あらすじ
ことばは知らない間に人間の行動を左右する。標準語と方言、英語と現地語など、複数の言語が関わる状況では、優劣を生み出す無意識の力学が働く。問題を科学的に解決するための言語学――応用言語学の最新の研究から、外国語教育、バイリンガリズム、異文化との接し方、法言語学、手話、言語障害など幅広い話題を紹介。
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Posted by ブクログ
応用言語学とは、直接的に現実社会の問題解決を目指す言語学である。本書でも、母語習得、言語政策、第二言語習得、思考と言語、手話など、様々な言語と社会とのかかわりについて言及されている。言語は我々の思考をも規定する根本的なものであり、そこから生じる諸問題についてなかなか意識しづらい。例えば、普段日本語では主語や目的語を省略しても伝わるが、共通知識が少ない異文化圏では同様にすると誤解を生じうる。本書はこのような問題を改めて指摘しており、はっとさせられるものがある。言語学に興味がない人にも、一読をおススメしたい。
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大学の講義で使った教科書。
言葉にどう私たちが無意識のレベルで影響されているのかなど、言葉に関することを考えさせられた一冊。
外国語だけではなく、言語障害や手話など多岐にわたったジャンルについて書かれているので、一読する価値あり。
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ことばの持つ力、それが無意識のうちにも様々な影響を及ぼし合いながら社会は動いている。ことばの孕む諸々の社会的な問題を俯瞰した知見を得るのに良い本。
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ことばの力学というのを改めて考えさせられた。
方言やバイリンガルに対しての無意識の偏見などは、だれでも心当たりがあるのではないかと思う。
言葉は人間のコミュニケーションや思考に必要不可欠のものである。だからこそ、言葉に対しての態度を考えることが大切だと思う。
著者の本は、本当に読みやすくて分かり易い。
Posted by ブクログ
サブタイトルは「応用言語学への招待」です。応用言語学とはどういう分野か。プロローグによると、「現実社会の問題解決に直接貢献するような言語学のこと」とありました。差別などにつながる言葉はまずそうですが、言葉自体が社会問題になることがあります。また、言葉が、人間の無意識に働きかけていたり、その逆に、無意識が作用して表出されている言葉があったりします。そういった、現実との摩擦を起こしているような部分を扱う言語学といっていいのかもしれません。
十章にわかれていて、そのなかでも比較的短い分量の項で小さく分けながら、それぞれのトピックが論じられていきます。文章自体のわかりやすさはなかなかのもので、読解しやすい体裁になってて読み心地もよかったです。
それでは、いくつかのトピックを紹介しながら感想を書いていきます。
まず、方言やなまりが、自分のそれと同じか近いか遠いかで、その相手との距離感は異なってくるし、帰属意識の働き方も違うというのはそうだなあと思いました。このことの難しいところは、無意識的かつ自動的に、たとえば自分とは違ったなまりの人を気付かないうちに差別するところです。言語感覚によって、そうとう僕たちの意識は規定されているようです。ちょっと怖いところですよね。
次に、言語と認知機能について。バイリンガルのほうがモノリンガルよりも認知症になりにくく、なったとしても進行は早くなりにくいのだとあります。理由は単純に、日常的に頭をよく使うことになるからだとされています。また、二か国語を使用するにしても、その共通となる言語領域があるのだと解説されていました。人間は、まるきり別ものの二つの言語を頭に詰めるというよりも、そういった共通項を共有して母語と第二言語を発達させていくようです。名詞とか主語とか、そういう分類は共通です。うまく整理して覚えていくものだとあります。
