も一校しかない。
片や隣接する佐川町は人口が13,607人、銘酒「司牡丹」を製造する酒蔵が並ぶ街並みである。JRの駅も5つもある。
この越知町に高知のグラウンドを作ることにしたのだ。総額1億4000万円のプロジェクトには補助金も付き、財政面でも高知ファイティングドッグス球団には有利に働いた。
これには越知町の住民大喜び。「“わかいし(=若い人)”が越知で野球をやってくれゆう」ということである。町おこしになったのだ。
佐川町でも、ファイティングドッグズは素晴らしい経営戦略を打った。佐川駅前に建つかつてのJRの官舎を選手寮にする(3LDKで18室)。ただし、固定資産税の金額のみを賃料とするという、破格の条件であった。
練習では越知、住居は佐川。不平も聞こえた。しかし鈴太郎は高校の先輩である高知県知事の尾崎正直氏が越知・佐川の両町長が手をつなぐという演出をして、互いのメンツを立てた。
本書の表題にもなっている「牛を飼う球団」についての概要は、本書をみてもらうとして、
このように四国アイルランドリーグの高知ファイティングドッグは日本の地方スポーツのいい事例となっている。
過疎、経済低迷、人口減少・高齢化日本を解決するエッセンスが本書には記載されている。土佐高関係者は必読書。お願いしますよ~あと、高知県人もね!
がんばれファイティングドッグズ!