あらすじ
『そして父になる』の是枝裕和監督、その原点となる傑作ノンフィクション! 本書は、世界的に評価される是枝裕和監督自ら、“原点”と位置付ける記念碑的作品である。初のディレクター作品となったドキュメンタリー番組『しかし…福祉切り捨ての時代に』(1991年)の放送後、取材を重ねて29歳で執筆したノンフィクションで、題材はある高級官僚の生と死。水俣病訴訟を担当し、1990年に自ら命を絶った官僚・山内豊徳の歩みを丹念に辿り、「人はいかに時代と向き合うべきか」を問うた普遍的な作品となっている。映画作家・想田和弘監督はこう評す。“読後感は、上質な小説か劇映画のそれに似ていて、(中略)是枝の手による「山内豊徳」像は、フィクションとノンフィクションの区別を越えた「表現」に昇華されている” 刊行から22年――。是枝監督の“原点”はいま、何を問いかけるのか。本書は1992年刊行の『しかし…』を改題し、2001年刊行の『官僚はなぜ死を選んだのか』をもとに加筆・修正したもので、今回の出版に際しては、是枝監督による「刊行にあたって」、想田和弘監督による「解説」を新たに収録。すでに読まれた方にも、再読を勧めたい。
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Posted by ブクログ
1990年12月5日 厚生省企画調整局長 山内豊徳 自死
53歳。
文庫になる前の”しかし…ある福祉高級官僚 死への軌跡”を読んだ時にも感じたやるせなさ。
抜群の成績の高校時代に戻って、自分のなりたかった医者になるべく九州大学の医学部に進んでいたら…。
でも、著者の是枝監督は、中学、高校時代の彼の詩に
死の匂いを感じとっている。なぜ。
官僚になるには、あまりに純粋で気配りの人すぎた。
でも、ほんとうはこういう人こそ官僚にいてほしいのだ。
Posted by ブクログ
今は「そして父になる」などで有名な映画監督、是枝裕和の原点は、フジで放映されたドキュメンタリー番組「しかし…福祉切り捨ての時代に」(1991)。
この本は、この番組を詳細に描いたものだ。
水俣病に関わった厚生労働省の高級官僚、弱者を前に常にひたむきに真摯に向き合った男が、その経歴ゆえに省の中で上りつめてゆく。
しかし、上に上がれば上がるほど、国を動かすために逆に弱者を切り捨てる政治が待っている。
優しさゆえに、その間で翻弄される一人の男。
やがて選択せざるを得なくなる自死への道。
番組を作る過程で、是枝氏本人が大手テレビ局員ではなく、外注スタッフと分かった時から、蔑む人の目。
人を見ず、肩書きばかりで見る社会は、本書の主人公も是枝氏にも生きにくかったのであろう。
「しかし…」現状に抗うために吐く言葉は、社会と向き合うために闘うためのものでもある。