あらすじ
双子の兄弟のなきがらが埋まったこぶを頭に持つ彼を、人々は〈墓頭(ボズ)〉と呼んだ。数奇な運命に導かれて異能の子どもが集まる施設に入ったボズは、改革運動の吹き荒れる中国、混迷を極める香港九龍城、インド洋孤島の無差別殺人事件に現われ、戦後アジアの暗黒史で語られる存在になっていく。自分に関わった者はかならず命を落とす、そんな宿命を背負った男の有為転変の冒険譚。唯一無二のピカレスクロマンがいま開幕する――。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
生まれながらに彼は墓だった。
失踪した父を探す「僕」は、手がかりとなるボズという男もともに探す。
新実探偵とともにアジアの無名の島に辿り着き、養蚕家からボズの物語を人生の始まりから聞かされる。
常に死が纏わり付くボズの人生
施設で出会った忘れられない人々
霊感少女アンジュ・サワラ兄弟・天才ヒョウゴ
九龍城での惨劇
アンジュとの束の間の蜜月は狂ったヒョウゴとの再会で終わりを告げる
新実探偵と養蚕家の正体は……
Posted by ブクログ
日本、香港、カンボジア、インドネシア、舞台は心惹かれるところばかり。
壮大な物語、あり得ない登場人物の人生、行動。
ぶっ飛んだリアリティを感じたり空恐ろしくなったりアホくさく感じたり。
ボズの人生よりもユウジンの人生よりの方に、心が揺り動かされた。奇跡を期待しつつそれが起こらないことに納得しつつ、終盤になって奇跡が起こる。それやっちゃダメでしょという気持ちと、でもそれが尻切れとんぼにならない大仕掛けで天晴れという気持ちと。
Posted by ブクログ
☆4.0
生まれながらに頭に大きな瘤を持つ男は、戦後のアジア各地で都市伝説のように「墓頭(ボズ)」の名を裏社会に刻みながら時代を駆け抜けた。
その瘤は産まれそこねた双子の兄弟の体を包含し、その死体を墓として呪いのようにボズを"自ら以外の周囲の死"に呪縛し続ける。
彼の人生は瘤の死体を取り除くという命題に縣けられていた。
周囲の人物たちに死をもたらすのは、自分が墓である―頭の瘤に死体がある―ためだと考えていたからだ。
死んだ友人の伯父に支援され、異能を持つ子どもが集まる「白鳥塾」に滞在した間も、子どもたちからでさえ特殊な存在として捉えられていた。
この白鳥塾でのいくつもの出会いが、ボズの命題を叶えるための数奇な運命を、さらに破滅的で暴力的なものにしてゆく。
これはまさにピカレスクロマン。
長い作品だがあっという間だった。
汚いもの、残酷なもの、凄惨なものの描写にちょっと、いやかなり、鼻白む瞬間はあるものの、読ませる力が強いので、先を先をと急いでしまう。
あるスランプドはまり中で精神不安定な作家が、父親の失踪を調べるのをきっかけにボズに行き着く。
調査の末ボズを知る人物に出会い、その人物が語るボズの一代記を記すという形式で書かれていて、その外枠の「ボズを語る彼は一体何者だ?」という謎も、ボズの一代記の魅力に劣らない牽引力を持っている。
読んでいて、ボズがどんな人なのか捉えにくいように思ったけれど、それはきっとボズ自身にもわからないことが多すぎたからなんだろう。
その時々でどのような思いだったんだろうと考えれば考えるほど、ボズの輪郭は曖昧になって、その謎に放り込まれてしまった。
それに対して、この作品で書かれている戦後アジアの空気がとてもくっきりと濃く、息苦しくなるくらいだった。
ホウヤ伯父やヒョウゴもこちら側の濃い存在感で、彼らとボズの対話があるとき、ボズの曖昧さが極限まで強まる。
だからこそボズの思いの発露に触れたとき、感動に近い気持ちを抱いた。