あらすじ
15年ぶりに、しかも誕生日に、部屋に恋人未満の男を招くことになった36歳の由紀子。有休を取り、ベッドの到着を待ち、料理を作って待つが、肝心の山田伸夫が…来ない! 表題作ほか、新入りが脱走した相撲部屋の一夜を描く「八十畳」。やもめ暮らしの大叔父が住む、木造平屋に残る家族の記憶をひもとく「私は彼らのやさしい声を聞く」など、〈7つのへやのなか〉を、卓越したユーモアで描く傑作短篇集。
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Posted by ブクログ
部屋にまつわる7つの短編小説。作者曰くサブタイトルは「へやのなか」
ちょっとクセのある登場人物たちが、それぞれの部屋で過ごす日常を切り取ったごく普通の描写がすごく面白い。「クセのある」と書いたが、プライヴァシーの最たる場所たる我が家のそれも部屋の中であれば、誰だってクセはあるものなんだろう。テレビで帰宅する人の家についていく企画があるが、それだけで人間ドラマが撮影できるくらいに、人が住む部屋には住む人の数だけドラマがあるわけだ。
そのドラマをきちんと切り取って(フィクションだから構成して…か)短編小説にするのが小説家の腕なんだが、中島京子はその腕があるんで、読者としても安心して部屋の中のドラマを楽しめる。
表題作はじめ、どの作品にもとんでもない大事件は起きず、日常の淡々とした光景が優しく若干のシニカルとユーモアをまぶして仕上げた美味しい作品になっている。この本、後からジワジワ効いてきそうである。
Posted by ブクログ
*15年ぶりに、しかも誕生日に、部屋に恋人未満の男を招くことになった36歳の由紀子。有休を取り、ベッドの到着を待ち、料理を作って待つが、肝心の山田伸夫が…来ない!表題作ほか、新入りが脱走した相撲部屋の一夜を描く「八十畳」。やもめ暮らしの大叔父が住む、木造平屋に残る家族の記憶をひもとく「私は彼らのやさしい声を聞く」など、“7つのへやのなか”を、卓越したユーモアで描く傑作短篇集*
この方は、こういう他愛もない日常の、さもない悲喜こもごもを描くのが本当に巧い。登場人物たちと一緒になって、悩んだり慌てたり喜んだり落ち込んだり、そんな体験が出来るのも、中島作品の醍醐味かも。
中でも、特に好きなのは、ハッピーアニバーサリー。
同性の恋人を伴って帰宅すると、なんと酔っ払った父親が上がりこんでいる(しかもイベント日!)、と一瞬不穏な幕開けのお話なのですが。
そのガーリッシュな空間に全く似合わない父・清三と、恋人が帰ると言い出さないか泣きそうになる娘・由香里。その横で、意外な感覚にとらわれ、ある決意を固める恋人・園子。この設定で、この展開か!巧い!って感じです。
そして、夢うつつの中でその二人の様子を見てしまい、混乱のあまり、母さん!と心のうちで叫ぶ父・清三がとにかくチャーミング。いいなあ、このさりげなさ。本当の温かさってこういう日常の中にあるんだと思う。秀作です。
Posted by ブクログ
中島さんの、またまたタイトルがユニークな作品。
色々な人が住む「部屋」を舞台にした短編集。
切なくなってしんみりしたり、可笑しくて笑ったりと部屋の数だけ物語がある。
特に笑ったのは最初の短編。
独り暮らしの娘の部屋へやって来た父親に頑張れ‼と声をかけたくなった。
一番好きなのは表題作。
15年間使っていたコタツにさよならする女性。
彼女に決断させた事とは…!?
エピソードの数々に笑ったり頷いたり。
句読点のない文章が彼女達の人となりをよく表していて面白い。
沢山笑って、でもラストはほんわかした気持ちになる。さすが中島さん!