【感想・ネタバレ】医療政策を問いなおす ――国民皆保険の将来のレビュー

あらすじ

地域医療構想の策定や在宅医療・地域包括ケアの推進など医療制度改革が矢継ぎ早に進められている。そして2018年には、次期医療計画や医療費適正化計画の策定、改正国民健康保険法の施行、診療報酬と介護報酬の同時改定など、一連の改革が結節する。そうしたなかで、国民皆保険を堅持するために、今、我々は何をなすべきなのか。医療政策の理論と実務に通暁した著者は、国民皆保険の構造の考察や人口構造の変容の分析を行い、わが国の医療政策のあるべき方向性と道筋を明快に展望する。医療問題に関心をもつ人すべてにとって必読の1冊。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

まじめな本。医療制度について概観するにはよいし、著者の意見についてもごもっとも

75歳以上:後期高齢者医療制度
75歳未満:被用者保険と国民健康保険の二本立て。被用者保険の保険者としては、大企業の被用者が加入する健康保険組合、中小企業の被用者が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)、公務員らが加入する共済組合がある。
国民健康保険は75歳未満で被用者保険の対象でない者が対象で、住所地の市町村が運営する国民健康保険に加入する。
生活保護の受給者は国民健康保険の適用が除外されるが必要な医療は生活保護法に基づく医療扶助でカバーされる
すなわち、日本国民は全員、いずれかの医療保険制度に強制的に加入している

2012年度の国民医療費39兆円。保険料が19兆円(49%),公費15兆円(39%、うち国庫は10兆円で26%)、患者負担5兆円(13%)

比較的健康で所得も高い者が加入している健康保険組合や共済組合に対しては公費の投入は行なわれていない。協会けんぽに対しては邦が給付費(自己負担を除いた部分をいう)の16.4%を補助している。国民健康保険は5割が公費で負担されている(国庫41%、都道府県9%)

2018年度からは都道府県が国保の運営の責任主体となる。毎年3400億円の公費が国から投入される。公費の投入によって所得水準や年齢構成の差による医療費の違いを調整するが、医療供給が過剰なための医療費高騰などについては保険料の差として反映されるだろう

後期高齢者は、1割が自己負担。5割が公費。被用者保険や国民健康保険からの支援金が4割

負担は三割だが、義務教育就学前の者は2割、70−74は2割(ただし、2014.3末までに70歳になっている者は特別措置として1割に据え置き)。75歳以上は1割。ただし70歳以上であっても現役並み所得者は3割負担。

1960年代半ばに岩手県沢内村で老人医療費の無料化が試行された。70年代に全国に広まり、72年に国の制度として実施された。これが過剰受診や社会的入院の増加を招いたとされる。平均在院日数も70年代になってから急伸し、介護や福祉が受け持つべき領域を医療がカバーすることになった。2002年にようやく自己負担1割になった。

2012時点で65歳以上は人口の24%だが医療費の57%を占めている

医療保険は社会保険なので、低リスク者から持病のある高リスク者へ、(定率負担なので)高所得者から低所得者へ、所得移転が起きている

延命治療を望む人の割合は1割程度だが、家族としての意見になると2割になってしまう。はっきりしているうちにリビングウィルについて話し合っていないため、家族としては重い決定を避けたがることになる。

医学部の増員は暫定処置ということになっており、2019年に見直される予定。2008以降の増員の効果がこれから出てくるのと、人口減少によって2030には医療需要は飽和するため、医師は余ってくるだろう

混合診療について。療養担当規則では保険医は厚労大臣が定めた医薬品以外の薬物を施用・処方できないことになっているし費用負担を求めることもできない。保険の考え方としては、一連の医療サービスは不可分一体のものであり、個別に切り分けて給付対象とすることは好ましくない。つまり保険で認められている診療に保険外のものを組み合わせた時点で保険診療の行為は給付対象にならない。(2011の最高裁判決で決着済み)

現在は混合診療が禁止されているからこそ会社としては保険収載されるように多額の治験費を投入しているし、薬価に不満があっても受け入れている。しかし混合診療が解禁されたら特に癌など患者が多額の治療費をすすんで払うような分野ではわざわざ保険収載を目指そうとしなくなるだろう。価格は高止まりし、利用できる者が限られることになる。

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2016年02月04日

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