あらすじ
十九世紀後半にパースが提唱し、ジェイムズが定義づけたプラグマティズムは、従来の西洋哲学の流れを大きく変えた。二〇世紀半ばにはクワインによって再生されたことで、今やアメリカ哲学の中心的存在となったその思想運動は、いかなる意味で革命的だったのか。プラグマティズム研究の日本における第一人者が、その本当の狙いと可能性を明らかにし、アメリカでの最新研究動向と「これからのプラグマティズム」を日本で初めて紹介。いま最も注目される哲学の全貌を明らかにする。
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前提とするものが、まさにプラグマティックなプラグマティズム。現代を生きる私にとって、問題意識に応え、日常感覚に合う、示唆的な議論だった。
全体的に本質を突くような記述が続き、グイグイと引き込まれながら、最後まで読みきった。構成も素晴らしい。
数学への見方も新鮮。
読みながら、テクストでなくコンテクストが大事ということが何度も思い起こされた。
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恐ろしく緻密な本。新書でこのクオリティのものを出版してもよいのだろうか、と心配になる水準。伊勢田哲治氏のブログに、この本についての書評(というか著者に向けての手紙)が公開されている。プラグマティズムの入門書としては現在のところ最高だといえる。
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読み直したさ:★★☆
Evernoteにノートを作成済。推論的意味論の発想は、私的自治と民法の発想に応用可能な気がする。
〈感想〉
次はジェイムズのプラグマティズムを読みたい。
分かりやすく、かつボリュームとしても満足。
主題の整理→詳論という書き方で進むので読みやすい。
Posted by ブクログ
デカルトに端を発した「我」あるなし論争は、ヘーゲルの他者による精神発展論(1)、キルケゴールのシーソー論(2)、ラカンの鏡像段階理論(3)など多くの哲学者の主題の一つであり続けた。また、「認識」については、カントを乗り越えたフッサールの対象確信論(4)が現象学の扉を開いた。
プラグマティズムもまた、概ねこれらの問題を主題としたものであることがこのほど明らかになったのである。
パース曰く、先入観が払拭できない以上、普遍的懐疑は不可能である。(5)そして、人間の認識とは、人々による記号による学び合い(議論)の過程に参加することである。(5)認識なるものの概念の根底が覆ったとき、「真理」をどう位置付けるかという問題が浮かび上がる。
パースはこれを無限の探求の末の収束点と位置付けた。(6)
ジェームズは、ある結果をみて別の結果を経験せずとも統括できる時のそのためのツールと評した。(7)「行為」を前面に押し出す、プラグマティズムの真髄である。
デューイは、探求の元になる記号が、特定の言語や文化を前提としたものである以上、真に普遍ではないとして、「真理」は保証つきの言明可能性に過ぎないとした。(8)
これはラカンの「言語世界」(3)に通ずる。
クワインは、真理か否かではなく、「信念」のネットワークシステムの訂正の歩みが「真理」的なもののあり方であるとした。(9)フッサール的転回である。
ローティは、特定の言語や文化を「連帯」と称し、客観性は「連帯」の別名でしかないと言い切った。(10)
無論、上記に述べたプラグマティズム読解は、入門書をさらにまとめた、暴論に近いものである。とはいえ、概略を掴むことができたという意味では、本書はその役割を果たしたと言えよう。
さて、初めて哲学書に触れてから3年、ようやっと哲学の道が眼前に開かれた。つまり、これはスタート地点に立ったに過ぎない。そして、競技に挑む準備が整ったことを意味している。
一つだけ、確かなこととして、ここに至るまでの道のりは、険しく、困難でハードルの高いものであった。
にも関わらず、もしかしたら、私は3年かけて哲学の良好な入門書1冊分の知識しか身につけていないのかもしれない。
しかしながら、回り道、葛藤しながら、時に投げ出しながら(特にヘーゲル)歩んだこの経験には偉大な意味がある。哲学は、偉大な暇つぶしである。
最後に、これまでの哲学書の全てに感謝を込めて始まりの挨拶とさせていただく。
・木澤佐登志(2019)「ニック・ランドと新反動主義」星海社
・東浩紀(2023)「観光客の哲学:増補版」ゲンロン
・宇波彰(2017)「ラカン的思考」作品社
・ヒューム(2010)(訳: 土岐邦夫)「人性論」中央公論新社
・プラトン(2013)(訳:中澤務)「饗宴」光文社
・ルソー(1974) (訳:小林善彦)「人間不平等起源論」中央公論社
・石川文康(1995)「カント入門」筑摩書房
・カール・シュミット(2022)(訳:権左武志)「政治的なものの概念」岩波書店
・江藤淳(1993)「成熟と喪失」講談社
・佐伯啓思(1997)「現代民主主義の病理」日本放送出版協会
・竹田青嗣(2010)「超解読!はじめてのヘーゲル「精神現象学」」講談社
