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『そして父になる』の是枝裕和監督、その原点となる傑作ノンフィクション! 本書は、世界的に評価される是枝裕和監督自ら、“原点”と位置付ける記念碑的作品である。初のディレクター作品となったドキュメンタリー番組『しかし…福祉切り捨ての時代に』(1991年)の放送後、取材を重ねて29歳で執筆したノンフィクションで、題材はある高級官僚の生と死。水俣病訴訟を担当し、1990年に自ら命を絶った官僚・山内豊徳の歩みを丹念に辿り、「人はいかに時代と向き合うべきか」を問うた普遍的な作品となっている。映画作家・想田和弘監督はこう評す。“読後感は、上質な小説か劇映画のそれに似ていて、(中略)是枝の手による「山内豊徳」像は、フィクションとノンフィクションの区別を越えた「表現」に昇華されている” 刊行から22年――。是枝監督の“原点”はいま、何を問いかけるのか。本書は1992年刊行の『しかし…』を改題し、2001年刊行の『官僚はなぜ死を選んだのか』をもとに加筆・修正したもので、今回の出版に際しては、是枝監督による「刊行にあたって」、想田和弘監督による「解説」を新たに収録。すでに読まれた方にも、再読を勧めたい。
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Posted by ブクログ
今や「世界のコレエダ」的な人が一介のテレビ制作マンだったときに書いたもの。初めて自分の手で制作した番組をきっかけに(故人として)出会った山内豊德という厚生官僚の軌跡を追ったルポルタージュ。是枝さんについては、「誰も知らない」「そして父になる」「万引き家族」といった作品から、自分の興味関心と重なるところがありそうだと思いながらも、各作品が話題となることから若干あざとい人という印象ももっていた。でもこの本を読んで、素直にこの人の底を成しているものは信じられると思った。こんなふうにも書いているし。
テーマやメッセージといった言葉で作品を語ったり、語られたりすることは好きではない。なぜならそのようなものに回収されてしまう作品は、人間そのものの描写が弱いからに他ならないのだと、いつも映画を作りながら考えているからだ。物語やテーマの為に人間がいるのではない。それは私たちの生がそうであるように、生はただ生としてそこにゴロッと転がっているのだ。そのような人間を映画の中で描きたいと思うようになったのは、もしかするとこの一冊目のノンフィクションでの一組の夫婦との出会いが、無意識のうちに僕にそうさせた遠因なのかも知れない。(p.8)
この本では、福祉に、そして(図らずの)晩年には水俣病問題に深く関わった山内氏の厚生官僚として日々が描かれる。それはそれでその誠実な仕事ぶりに胸を打たれるし、こういう人が自ら死を選ぶことになってしまうことに憤りを感じさせる(と同時に、なぜ死んでしまったのかとも思う。生きてもうひと踏ん張りすることはできなかったのかと……)。
それとともに、夫婦の絆に触れられることにも大きな価値を感じている。撮影がらみで、亡くなった夫のことを聞きに来た若き日の是枝さんに「公共」という言葉を使い取材を引き受けてくれた妻の偉大さを感じさせる。
山内氏の著書からなど引用が多かったり、読みものとしてのこなれた感はいまいちなのだが、それがこの本のよさだろう。思いはもちながらも術をもたず不器用だった若者らしさが感じられ、それをその成長した姿と引き比べるとき、何が人を成長させるのか、言い換えれば成長できる人は何をもっているのかということも感じられると思う。
Posted by ブクログ
【読書その73】厚生省の大先輩である山内豊徳氏を知ったのは、大学時代。父の本棚に山内氏の著書「福祉の国のアリス」を見つけて手に取った時である。その本は厚労省に入り、福祉をやりたいという自分の気持ちを大いに奮い立たせるものだった。
その後、この文庫「雲は答えなかった」というタイトルに変更される前の「しかし・・ある福祉高級官僚 死への軌跡」を手に取った。そのときの自分の想いと現実に阻まれて死を選んだ山内氏の衝撃は今でも覚えている。
あれから約10年。自分も来月で社会人10年目。家族を持って、この本を読んで感じるものも明らかに変わった。自分の想いと現実との狭間、レベルは違えど役人であれば必ず経験するはず。今後自分も色々な場面で経験するだろうが自分に嘘をつかずやっていきたい。
Posted by ブクログ
図らずも、初是枝作品が、映画でなくこれになってしまった。
NHKクローズアップ現代の対談見てから一気にエンジンかかり、調べればいくつものご著書が!原点とも言える作品、なんて発見しちゃったら読まずにいられない!
朝日新聞のコラムも目にして、”公共圏を豊かに”のフレーズにその関心が集約されている予感もあり、もう是枝沼にハマることは決定した、というところです。
込み上げる激しい感情は今回なかったものの、静かな熱さにはやはり涙するばかり。誠実な人は誠実な人を引き寄せるんだなと、まさに出会いは鏡、詩を愛する山内氏と文学部出身の監督との共鳴とも言える洗練された文章と詩の味わいも加わって。
もうこれは、一介のノンフィクションではなく、エッセンシャルな作品です。
最後のエピローグ、亡くなって数年後の奥様の言葉が、シンプルに、純度高く、心に沁みた。
「生は生としてそこにゴロっと転がっている」監督のそのスタンス、映画、追いかけます!
Posted by ブクログ
エリート官僚の自殺を、その人生を丹念に追うことで描いた作品。
主人公(山内さん)は、官僚として出世をしていく中で、だんだんと理想やポリシー、優しさは、力を失っていき、むしろ邪魔になる。駆け引き、政治力などのバランスをいかに要領よくとれるか、いかに現実的に時に冷酷に現実と向き合い、自分のエゴを通せるか、その現実と理想のはざまでもみくちゃにされ、また体力的にも精神的にも限界が来て、遂に死を選ぶ。
まさに政治の世界は妖怪魑魅魍魎の世界、善意、倫理感だけでは生きていけない、自分を客観的にみて常に世の中との距離を測りながらコントロールしていく冷静さ、冷酷さがないといけないのだと感じた。
奥さんがいっているように、なぜ死んだのかは全くわからない。若き是枝さんも原因を無理やりつけるようなことはしない。死を選んだことの本質的な説明は、本人でも説明できないのではないか。論理的なものではなく、本能的な死のようにも思える。
時代の空気感、今の時代よりもより経済的な部分が精神的な部分よりも、当然勝っているという世の中の風潮が強かった。ということを感じる。
また、新婚のころから奥さんに仕事の話をしない、山内さんの責任感の強さ、弱音を吐かなく、自分の信念に沿ってやりきる心が、裏目に出てしまったのかなと思った。
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