あらすじ
兼業漫画家の晴奈のなじみのバーは、ビルの地下にある小さな店。常連の自称早期退職者・炭津は、晴奈の話に的確で親身な助言をしてくれる素敵な紳士だ。店主の柳井の話では、名探偵でもあるらしい。そんな彼が実は幽霊だということは、柳井だけが知る秘密だ。晴奈は、幼い頃に起きたある事件を炭津に語り始めるのだが……。温かく切ない余韻を残す大人のミステリー。
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Posted by ブクログ
展開が読めたけれど、ラストシーンにグッときた。
事件の犯人が探偵本人で、しかも幽霊と言う中々トリッキーな設定の割りには自然にはいってきたので、この人はお上手だと思う。
Posted by ブクログ
・その人が死んだという事実を知らない人間には、幽霊が生きている人間とまったく同じように見える。
・そのため幽霊にも昼間や夜間の「居場所」が必要である。
・小さな物質なら動かすことが出来る。
・生きた人間と死者を区別する特殊能力を持ち、理解した上で言葉をかわす人間も存在する。
・この世に未練のある人間だけが幽霊になり、それがなくなれば消えてしまうらしい。
舞台となるバーの妙に長々とした文学的な描写から始まり、なんとなく気持ちが着いていけないうちに、これらの特殊な設定を序盤で突きつけられ、最初は戸惑いを覚える。
(著者がSF的な作品を書く方だとはあとがきを読むまで知らなかった)
また、最初に主人公・炭津とヒロイン晴奈が言葉を交わしたあたりでは、勝手な印象なのだが、バーを舞台として炭津がいろいろな客を相手に小さな謎解きをしていくオムニバス形式なのかな、という印象を受けたりした。
つまり序盤はどういう心構えで読んでいけばいいか中々定まらず、少し落ちつかない気持ちだった。
だが読み進めるうちに登場人物たちの過去と、それぞれの関わりとが丁寧に描き出されて、最初からひとつの長編の物語だったのだと、いうことが飲み込めてきた。すると「幽霊の設定」が生き始め、核となる謎が提示され、テンポよく展開していく。
そういう風にして、気づけば違和感は消えて世界観に引き込まれていた。
何かを作りだす人間の苦悩、嫉妬であったり劣等感であったり挫折であったり、その描写はあくまでさらりとしたものだが、真に迫っていて切ない。
丘の上の船の家の風景が、「家族の幸せ」と「まぼろしの傑作」の二重の象徴として、どちらも失われたものにせよ、幸せな過去の余韻となって心に残る。
またタイトルのとおりの、薄暗いバーにたゆたう煙とカクテルのサクランボのある風景。こちらは、煙のように消えてしまう仄かな恋といったテーマだろうか。
二つの全然違うイメージをそっと記憶に残してくれる作品である。