・宇野常寛(2017)「母性のディストピア」集英社
・キルケゴール(1996)(訳:柳田啓三郎)「死にいたる病」筑摩書房
・竹田青嗣(2012)「超解読!はじめてのフッサール『現象学の理念』」講談社
・東浩紀(2019) 「テーマパーク化する地球」ゲンロン
・ヘーゲル(2016)「哲学史講義I」(訳:長谷川宏)河出書房新社
・ビチェ=ベンヴェヌート(1994)「ラカンの仕事」青土社
・アンソニー・ギデンズ(2021)「自己アイデンティティとモダニティ」(訳:秋吉美都、安藤太郎、筒井淳也)筑摩書房
・オルテガ・イ・ガセット(2020)(訳:佐々木孝)「大衆の反逆」岩波書店
(1) ヘーゲル(2016)「哲学史講義I」(訳:長谷川宏)河出書房新社p53
(2) キルケゴール(1996)(訳:柳田啓三郎)「死にいたる病」筑摩書房p264
(3)宇波彰(2017)「ラカン的思考」作品社p22
(4)竹田青嗣(2012)「超解読!はじめてのフッサール『現象学の理念』」講談社p253
(5)伊藤邦武(2016)「プラグマティズム入門」筑摩書房p47
(6) 伊藤邦武(2016)「プラグマティズム入門」筑摩書房p63
(7) 伊藤邦武(2016)「プラグマティズム入門」筑摩書房p29
(8) 伊藤邦武(2016)「プラグマティズム入門」筑摩書房p106
(9) 伊藤邦武(2016)「プラグマティズム入門」筑摩書房p134
(10) 伊藤邦武(2016)「プラグマティズム入門」筑摩書房p155
Posted by ブクログ
ローティの『100分de名著』をきっかけに興味を持ち、読み始めた。
プラグマティズムは、絶対的な知識の存在を前提とせず、改訂可能性をもつ可謬的な知識から出発し、探究を通じて新たな知識を獲得していく立場だと理解した。その際の「客観性」への考え方には思想家ごとに幅があり、科学的な手続きを通じて客観性を担保しようとする立場もあれば、真理や客観性そのものを措定せず、知識をコミュニティ内の合意として捉える立場もある。
特に「科学的手続きによる調停」という考え方には、ビジネスにおける意思決定のプロセスとの共通点を感じた。パースが述べるように、科学的探究は複数の異なる推論を行き来しながら、より確からしいものを模索する営みである。しかし現実のビジネスでは、こうした調停がうまく機能せず、無難な結論に落ち着くか、破綻するか、最終的に誰か一人が決断するという形に収束してしまうことが多い。その結果、状況としてはローティ的な相対主義に近い(実際にはローティ自身は相対主義ではないのだが)印象を受け、どこか腑に落ちない感覚も残った。
一方で、哲学史の流れそのものは、まさにプラグマティズム的に、さまざまな推論や立場の往復を通じて「真理」を目指す試みとして見える。この二つの違いは、想定している時間のスケールにあるように思う。ビジネスが短期的な決着を求めるのに対し、哲学は長い時間をかけて探究を続ける。その意味でプラグマティズムは理想的で確からしいように思うが、実生活(=行動を伴う場面)においてどれほど有用なのかには、なお疑問が残る。
一般に哲学は、実生活から離れた抽象的な営みとして捉えられがちである。しかし、プラグマティズムではむしろ「有用性」という言葉が頻出し、現実との接続を積極的に志向している。だからこそ、哲学がここまで「実用」を語ることの意味について、あらためて考えさせられた。
多数のコミュニティが乱立する現代社会の中で、それぞれが内側に閉じこもらずに、異なる立場同士でどのように合意や連帯を築いていけるのか。
プラグマティズムを読んだはずなのに、むしろその問いがいっそう分からなくなった。
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プラグマティストの思想の変遷を辿れる。
ただプラグマティズムの本を読んだことない人は他の入門を当たった上で、戻ってくるのがいいかも。ちょいむず。
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プラグマティズムは「開かれた柔軟な哲学」であるという。そのプラグマティズムを「源流のプラグマティズム」ではパース、ジェイムズ、デューイ、と始祖たちに遡って要約・紹介される。第2章では「少し前のプラグマティズム」としてクワイン、ローティ、パトナムが同じように要約・紹介される。そして、最後に「これからのプラグマティズム」としてブランダム、マクベスとティエルスラン、ハークとミサッックがこれまた要約・紹介される。
多元的につかみどころのない思想のようで、色々な思想家、哲学者たちが色々なことを考えて新しい哲学を構築している、あるいは構築しつつあるという現状が垣間見られた。ただ、やはり数学の哲学化?の辺はちんぷんかんぷん。
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「哲学思想としてのプラグマティズム」について、その全体的像をわかりやすく解説。プラグマティズムについて、「源流のプラグマティズム」(パース、ジェイムズ、デューイ)、「少し前のプラグマティズム」(クワイン、ローティ、パトナム)、「これからのプラグマティズム」(ブランダム、マクベス、ティエルスラン、ハーク、ミサック)という流れで概観している。