僕が義務教育で英語を学んだときは、無味乾燥な学び方をしたものでした。本書にも例がありますが、「I am a student.」という文章を否定形にしなさい、など。「I am not a student.」とやって正解と言われますが、自分は生徒なのに生徒じゃないと言わないといけない。技術・文法面しか見ない教育方法でした。意味を汲んで理解してっていう学習じゃないと身につかないことが教育の分野でやっとわかって、今日では僕の時代のような学習・教育の仕方はされていないそうですね。後の世代の人たち、ひとまずよかったですよね(とはいえ、勉強そのものは大変でしょうけれども)。
規範主義、という主義思想についても扱っていて、著者はこれを批判してもいます。たとえば標準語を正しいとし、その正しさというものが価値を持ち、その正しさから外れるものを蔑み、差別するという帰結になる。これが規範主義です。規範、お手本、そういったものに沿って社会を秩序立てていく方法はメジャーですし大切ですが、その副作用として好からぬ効果がはっきりとあることも意識しておかないといけない。そういったことを、本書ではこの規範主義という言葉とその意味から学び取ることができるのでした。
プライミング効果、という「なるほど!」な知見についても解説がありました。これは、無意識的に抱いている私たちの先入観が、微妙にその行動に影響を与えることを示唆します。たとえば、一流学術雑誌にすでに掲載された論文を、一流大学所属の著者というもとの肩書を外し、無名大学の肩書に書き換えて再度投稿してみた実験があります。12本送ってみて、そのうち3本は再投稿されたものだと発覚してしまい弾かれるのですが、残りの9本のうち8本が不採択になったのです。つまり、無名大学だと採択率が低くなるというものでした。
まあ、プライミング効果なんていう言葉を知らなくても、僕たちはそういった心理バイアスがあることを経験的にわかっていますよね。僕は小説を投稿するときにいつも考えてしまうのですが、応募原稿の1ページ目に学歴や職歴を記載しないといけいなくて、その欄があることで僕の小説の価値が低く見られるだろうな、というのがあります。なにせ、学歴も職歴もたいしたことがないわけで。そのバイアスを突破するにはもう、ベラボーに力強い作品を作り上げるしかないわけです。
……と、それはそれとして、本の中身に戻ります。
認知機能が落ちていると診断された人が、それでも昔と変わらずきちんとしゃべることが出来ていたりする。本書の例では、要支援2の人です。周囲からは、その人の言葉がしっかりしているから、医師に認知機能が落ちていると言われていてもたいしたことはないんじゃないか、なんて判断されたりなどするのです。これ、人間の「知識の二重構造」に理由があるようです。
大雑把に言えば、認知機能に関係する知識の部分と、言語の能力に関する知識の部分は別ものだということです。このことについてちらっと、「宣言的知識」と「手続き的知識」が解説されています。この分野、かなり重要だし奥が深そうに感じました。
たとえば鬱状態でも執筆仕事はできました、といった例を僕はSNS上で読んだことがあります。「そんなの鬱じゃない」とか「執筆って楽ちんなんだ」とか、他者からそういった解釈をされてしまいがちだろうと思いますが、知能が一枚岩で機能しているわけではないとわかれば、鬱状態での執筆は「あること」になります。そして、だからといって「楽ちんということでもない」ことにもなります。
僕個人の例で言うと、過労状態(鍵をかけるときに毎度鍵を落っことす、会計の時に財布を落っことす、仕事が覚えにくいあるいは覚えられない、買ってあるものを別の日にまた買ってしまうなど)にあっても、本の簡単なレビューくらいならまず書けるし(掘り下げようとするとなかなかきつくはあります)なんとか創作もいける。でも傍からは、疲れてなんていないだろう、と見られる。
そういう齟齬を埋める知見だと思うんですよ、「知識の二重構造」って。厳密に言うと、二重どころかもっと分割して捉えているものらしいです。こういうのって、「好きなことだけはやるわけだ」とか「遊べるくらい元気なのに」と人の心を問題視して個人攻撃することを、それは間違いだと正せるきっかけになる知見なのではないでしょうか。無知や無理解が、個人を攻撃したり心のせいにしたりする原因になっていることって、けっこうありがちではないかなあ、と思います。
