【感想・ネタバレ】無明長夜のレビュー

あらすじ

“御本山”の黒い森をみつめて、白い闇の道を歩いた女の20年……。一種底の知れない、暗く混沌とした世界の中で、病める魂の咆哮を聞く芥川賞受賞作『無明長夜』。“捨てる”ことを根源に、自らの道を開こうとした著者の、戦後の出発を語る『豊原』。ほかに『寓話』『終りのない夜』など、新しい世代の世界とイメージを持って、多様な才能を遺憾なく発揮した作品群。ほか『静かな夏』『生きものたち』『わたしの恋の物語』全7編を収める。

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Posted by ブクログ

芥川賞を受賞した表題作、他6編。

 寓話(1966年)
 豊原(1967年)
 静かな夏(1967年)
 終りのない夜(1968年)
 生きものたち(1970年)
 わたしの恋の物語(1970年)
 無明長夜(1970年)

巻頭、1966年のデビュー作「寓話」と、
次の「豊原」は素晴らしく面白かったが、
読者としてはページを捲るごとにトーンダウン。
ともあれ、個人的に特に重要と思われる3編について。

■寓話
 偏屈な書家・桑木石道はカルト的な人気を誇りつつ、
 奇行で知られていた。
 年の離れた若い妻・裕子と、
 結婚前からの住み込みの家政婦・浜と共に
 静かに暮らしていたが、
 あるとき胡散臭い若者・多田が居着き……。
 *
 何の寓意なのか見当もつかないが、
 息の長い文体で奇妙な成り行きが淡々と綴られていて、
 半笑いでスルスルッと読み進めてしまった。
 最初は気難しい芸術家が周囲を振り回していたのだが、
 彼もまた運命に翻弄される一個の無力な人間だったということか。

■豊原
 タイトルは日本の領有下における南樺太の市で、
 現在の名称はユジノサハリンスク。
 父の仕事の都合で豊原へ移住した「僕」だったが、
 そもそも母には奇矯なところがあり、
 「僕」は母とどう接すればいいのか悩んでいた。
 *
 《毒親》という言葉が人口に膾炙した現在の方が、
 読者の理解が得やすかろうと思われる、
 うら寂しい物語だが、
 相互に愛情が感じられず、手枷足枷になる一方なら、
 子が親を捨ててもいいではないかと、私も考える。

■無明長夜
 語り手である30歳くらいの女性「私」は、
 御本山と呼ばれる田舎の大きな寺・千台寺を擁する
 山に焦がれていたが、
 宗教上の信仰とは違う性質の、
 名付け得ぬ畏敬の念に打たれてのことだった。
 夫の失踪後、一人暮らしを始めた「私」の中で、
 御本山への憧れが再燃したのだが……。
 *
 序盤の思い詰めた風な語り口に引き込まれたが、
 感情移入しにくいキャラクターであり、
 終盤の展開は作者が着地点を考えあぐねて
 力技に持ち込んだ感が否めない。
 この点については解説者・白川正芳も、また三島由紀夫も
 「小説とは何か」(1968~1970年:新潮社『波』連載)
 で指摘している。

「終わりのない夜」や「わたしの恋の物語」には
初期の倉橋由美子作品にも通じる、
読んでいて生理的嫌悪感を催すテイストがあった。
邪推だが、
現代より遙かにコテコテの男社会だった文学界で、
純文学(って最早何?)を指向する女性の作家は、
こういう斜に構えたスタイルを
取らざるを得なかったのだろうか。

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2020年11月08日

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