あらすじ
「幼いころ、閉じ込められている気がして、動きたい、力がほしいと願った。その願いは空を飛ぶ夢で一瞬かなえられ、乗馬をしたときにも実現した。しかし何よりも好きだったのはバイクだ」
モーターサイクルのツーリングに熱中した学生/インターン時代に始まり、世界的なベストセラー医学エッセイの著者になったいきさつ、そしてガン宣告を受けた晩年まで、かたちを変えながらも「走り続け」た波瀾の生涯を赤裸々に綴る、脳神経科医サックス生前最後の著作となった初めての本格的自叙伝。
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オリヴァー・サックス(1933-2015)の強烈な自伝。出版は2015年。
原題は“On the Move: A Life”。のっけからバイクの話が登場し、6ページ目までぶっとばす。書名の通りon the move。もちろん、この慣用句はサックスのactivityの高さの謂い、その生き方を指している。
ロンドン生まれ。父母はともに医師、ユダヤ人。オックスフォードの医学部を卒業し、28歳でアメリカに渡る。医師として、研究者として几帳面な生活を送るも、一方、仕事がオフになると、バイクで放浪。同性愛者でもあり、一時期は薬物依存の生活も送った。『レナードの朝』のあの医師のイメージからは想像もできない。
このように前半はなにやら告白録の様相。しかし、この破天荒な生活体験がなければ、後半生の、患者に寄り添った、あの豊饒なメディカル・エッセイ群は、生まれなかったに違いない。
写真はたっぷり、カラー口絵が28葉、本文にモノクロ29葉。そしてカバー表紙には、バイクにまたがる若き日の坊主頭のサックス。訳文はひじょうに読みやすい。
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訳者あとがきによれば、本書の翻訳作業が佳境に入った頃、著者の訃報を聞いたとのこと。そのタイミングも含めて最初から最後まで驚きの一冊。
エピソードのひとつひとつの情報量が多くて医学的なことは分からないこともあるのだけど、家族のこと、恋愛のこと、波瀾万丈でドラマティック、かけがえのない人生を丸ごと書き残し広く共有してくれたことに感謝。映画『レナードの朝』撮影時の話も必読。S氏推薦本。
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この本を通院先の脳神経内科の待合室で読んでいるとき、オリバーサックス急逝のニュースがテレビから流れてきて、しばらく無心状態になった思い出がある。
その後に主治医の脳神経科医にオリバーサックス知ってるか尋ねたら、知らないと伝えられたのも印象的だった。専門家よりは一般人に知名度があるタイプの人なんだろうか。
サックス氏の著書には中学生頃に出会い、夢中で読んで一時期医者になりたいと思っていた。
彼の人生が丸々書かれていて、嬉しくも新鮮だった。彼自身のことはあまり知らなかったので、僕と同じかそれ以上に紆余曲折していて少し安心できた。
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12歳のときの通知表に <やりすぎなければ成功する> と書かれた少年がバイクに、化学に、ウェイト・リフティングに、同性愛に、サーフィンに、ドラッグに‥‥とありとあらゆることに首を突っ込んで、ひたすらやりすぎながら神経生理学の世界を突っ走った脳神経科医の自伝。「レナードの朝」や「音楽嗜好症」等々の世界をうならせた著作は、このようなエネルギーの持ち主でなければ生まれなかったのかもしれない。
それにしても60年代のヒッピーの先頭を走っていたのも若きオリヴァー・サックス先生であったという話は、ヒッピー文化の多様性と深さを知るうえで大いに参考となるエピソードといえるだろう。
Posted by ブクログ
「レナードの朝」等の医学エッセイで有名なオリヴァー・サックスの自伝。両親が医者の家庭に育ち、紆余曲折の後、脳神経科の医者として診療を行いながら数々の症例をエッセイで紹介し、作家として才能を発揮する。
彼は仕事の傍ら、オートバイツーリングに熱中したりウェイトリフティングに熱中したり、世界中を旅して廻る等、とにかく一つの事に熱中しやすく、精力的に行動するタイプの人だったようだ。いろいろな経験を紹介しているが、彼自身が人生を通じて最も熱中したことは、「書くこと」であり、日記・論文・手紙・本等で自分の考えや経験を「記録すること」がライフワークだったようだ。付録では、旅行中のベンチやドライブ中の車の屋根で書いている様子が紹介されている。写真も趣味だったというから相当な「記録魔」だったのだろう。人の顔が覚えられない等の持病もあったようだが、それでも交友関係を広く長く続けられたのは、彼の記録癖のお陰かもしれない。病気に冒された人達でも、人間としての可能性を信じて前向きに治療に取り組み、それを紹介してベストセラーとなった本の成立から発売までの裏話、後日談など、いろいろ興味深い話が出ていて大変面白かった。
晩年の記述が少ないのと、性的な遍歴(本人にとっては重要なのかもしれないが)は不要と思うけれど、精神科医師らしくかなり自己分析的な内容で事後の考察も細かく(論文や本の言葉の数まで記録している)、自伝として秀逸な本だと思う。(翻訳も大変判りやすくて素晴らしい)昨年、惜しくも癌で死去してしまい、彼のエッセイが読めないのがとても残念だ。