あらすじ
相次ぐ不幸の結果、当主のロデリックが去ったハンドレッズ領主館は、ますます寂れ、倹約を余儀なくされていた。残されたエアーズ夫人と令嬢キャロラインの身を案じるファラデー医師は、館への訪問回数を増やしていく。やがて、医師とキャロラインの間には、互いを慕う感情が芽生え始めるのだった。しかし、ふたりの恋が不器用に進行するさなかにも、屋敷では異様な出来事が続発する。事態は、最後の悲劇へと向けて、まっしぐらに進んでいくのだった……彼らを追いつめるのは誰? ウォーターズが美しくも残酷に描く、ある領主一家の滅びの物語。たくらみに満ちたブッカー賞最終候補作。/解説=三橋曉
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Posted by ブクログ
どこをどう受け取るかで、物語の見え方が変わってくる奥深い作品だった。
上巻のレビューで「これはホラーなのか?それともサスペンスなのか?」と書いたけど、下巻を読んで、その答えは読む人によって違ってくると思った。
他の方のレビューを読んでみると、自分とはまったく違う視点から物語を捉えている人もいて面白い。
そうした受け取り方の幅こそが、この作品の魅力だと思う。
私は、幽霊よりも人間の内面に強く恐怖を感じるので、上巻からうっすらと違和感を感じていた“ある人物”が鍵を握るサスペンスだと感じた。
下巻に入ってからのあの人物の内面からじわじわ滲み出ていたものは、自分にとっては1番恐ろしかった。
読者の想像力や読み方によって、この物語はホラーにもサスペンスにもなるし、“誰が”という見方までもが変わってくる。
解説の「カレイドスコープをのぞくような物語」という言葉がまさにぴったりの作品。
謎を解く探偵のような人物は登場しないので、すっきりとした結末を求める人にはオススメできません。
少し長く感じるところもあったけど、不気味な館に没入し、じわじわと忍び寄る恐怖を味わう時間はとても楽しかった。
Posted by ブクログ
夢中になって読んだけれど、途中からファラデーの結婚に対する突っ走り方があまりに独りよがりで、館と家族に関する彼の証言が信用できなくなり、何が本当なのか最後までわからなかった!
原題からするに、ベティがlittle strangerなんだろう。
ベティが館で働き出したことをきっかけに、館の中で澱んでいた負のエネルギーのようなものが力を得ることになり、家族それぞれの前に、それぞれが無意識のうちに恐れを感じたり執着している対象の形になって現れたのかな。とすると、キャロラインが叫んだ「あなた」は最初スーザンのことかと思ったけど、実は彼女はファラデーの幻影を見ていたのかも。結婚に対して怖いくらい前のめりだったから、キャロラインが彼に恐怖を抱いていても不思議ではない(キャロラインは最後、終始理性的に見えたけど)。
でも、この考えでは、なぜベティがそのきっかけになったかということの説明ができない。となるとやっぱりベティが全てを仕組んだということ?でもベティはあの家族をかなり慕っているように見えたのになあ。仕組む理由もよくわからない。うーん。
(となるとやっぱり全てはファラデー?littleていうのは、取るに足らない庶民の彼の形容詞なのかしら??)
解説には、嵐が丘と物語の骨格が似ているとの記載があって、この前たまたま嵐が丘を読んだばかりなので納得した。こうやって点と点がつながるのが楽しいよね。
Posted by ブクログ
結局、怪奇現象の原因は分からないまま。拍子抜けはしたけど、どうでもよくなるぐらい次々に起こる不幸に翻弄された。主人公が結婚しようと思ったのは館が好きやったからやんね、絶対!
最後の一文で主人公が厄を招いたと思ったが、解説を読んで、原題に注目したら…そういうことか!
