【感想・ネタバレ】劉邦(下)のレビュー

あらすじ

【宮城谷昌光作家生活25周年記念作品】

天下をめぐる項羽との決戦は、最終局面・垓下(がいか)の戦いへ――
楚漢戦争、ここに終結!


項羽軍は秦の大軍を撃破、最大の宿敵・章邯(しょうかん)を下す。
一方、秦王嬰(えい)は劉邦に降伏、劉邦は秦の都・咸陽(かんよう)に入る、待っていたのは酒と美女であった。しかし、関中(かんちゅう)への入り口である函谷関(かんこくかん)を閉じた劉邦に反感を抱いた楚の軍師・范増(はんぞう)は、項羽に劉邦を討つことを進言。事態を把握した劉邦は鴻門(こうもん)に赴き、項羽に謝す。
項羽は西楚霸王と名乗り、劉邦を巴、蜀、漢中の王に封じた。劉邦にとっては「左遷」である。
項羽と天下を争うことを決意した劉邦は、韓信を大将に登用し、関中への兵を挙げる!
劉邦は趙、魏、韓、燕、漢の56万の連合軍を率いて項羽攻略に向かうが、奇襲に遭い……。


「背水の陣」「四面楚歌」「左遷」……数々の故事成語が生まれた、中国史上最大の戦はついにクライマックスへ。


自らの信念を曲げ、項羽との和解を破った劉邦の真意とは?
決死の反撃を繰り出した項羽の運命やいかに?
二人の男がぶつかるとき、中華全土に閃光が走る!


「天がわれを滅ぼそうとしているのであって、戦いに罪があったわけではない」

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Posted by ブクログ

ネタバレ

いよいよ下巻の戦いは、項羽軍と劉邦軍の戦いに集約されてくる。

中巻で、章邯の圧倒的な大軍に少数で挑んだ項羽の、まさかの勝利が電撃的に伝えられる。奇跡的と思える勝利だが、項羽自身はこの勝利に自信があったのだろう。

項羽軍の印象は、彼自身もその武将達も一騎当千の強者ぞろいという感じだ。相手が大軍であろうと、必ず一点を突き崩して、全体を壊滅に持ち込むというそういう印象だ。

彼の軍の機動力は、常に「勝つか負けるか、生きるか死ぬか」の精神に裏付けられている。負けることへの恐怖心が、闘争心を掻き立てているかのようだ。そしてまた彼らの勝利は、敗者の惨殺を意味する。まさに戦闘マシーンと化している。

一方の劉邦の戦いには、喜怒哀楽がある。敗北には、全員の悲しみ、苦しみがあり、勝利には全員の喜びが伴う。彼らの勝利は、敗者をも味方とする。全く、項羽と対象的だ。

しかしながら、戦闘能力では圧倒的に項羽が勝る。大敗して悲惨な姿で劉邦が敗走するシーンが何度も登場する。

ついに広武山で、西の劉邦軍、東の項羽軍が対峙する。
疲弊している項羽軍に、劉邦のほうから講和を持ち出す。項羽はその講和を受け入れる。(・・・アレ?こんな結末だっただろうか?と一瞬)。

劉邦は、張良や陳平の言を取り入れ、講和の約束を破り、項羽を追撃する。これまで一度も包囲されたことのなかった項羽が、劉邦の漢軍、韓信の斉軍、彭越の魏軍、周殷軍、黥布軍に包囲される。敵陣から楚の歌が聞こえる。

項羽は詠んだ。
「漢兵すでに地を略し 四方楚歌の声 大王意気尽く 賤妾なんぞ生を聊わん」

戦いを制し、劉邦は詠んだ。
「大風起こりて 雲飛揚す 威海内に加わりて 故郷に帰る 安にか猛士を得て 四方を守らしめん」
皇帝になった劉邦が、その7年後に故郷の沛県に帰った時に詠んだという。崩御の6ヵ月前のことだそうだ。

宮城谷氏は、無味乾燥とも感じられる司馬遷の「史記」などを、こうして読者のために感情を移入して楽しめる小説に変えてくれたようだ。面白かったです。感謝。

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2018年12月13日

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