あらすじ
地方のキャバクラで働く愛菜は、同級生のユキオと再会。ユキオは意気投合した学と共にストリートアートに夢中だ。三人は、一ヶ月前から行方不明になっている安曇春子を、グラフィティを使って遊び半分で捜し始める。男性を襲う謎のグループ、通称“少女ギャング団”も横行する街で、彼女はどこに消えたのか? 現代女性の心を勇気づける快作。
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Posted by ブクログ
アイナの気持ちがよくわかる。誰からにも相手にされないと自分には価値がないんじゃないかと思えてくる。他者からの評価が自分の評価だと思い込んでしまってるがゆえに彼女は誰かに依存し続けなければならない。でもなぜそういう思考になったのか?私にはわかる。小学生低学年まで私たちは人間として扱われてきた。しかし、中学にあがると自分がどういう人であるかの前に女という目で見られる。親も先生も周囲の人たちも女としての行動を少女たちに求めるようになる。そうしていくうちに女としての評価がイコール自分の評価なのでは?と思う。少女向けの本にだって モテるにはさすが〜!すごいね〜!ってオーバーリアクションで言うと記載されてる。ティーン向けの雑誌だって男ウケが良いメイクはこうって特集が組まれている。はぁ〜私たちはやっぱり女として評価されてこそ生きてる価値があるんだって思い込むのも当たり前な気がする。ラストは現実味がないけど世界の少女たちに「あなたたちは生きているだけで価値があるし美しいよ」って言ってるみたいで好き。
Posted by ブクログ
◾️record memo
愛菜は困ったように笑う。この店での愛菜は年下の道化キャラだから、自分を卑下したり自虐したりはお手のものだった。もちろんあとで、ちょっと死にたくなるけど。
地元を離れたものの地元の仲間との縁が切れるのが心配で、SNSでしきりに帰省をアピールし同級生と会う約束を取り交わした。連日郊外のファミレスに集い、深夜までぐずぐずとダべった。そのときにユキオは気づいたのだ。つまんねえって。もう賞味期限が切れている人間関係にしがみつこうとしている自分がみっともなくて嫌だった。それっきり地元には帰っていなかった。
ユキオはあまりに空虚なそのメールを無言で見つめた。自分の便利さを強調して安く売り込むなんて、まるでデリヘルのチラシだな。
あのころ『青春アミーゴ』はクラス中で流行っていた。ユキオも意識して、わざとイケメンと名高い同級生と絡んだりしたものだ。その方が女子にウケるから。女子が背格好の似た相手を友達に選ぶように、ユキオも外見のレベルが同じくらいの奴と意図的につるんだ。クラス替えのたびに相方は入れ替わり、全員いまではほとんど音信不通だけど。
今井さんは突然、思い出したように言った。
「小学校のときさぁ、将来もし誰かと結婚したら、自分の親とかきょうだいと、同じお墓に入れないって知ったとき、あたしとあんたと、あとひとみで」
今井さんは、みんなに囲まれながら花束を抱えて、幸せいっぱいの笑顔を浮かべている杉崎ひとみを指し、
「この三人でさぁ、抱き合ってうわああんって泣いたの。憶えてる?」
そうだ、そんなこともあった。
まだほんの十歳ばかりのとき、宇宙が怖いとか、死ぬのが怖いと戦慄するブームの次に、それはやって来た。お父さんとお母さんと一緒のお墓に、自分だけ入れない。それを知ったときのあの、心と体が真っ二つに引き裂かれるような感覚。春子はその記憶を思い出した瞬間、またあのときみたいに、三人で抱き合って、びいびい泣きたい気持ちになった。こんなふうにひとみの結婚式の二次会に、他人行儀な顔で突っ立ってるんじゃなくて、おめでとうの代わりに抱き合って思いきり泣きたいと思った。女の子特有の、ヒステリックな感情の昂りをダダ漏れにさせて。
洋服にかける情熱は年々薄まっていき、最近はユニクロとしまむらでクローゼットの大半がまかなわれるようになったものの、可愛い系OLの通勤ファッション着回し一ヶ月分を眺めると、抵抗感でいっぱいになった。こんな女になりたくない。これはわたしじゃない。
この違和感はなんだと思いながら、春子は雑誌をパタリと閉じて、平積みのいちばん上にそっと戻した。普通のOLになるのってほんと難しいんだな。でも、難しいだけで、決して楽しくはない。なんでこんなに楽しくないんだろう。
でもそれじゃあ、自分は一体、なにになりたかったんだろう。どういう大人になりたいと思っていたんだろう。
愛菜はあの旗に使われていた行方不明の女の子たちが、本当はみんな、ムカつく現実から逃げただけで、誰に殺されたわけでもなく、変質者に監禁されているわけでもなく、みんなどこかで元気に楽しく、へらへら笑いながら生きていることを祈った。
祈り、そして確信する。
そうでなくちゃ。
絶対にそうでなくちゃ。
だってそうでなきゃ、悲しすぎるでしょ?
Posted by ブクログ
偶然見かけた行方不明者「アズミハルコ」のグラフィティを中心に、地方に住む"必要とされたい"人たちそれぞれを描いた話。
愛菜たちと春子たちの2つのパートがあったが、年齢が近いこともあり、私は春子の気持ちにとても共感した。
曽我氏との、あったかなかったかわからないような関係性が切れた時の無力感、そして無力感から来る喪失感。社会人になると、学生ほど良くも悪くも距離が近くなりづらい。普段はさほど気にならないが、ふとした拍子にすごく大きなダメージを与える。そんな普段言いえない気持ちがとても明確に描かれていたように思う。
愛菜と春子は全然違う性格だが、言葉を選ばずにいえば男に必要とされたいという点で共通していて、最終的に今井さんも含め女性たちで力強く生きていく描写が良かった。
また、最後の愛菜のセリフ「行方不明の女の子たちが、辛い目にあっているのではなく、ムカつく現実から逃げて、ヘラヘラ楽しく生きていることを祈った」というのが前向きな結びとなっていて、作者からのエールというか、この作品の核のメッセージじゃないかなと思った。
山内マリコさんの作品はこれで二作目だが、具体的な名称(「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」など)の使用、特に繊細な女性の心理描写、いわゆる"地方"に生きる人達の描写がすごくリアリティがあり、ページをめくる手が止まらなかった。