プラグマティズムと一口にいっても、それに属するとされる哲学者の考えにはとても多様性があるのだということがよくわかった。ただ、プラグマティズムの思想の根幹にある「真理の探究は可謬的なものであり、真理とはわれわれの行動にとって有用な道具である」という考え方には、非常に共感するものがあった。
全体的にわかりやすい記述だったが、「これからのプラグマティズム」の内容はちょっと難しく感じた。
Posted by ブクログ
プラグマティズムの過去と現在について簡潔に紹介している本です。
パース、ジェイムズ、デューイというプラグマティズムの創設にたずさわった哲学者たちの紹介から始まり、クワイン、ローティ、ブランダムらのネオ・プラグマティズムの思想についても概観し、さらに現代におけるパースの再評価の機運についても触れています。おそらく著者自身の関心と重なるのでしょうが、パースの思想の意義を取り上げなおすことによって、数学におけるプラトニズムの問題を克服する道を探ろうとする、ティエルスランやマクベス、ハーク、ミサックといった現代の哲学者たちの仕事についても解説がなされています。個人的には、内部実在論以降のパトナムの思想についてクリアな見通しを与えられたのが収穫でした。
マクダウェルやブランダムといったセラーズ派の思想については多少フォローはしていましたが、ベナセラフ以後の数学の哲学にはまったく不案内で、最後の章はやや難解に感じました。できることならば、新書形式ではなく単行本で、著者の書いた本格的なプラグマティズム入門が読んでみたかったところです。著者自身「あとがき」でプラグマティズムの哲学的な側面について紹介することに力点を置いていると書いていますが、従来の真理のデフレ理論との違いについて、もう少していねいに解説してほしかったように思います。
Posted by ブクログ
鶴見氏の著作にて知った『プラグマティズム』の入門書
その歴史とプラグマティスト達の思想とその変遷が
わかりやすく書かれてあります。
文書は平易で読みやすいのですが、いかんせん
思考力がついていかず内容的には、入門書といえども
難解な部分もあって、読み終わるのに時間がかかって
しまいました。
パースの反デカルト主義。ジェイムスの信念と意思と心理。
デューイ。
クワイン・ローティー・パトナム・プランダム・マクベス・
ティエルスラン・ハーク・ミッサク。
それに、ヴィドケンシュタインの言語論など割と個人的には
理解しやすい理論のような気がします。
例えば、昔々学校で習うことについての根本的な疑問。
誰にも聞けないような疑問や懐疑の答えがここにある
ような感じです。
Posted by ブクログ
今は『プラグマティズム入門講義(仲正昌樹)』があるので、
初めてプラグマティズムに触れる方は、
そちらから手をつけたほうが良いと思いますが、
コンパクトにまとまった「新書」らしいこちらも捨て難い。
Posted by ブクログ
19世紀末にアメリカで誕生した独自の思想プラグマティズムについての入門書。高校の倫理で触れてから、何となく興味があったものの放置状態であり、なおかつアメリカという社会が形成される中でプラグマティズムが果たした役割は何なのか、というあたりを知りたくセレクト。
20世紀~21世紀のプラグマティズムの流れについて、
・源流のプラグマティズム(パース、ジェイムズ、デューイ)
・少し前のプラグマティズム(ロールズ、クワイン等)
・これからのプラグマティズム
という3世代の歴史変遷を追うことで、プラグマティズムという思想が実は一様ではなく、かなりの拡がりを持つ思想運動であるということを理解することができる。
プラグマティズムというと、「実用主義」という訳語のイメージや「ダイヤモンドは硬い」→「ダイヤモンドは何にでも傷をつけることができる」という信念の行為文への変換の例がわかりやすいだけに、一面的なイメージを持ってしまっていた。しかし、実際のプラグマティズムは、それまでの西洋哲学が様々な形で普遍的真理がどこかに実在しており、それを何らかの形で捕捉・表現し用としていることに対して、「そもそも普遍的な真理とは存在するのか?」という根源的な問いを投げかけ、その答えの1類型として実用性を重んじたに過ぎない、というように感じた。そうした点で著者も書いているように、プラグマティズムは極めて広範な思想運動であり、近年の政治学・倫理学等への応用など、まだまだ現在進行形で発展しつつあるものであるという点に興味を引かれた。とはいえ、この一冊で全てを理解したとは言い切れないので、引き続き数冊入門書をかじってみたいところ。
Posted by ブクログ
ネオプラグマティズムあたりまでは、ざっと復習してるイメージ。ブランダムら名前は聞いたことあるけど...といった現代の部分もかなり解説していて面白い。ただ、数学の哲学から民主主義まで少し欲張りすぎなイメージも。一般読者にこれはキツイだろう。個人的にはパースをポパーの発想と絡めてその違いを解説して欲しかった。