【感想・ネタバレ】誰でもないところからの眺めのレビュー

あらすじ

人間やめますか? それとも生き物やめますか? 生存本能を揺さぶる物語
大震災から4年、見えないところから壊れ始めているこの世界。気付かずに暮らすあなたが正気なのか。逃げ出そうとあがく彼らこそが正気なのか。いがらしみきおが、あなたの理性と感性と、そして何より生存本能を揺さぶる
――藻谷浩介(『里山資本主義』『デフレの正体』)

不安と不安と不安と、そしてその先の針のような希望と。リアルってこういうことをいうんだと思う。
――しりあがり寿(漫画家)

震災から数年経った東北の地。余震がしだいに強まり、住民たちに異変が生じていく……。
いがらしみきおの最高傑作。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

物語の舞台は震災後の宮城県の海沿いの街。老人や子供など、社会システムに縛られない人びとから奇妙な「揺れ」を感じ始める。揺れは次第に大きくなり、ガラスが割れ、鉄塔が倒れるといった具体的な崩壊現象へ発展するが、大半の大人には見えていない。しかしやがて揺れを感じる人が増えると、大人は言葉を失い、記憶を途切れさせ、本能のままに動き出す。最後は主人公たちがおめかしをして車で街を去る場面で終わる。

あとがきによれば、本作は認知症で亡くなった母親の最期を見つめ、「私ってなんだろう」という問いをテーマに描かれたという。つまり揺れや街の崩壊とは、認知症を患った本人の内面で現実が崩れていく恐怖の視覚化であったと解釈できる。大人が言葉を失い本能に還る描写は、人間が社会的役割を剥ぎ取られ、剥き出しの生命へ退行していくプロセスそのものである。「私」というアイデンティティ――名前、職業、過去の記憶――は、実は過去が作り出しているひとつのイメージに過ぎない。ラストのおめかしはその強固なイメージや執着をすべて手放し、まっさらな世界へ旅立つための静かな儀式なのだろう。

パースが狂い、人物の描き分けも曖昧な画風にも不気味さがある。綺麗に整った嘘の世界ではなく、混沌とした現実の生々しさを読者に追体験させる。ギャグマンガ家はホラー漫画家にもなれるというのはある種の真実である。

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2026年05月22日

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