あらすじ
声楽を志して音大に進学した御木元玲は、自分の歌に価値を見いだせなくて、もがいている。ミュージカル女優をめざす原千夏は、なかなかオーディションに受からない。惑い悩む二十歳のふたりは、突然訪れた「若手公演」の舞台でどんな歌声を響かせるのか。名作『よろこびの歌』の三年後を描き、宮下小説ワールド屈指の熱量を放つ青春群像劇、待望の文庫化! 解説を執筆したキャラメルボックスの成井豊氏も「凄い作家に出会ってしまった」と大絶賛。本書を読み終えたあなたは、奮い立たずにはいられない! 解説/成井豊
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Posted by ブクログ
「よろこびの歌」の彼女らが帰ってきた。よりパワフルに、より人生をしっかり踏みしめて。
大人(成人という意味で)になって帰ってきた。でも決して順風満帆とはいかず、彼女らはそれぞれ、彼女らの境遇に不安や鬱屈を感じて一所懸命生きている。
最初は「元気がなかったり、悩んでたりする彼女らをもう一度読み直すのはイヤだなぁ」と思って、ページも進まなかったのだが…1ページ1ページ進むごとに、違ってくる。エネルギーというか生きる活力というか、(これを言うとホンマジジイを認めてしまうのだが)若さゆえの回復力というか。
読んでるこっちまで元気が与えられる。実家帰ってうどん食ってしっかり寝たら、明日から何とかなりそうな気がしてくる。なんでこの子らこんなに元気なんだろう…。
そうか、歌を信じているから、信じることにした友人を徹底して信じぬくから、がんばれって言葉がお互いを責めたりしないから。だからこそ。
そその根底には、やっぱりヒロトとマーシーがいた。30年前の歌が色あせずに、心を震わせる。宮下奈都の筆によってさらに強力になって…。
外角は、それと隣り合わない内角の和に等しい…。この定理を歌って人の心を震わせることができるのは、ヒロト&マーシーと宮下奈都だけかもしれない。
Posted by ブクログ
『よろこびの歌』から3年、主人公たちが20歳を迎えるその時を切り取った青春物語。宮下奈都が創り出す彼女たちの静かなあがきが、部分部分を紡ぎながらクライマックスに向かっていく流れは、全体が音楽そのものだ。
高校時代でそれぞれの想いに決着をつけた彼女たちは、次のステージでまたそれぞれ悩みを抱えながら生きていく。けれどもそこには区切りをつけたからの悩みや思いが渦巻く。あるメンバーは偶然出会った人物とのつながりに感銘を受け、あるメンバーは友達とのやりとりの中で新たな気付きを得ていく。
「こうじゃなきゃならない」あるいは「どうしてもあそこには行けない」という思い込みが、他人と触れ合ったり、論じたりすることで新たな思いを得て、また相手にも新しい思いを思い起こさせる。そしてそこにはいつも音楽が介在している....
もう一つ、本書を本書たらしめている、あるいは宮下奈都作品の真髄かもしれないのは、やっぱり相手を信用しているということだ。シーン上心ない言葉なども登場はする。しかし、友達同士、あるいは家族親族の間の会話では、冗談でも相手を刺すような会話にはならず、「でもこうなんじゃない?」「きっとこういうことなんじゃない?」といった方向を転換する会話になっていくのだ。だから、心配があってもまた救ってくれる、救ってくれたという安心感や気持ちの開放感を感じることができる。
中間の盛り上がり部分では、3年ぶりの同窓会でその思いがぶつかったりすれ違ったりしながら、彼女たちならではのつながりであらたな渦が生まれ、さらに一段昇華していく。
御木元玲や原千夏が歌うシーンはもう作者の想いが満ち溢れている、というか爆発している。それまでの思い悩んだ姿は一掃され、完全に彼女たちの世界に浸っている。そしてそれがその時々で周囲に評価されるのだ。
特に、玲がオーディションを受け、次々と曲を歌い上げるところ、個人的には一番の山場と思っているのだが、仁科の想像を次々と覆し思わず次の曲を歌ってしまう流れは、転調してもう一段盛がるjoy to the worldそのものの展開で、こちらも涙が止まらない。
そしてそして、やっぱり歌を歌おう!と決意するところで晴れやかに明るい光が差し込み、未来への道が開かれるのだ。
本書は、物語に挿入される楽曲をイメージするとさらに楽しめます。是非時々でYoutubeなどご覧ください。
Posted by ブクログ
よろこびの歌の三年後。
御木元玲は音楽学校に入っているが、クラスで1番ではなく、色々と迷いながら進んでいる。歌が上手くなるために、必死でやろうとするが、何をしたら歌が上手くなるのかがわからず、色々と挑戦してみる。そこに千夏や3年前の同級生が絡んで、より悩みを浮き上がらせている。読んでいて気持ちよくなる作品。