あらすじ
上司とのいさかいがもとで銀行を辞め、妻とも別居中の勇二。タクシー運転手をしながらクラブチームでフットボールを続ける勇二の生活は、何もかもが煮えきらず中途半端だ。何かを変えたい――。勇二は一線を退き、米軍基地で働く伝説的プレイヤー・マクリーンを訪れ、対戦を申し出る。人生の中盤にさしかかった男の葛藤と、過去の夢へ再び挑戦する様を描く、山際淳司、最後の長編スポーツ小説。
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Posted by ブクログ
この人、小説も書けるんだな。
人生に何を求めて、何に熱中するのかってのは本当に難しい問題。
自分の「夢」は「人生」を賭けるに値するのかどうか、ずっと悩むんだろうと思う。
だから、やりたいことがあってもほとんどの人は途中で、折れる。
そうじゃなかったら、世界はスポーツ選手とバンドマンで溢れてしまう。
でも熱くなれるモノは簡単には捨てられない。
ココロのどこかに引っかかる。
主人公にとってのそれがアメフトだった、と。
ちょうど学生時代というモラトリアムを抜けかけている自分にとっては意味のある一冊でした。
Posted by ブクログ
美しい小説を読んだ、というのが正直な感想だ。山際淳司の小説は、常に美しいので今更かもしれないが。シンプルなものには、美しさがある。山際淳司の小説は、いつもシンプルな構造をしている。謎解きも複雑な人間関係もなく、ただスポーツと携わる人間たちだけが、明解に描写されているのだ。
文字世界のフットボールは、切ない。30代になっても、アメフトを愛さずにはいられないプレイヤーたちの姿がある。日々の仕事に疲れ、人間関係に倦んでも。ヘルメットをかぶり、プロテクターをつけてフィールドに向かうとき、彼らの目は輝いている。退屈な過去も先の見えない未来も忘れて、ただ勝利を手にするために。
『タッチ、タッチ、ダウン』は『アイシールド21』の高校生たちの、あり得るかもしれない未来かもしれない。若さの盛りを過ぎても、フットボールから離れられない大人たちの姿。それは一抹の切なさと、目を放せない格好良さを併せ持っていた。