あらすじ
だれもが「かし」と呼ぶ隅田河口のまちに、ひとつの秘密を抱いた青年が住みついた。そこに住む人にとって、「どこの誰か」よりも「どんな誰か」が大切なまち。そんなまちの心優しい人々とともに彼は暮らし、〈秘密〉から解放される日の来るのを待っていた。心ならずも魚河岸の町に身をひそめた青年と、まちの人々との人間模様を情感こまやかに描き出した長編小説。直木賞受賞作。
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Posted by ブクログ
第94回 1985年(S60)下直木賞受賞作。戦後の東京下町、隅田川河岸のまち築地を舞台とした物語。八つの話で構成されており、商売人やその家族が各編の主人公となっている。町の馴染みの衆のなかに、忽然と見知らぬ青年が現れるところから話が始まり、彼が何者であるのかの謎解き形式で物語が進む。
”河岸の土地柄”と”人と人とのつながり”を読者に意識させており、全体的に”橋”をモチーフとしているようである。
人情味が溢れる秀作。おすすめ。
しかし、築地の場所はいまいち把握できずにいたけど、新橋からも近いようなので今度歩いて行ってみよう。
目次)市場通り/門跡橋/築地川支流/波除神社/海幸橋/勝鬨橋/晴海通り/隅田河口
Posted by ブクログ
第94回直木賞。
築地魚河岸の小さなコミュニティ内の物語。いろんな人物が主人公になるオムニバス形式だが、物語はすべてつながっていて面白い。
第一主人公・鰹節問屋の坊っちゃんを中心に、江戸っ子の近所付き合いや、親子の付き合い、結婚や恋愛、いろんな秘密がかわるがわる登場する。
良くも悪くも隠し事のできない街・人々。本文中にも登場するが、秘密はいずれ明らかになってしまうのが世の習わし。
Posted by ブクログ
思いもよらず、良かった。というと、大変失礼だが、作者のことを全く知らず、たまたま手に取った作品。
築地と思われる魚河岸で生きる人々の様々な人生模様を、短編の連作として描いた作品。短編として一つ一つは独立しているが、全体としてのまとまりがある。ところどころの伏線も上手いし、前話で登場した人物の別の一面が他の短編で覗けるという味わい深いつくり。
鰹節商店の二階で人目を忍ぶように生きる男が、毎朝の早朝の散歩でマグロ中卸問屋のフクちゃんと知り合いになる馴れ初めは微笑ましく秀逸。
完成度の高い作品。直木賞受賞にも、深く頷く。