あらすじ
現代日本の思想が当面する問題は何か。その日本的特質はどこにあり、何に由来するものなのか。日本人の内面生活における思想の入りこみかた、それらの相互関係を構造的な視角から追求していくことによって、新しい時代の思想を創造するために、いかなる方法意識が必要であるかを問う。日本の思想のありかたを浮き彫りにした文明論的考察。
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Posted by ブクログ
1961年発行だけど、ちっとも古くない。
日本における思想の特徴は”歴史的に構造化されない雑居性”にある。「神道」は、その時代に有力な宗教と習合して教義内容を埋めてきた。明治以降の近代日本は、底辺の共同体的構造を維持したまま天皇制官僚機構にリンクさせる統治技術を導入し、国家秩序の中核自体を精神的機軸(→国体)とした。近代日本は権力(国体)と恩情(伝統)との統一によって運転されてきた。従来の共同体に見られる「タコ壷」を天皇制がつないできたが、戦後は天皇制が無くなりマスコミが共通の言語・文化を作り出すようになった。日本の伝統である思想的雑居性は「全体主義」「民主主義」「平和主義」を同時に包摂するため、否定的な同質化(異端の排除)の面でだけ強力に働く。また日本では、自分の生活と実践の中から制度作りをしていった経験に乏しく、制度そのものが一人歩きし前近代的な規律主義思考(理論信仰、制度の物神化)となり、本来の民主主義からは倒錯した形態をとるようになった。
Posted by ブクログ
前半の二編は論文調で後半の二編は講演調であり、わかりづらい前半を我慢して読み進めると、後半で一息に面白くなった印象がある。日本人の特殊な精神構造を分析した本で、簡単に要約すれば、以下のようになるに違いない。著者のいう「ささら型(共通の伝統から専門に細分化する形)」として思想が発展してきた西欧に比べ、日本は「蛸壺型(没交渉なものが乱立する形)」と言える。というのも、日本が開国し、西欧に追いつくために盛んに西欧の思想や知識を吸収した際に、日本には西欧にあるような確固とした精神的支柱とも呼べるような思想なりが欠如していた。古来からの儒教的思想や仏教、神道的な思想は西欧のもつキリスト教を背後にする思想に比べると弱く、外と内でのせめぎ合いが生じることはなかった。そのため、日本人は外からのものを無批判に受け入れてしまった。戦時中となると、ここに「國體」が創設され、今まで日本人が持っていなかった精神的支柱のようなものが急ごしらえされ、これをもって日本人の思想的統一が試みられた。そしてこのことが日本の戦時中の悲劇を生んだひとつの原因となった。戦後、天皇を頂点とする「國體」が解体されたことで、再び日本人は奇妙な思想的状態にある。そこには古く江戸時代から続く、家柄などでひとを評価する「である」型の思想と、一方で、行動に価値を置く「する」型への思想への発展が混在している。また、共通の思想的流れを持ち合わせないところに、すでに専門化されたものを外から受け入れたため、多くの「蛸壺」を作る結果となり、日本の社会では、学問の世界や企業などにおいても、横のつながりが弱い特徴をもつ。
Posted by ブクログ
〇要約(~71頁)
日本の民俗信仰である「神道」は、かねてよりその時代に有力な宗教と習合してその教義内容を埋めてきた。このような「神道の無限抱擁性と思想的雑居性」が相互に矛盾し得る哲学や宗教、学問等を平和共存させる思想的寛容の伝統の下に受け入れたため、新思想は無秩序に埋積され、近代日本の精神的雑居性は甚だしいものとなった。また、思想や価値観というのは、他からの刺激があって初めて自覚的で意識的なものとなるが、我が国ではかつてより他との関連の中で、自己を歴史的に位置づけるような思想に乏しかった(あったとしても断片的なものであった)ため、開国後西洋文化と対決することもなく、むしろ、自国の思想的伝統を曖昧なものにしたのである。
開国後近代化に伴い、日本では、近代社会の必須要請である機能的合理化(ヒエラルキーの成立)と家父長的あるいは情実的人間関係という相互に矛盾し合うバランスを上からの国体教育の注入と下からの共同体的心情の吸い上げによって調整していく統治技術が求められた。そして、上述ように、我が国の確固たる思想や精神が確立されないまま、近代天皇制が精神的機軸としてこの事態に対処しようとしたが、私たちの思想を実質的に整序する原理としてではなく、むしろ否定的な同質化(異端の排除)作用の面だけで強力に働いた。
すなわち、日本は、基底に共通した伝統的カルチュアのある社会ではなく、最初から専門的に分化した知識集団がそれぞれ閉鎖的な「タコ壺」をなす社会なのである。
とにかく難解。1度読んでも内容が理解できず、2度目に何が分からないかが分かり、3度目にようやく文章の論理や内容がところどころ理解できるようになるレベルであると感じた。普段用いない用語が多いこともあって、言葉を読めてもその具体的意味が頭に入ってこないことが一つの要因なのかもしれない。
日本では昔から、他との関連の中で、自己を歴史的に位置づける思想に乏しかったとあるが、その要因として、日本が海洋国であることや特に江戸時代には鎖国体制にあったことが考えられ、そのことが本書には記載されていないが、このようなことはおそらく当然の前提としているのであろう。
難解な文章ではあったが、「制度」と「精神」の関係(40頁周辺)は勉強になった。政治や経済の制度「それ自体は世界共通であっても、人間関係が介在した制度はすでにカルチュアによって個性的な差を帯びる」ため、何らかの制度を創設、分析する際には、制度における精神(制度下にある人々の精神)を含めた全体構造を検討する必要があるというのは、政策を立案する時には頭の片隅に置いておきたい事項といえるであろう。