Posted by ブクログ
下巻では主人公ファラデーと領主館の一人娘キャロラインの恋愛模様が描かれる中、相変わらず館は陰鬱な空気に満たされている。そして起こる悲劇。
真面目で、理性的で、思慮深い主人公。
それなのに、悲劇をますますこじらせ、ややこしくしているのは間違いなく彼であり、彼もまた狂気に蝕まれているのだとわかってくる。
ハンドレッズ領主館って一体なんだったのだろうね、というはっきりした答えがないまま物語は終えたが、そういう作品であることを前もって知っていたのでさほどショックはなかった。
が、しかし。
下巻の末尾にある、三橋曉氏の解説にて一つの疑惑が述べられた時には、ドキリとしてしまった。この作品に一つの解答を導くとするならば、多分それ以外の答えはないのだろう、だがしかし、という感じ。
確かに、原題の"The Little Stranger"の"Little"って何よ、と思いましたけどね。
Posted by ブクログ
買ってしばらく積んでいたのを読み始めたら一気に進んで、さっそく下巻を買ったら続きが怖すぎてまたしばらく放置した。
怖いって、この先に何が起こるかということ。不幸とか裏切りとか絶望とか手の施しようがないとか、そういう事態に、もうかなり自分が入れ込んでしまっているこの登場人物たちが、間違いなく突き進んでいっているのが憂鬱で。
憂鬱で夢も希望もないなりに、きちんと人生を歩いている人が、ふと見つけた謎めく相手にめちゃくちゃに心奪われて、期待をかけて信じて柄にもなくものすごい努力を重ねて、っていう姿にどうもずるずると共感してししまう。
なので、それがどうあっても叶わないのを、認めたくなくて足掻いたあげく裏切られて思い知らされて、それでも人生を続けざるを得ない、というのは、「半身」以上に登場人物が好きだったぶん、けっこう堪えた。
上巻の犬の事件での、「この先後悔することになる瞬間の最初が」みたいなくだりが何度も跳ね返ってくる。
領主館へのエアーズ一族以上の執着とかキャロラインへのぼろぼろの思い入れとか(よく考えたらかなり年の差があると言うかファラデーがいい年だった)、もうファラデー=主人公が一番あぶなっかしい、怖い、しかも本人気付いてなくてどんどん状況が悪くなっている、という一人称の小説で稀にある暗欝な緊張感が味わえた。
ただ、その、語っているのはファラデーだという点がいろいろと疑わしくもさせたり。
わかっていないふりもできるわけだ、とか色々。
最後の事件については「お前だよ」と思う。
それはそれで非常に苦々しい話ではあるけれども、逆にそうであった方がまだファラデーにとってマシだとも思う。完全に部外者のまま、あの館にどんな役割も持てなかったよりは多分。
キャロラインと庭を歩くいくつかの場面や、キャロラインに求婚して頷かれるくだり、ロデリックとちょっと親しくなったり夫人に騎士道精神を見せたり、そういうところどころ素晴らしい情景があるぶん、そもそも回想だというのと合わせてひたすら怪しいし悲惨。
Posted by ブクログ
お屋敷に怪奇現象とくれば、これはもう大好物。
どう読むかに関しては読者の手に委ねられているので、読後、「ねぇ、ねぇ、どう読んだ?」と聞いて回りたくなる。
私はといえば・・・・
おや、と気になる、突飛なというか異常ともいえるような行為があったので、上巻なかばからあたりをつけて読み進めていたため、ラストはああ、やっぱり・・・・・と納得。
超常現象をまじえたサイコ・スリラーとして読んだ感じ。
終盤で、登場人物のある決断に伴って件の人物の異常性が、これでもか、とあぶりだされてくるあたり、怖いのなんの。
そう見定めて読むと、原題の The Little Stranger の Little がとてつもない怖ろしさで迫ってくる。
とはいえ、もう一人のstrangerのほうも、手立てがあるしなぁ。
The Little Stranger by Sarah Walters
Posted by ブクログ
すっごく平たく言うとイギリス版『斜陽』+不可思議な現象かなあ。でもここに書かれているのは決して滅びの「美学」ではない。生まれながらにして背負わざるをえなかった重圧とそれによって歪まされていく人生にスポットが当てられている。
余談だけど、途中から主人公の空回りっぷりがありありと分かって読んでいて苦しくなった……。どうみたって結婚を申し込むタイミングがおかしいしお嬢様乗り気じゃないの分かるだろ……。
Posted by ブクログ
こういう終わり方というかこういう類の小説は好みが分かれると思いますが(僕は解決編的なものがあるほうが好き)、読ませますね。館にまつわるミステリと思わせておいて男やもめの奮闘劇でした。