というところです。200ページ弱の新書ではありますがしっかりした中身で、ページを繰るたびに知る喜びを得ながらの読書でした。テンポよく知見や知識を知ることができたのです。応用言語学という分野自体もおもしろそうですが、英語圏にくらべて日本では関連書はほとんどないそうです。残念に思いました。
Posted by ブクログ
応用言語学:現実社会の問題解決に直接の貢献するような言語学
・人は無意識のうちに言語、その言語を話す人に肯/否などの印象をもつ、差別的な反応を意識的に抑える努力が必要
・ことばの変化は当たり前、ら抜き言葉に目くじらを立てる必要はない
・方言や危機言語が生き残るには?など
確かに自分も、博多弁=可愛い、京都弁=おしとやかなどつい方言とイメージを結びつけていることに気づいた
身近な「言語」について深く考えるきっかけとなり、面白かった
Posted by ブクログ
社会において言語が果たしている様々な役割や言語が人間に与える様々な影響を、これまで言語学が積み重ねてきた研究や議論をもとに、わかりやすく説いてくれている。2章の「言語政策」、4章の「平和のための外国語教育」、5章の「手話」の話などを特に面白く読んだ。
Posted by ブクログ
・「証拠に基づいた社会」という著者の表現が面白い。おそらく、エビデンス・ベイスド・メディスンのもじりだろう。
・ある研究では、アメリカ人の生後10か月の赤ちゃんは、フランス語を話すフランス人の白人よりも、英語を話す国人から食べ物をもらう。人種よりも言語である。
・アメリカの映画に字幕をつけるとき、英語の方言に対して日本語の、たとえば東北の方言をつけることがある。これにより、特定の方言に対する差別的思考が助長されている。
・また、黒人のボルト選手には「おれ」、白人のフェルプス選手には「ぼく」を字幕であてていた。
・イスラエルの一部ではアラビア語教育がなされている。言語を学んでいる人たちはアラビア人に好感を持つ傾向がある。平和教育としても言語教育が生かされる。
・メタファーの用い方には気をつけろ。また単語そのものに含まれているニュアンスにも気をつけろ。たとえば「ごたごた」はネガティブニュアンスである。
Posted by ブクログ
著者によれば、現実社会の問題解決に直接貢献するような言語学のことを「応用言語学」というのだそうです。取り扱っているテーマは、「標準語と方言」、「国家と言語」といった今となってはオーソドックスなテーマから、「手話」、「法と言語」、「言語障害」、「言語情報処理」など、比較的新しいテーマまで広く扱っています。これらのテーマの背後にあるのは「言語と権力の関係」だと著者は言っていますが、社会学的なアプローチではなく、認知科学や、認知心理科学などからのアプローチが前面にでており、あくまでも科学的なスタンスに固執する姿勢がよくわかります。著者自身が「あとがき」で述べているとおり、全般にわかりやすい説明ですが、その一方でもう少し踏み込んだ記述が欲しかった気もします。岩波新書でなく、岩波ジュニア新書でもよかったかもしれません。
Posted by ブクログ
応用言語学って名前はよく聞くけれど実際にはどのような分野を指すのだろうか?という疑問に対して考えるヒントを与えてくれる書。方言について研究している学者が事件の解決の重要な切り札になったという事実は興味深かった。言葉を聞いただけでどこ出身でなどがわかるから驚きだ。コンピュータ言語は今後どのような進化をしていくのかも面白い。カウンセリングが必要な人専用に作られたプログラムもあるということは、今後は話す人がいなくてもコンピュータと会話を楽しめるような時代になっていくのだろうか。。。Siriなどはすでにその域まで達していることを暗示している。
Posted by ブクログ
言葉というのが社会にも、自分の行動にもずいぶん大きな作用をするのは当然なのだけど、それが何故かということを、剥がしていくような本。方言のこと、バイアス・推測のこと、そしてまさか手話が出てくるとは思わなかったし、コンピュータ処理のことまで。応用言語学への招待、というサブタイトルですが、まさにウマいこと招待された感じです。