あらすじ
近年、ビジネスの世界を始めとして、「組織開発」が脚光を浴びている。組織開発とは、戦略や制度といった組織のハードな側面だけでなく、人や関係性といったソフトな側面に働きかけ、変革するアプローチを指す。いま、組織開発が必要とされる理由、特徴と歴史、理論と手法などを具体的な事例を交えて紹介。なぜ、組織の人間的側面のマネジメントは重要な経営課題となるのか、第一人者による格好の入門書。【推薦・解説 金井壽宏】
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Posted by ブクログ
組織開発という語を見かける機会が最近また増えてきたものの、ぼんやりとしたイメージしか持ってなかったので、きちんとした理解を深める為に本書を読みました。著者はこの分野の第一人者で、入門書らしくこれまでの歴史、根底にある基本的な考え方や価値観、実践されている手法を通り一遍説明しており、ODの入門書としてふさわしい内容となっております。ただし、実例にはちょっと簡単にしか触れておらず、進め方の例が参考になったのでもう少し色々なケースの紹介が欲しいところですが、そもそも広く浅く概要するので詳しくはネットなどで調べて欲しいという指示があり良心的だなとは思います。実際に組織開発に取り組む機会が増えそうなので、また何かの時に振り返って戻りたい一冊です。
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2年くらい途中まで読んで、放置状態でしたが、改めて最初から読み直し。
組織開発について、コンパクトにまとまってます。
Y理論の観点を持てるかどうかがキーですね。
本当にYだけでうまくいくとは思えない自分がいる限り、なかなか組織開発の実践者になるのは難しそうです。
上になればなるほど、それで事足りるのは、結局、ミドルが最も多様な価値観の持ち主に直接かつ密な接点があるからか。
Posted by ブクログ
組織開発というのは、考え方であると同時にスキルでもある。考え方を身につけておかなければならないのだけれども、何かを実現するためには、そのためのスキルが必須という意味。
組織開発を人に教えられる専門家、すなわち、考え方もスキルも身につけている人は日本には少ないのだと思うが、中村先生はその数少ない専門家のお一人。
Posted by ブクログ
良書、再読
個人、グループ、グループ間、組織全体
・戦略的な諸問題
・人材マネジメントの諸問題
・技術構造的な諸問題
・ヒューマンプロセスの諸問題
Posted by ブクログ
組織の二つの側面
さて、組織には、「ハードな側面」と「ソフトな側面」の二つの顔があります。
組織のハードな側面とは、形があるものや明文化されたもののことで、組織の部門や部署などの組織構造や組織デザイン、制度や規則、職務内容や仕事の決められた手順、戦略や理念などを指します。先ほどのホテルの例であれば、部署や仕事がどのように分けられているか、各スタッフの業務内容は何か、給与や昇格の制度、就業規則、ホテルの将来に向けた戦略や、ホテルの理念などです。これらは明文化・可視化され、公式的に定められているものです。
一方、組織のソフトな側面とは、人に関するさまざまな要素、たとえば人の意識やモチベーション、人々の思い込みや前提、コミュニケーションの仕方、協働性や信頼関係、お互いの影響関係やリーダーシップ、組織の文化や風土など、刻々と変化するものを指します。ホテルの例でいえば、各スタッフの仕事へのやる気、スタッフ同士がどのように協働しているか、異なる部署間の連携などです。これらは明文化・可視化されておらず、人や関係性といった心理的な側面です。
組織開発の先駆者で著名な研究者であるダグラス・マグレガーは、自らの著書のタイトルを『企業の人間的側面(The human side of enterprise)』としました。マグレガーの言葉を用いれば、組織のソフトな側面とは、組織の「人間的側面」ということになります。マグレガーは、組織における人間的側面が重要なマネジメント課題であると主張しています。
組織のハードな側面だけでなく、ソフトな側面(マグレガーの言う、組織の人間的側面)に働きかけ、その変革に取り組むアプローチが組織開発です。ここでは、組織開発そのものについて検討する前に、組織を機能させていくための捉え方、すなわち、組織のマネジメント課題について詳しく検討していきましょう。
組織の六つのマネジメント課題
組織のマネジメント課題には、次の六つが大切だと私は考えています。それは、「目的・戦略」「構造」「業務の手順・技術」「制度(施策)」「人(タレン卜)」「関係性」です(図1)。
まず、「目的・戦略」(以下「戦略」)は、その組織は何のためにあるのか、そして、組織が将来どのようになっていくのかを明確にし、浸透させるという課題です。
企業であれば、その企業の目的や理念は何で、どのような製品やサービスをどのような市場に提供し、いかに将来にわたって優位性を確保していくのかを明確にしていくことです。環境の変化やグローバルな競争が激しい現在、戦略は特に重要なマネジメント課題になっています。
「構造」は、仕事をどのように分け、部門や部署をどのように構成しているか、人々をどのように配置し、役割を割り当てているか、という組織デザイン(組織設計)に関わるマネジメント課題です。
「業務の手順・技術」は、仕事や業務をどのように手順化するか、仕事の仕方や手順をどのように明確にし、共有するか、効率化していくためにどのように技術を使っていくか(IT化、オートメーション化)、業務プロセスをどのように改善していくか、という課題です。
「制度(施策)」(以下「制度」)は、人材マネジメントに関するものが中心で、人々のモチベーションを高め、それぞれのキャリアを発展させるために、どのような制度を構築し、施策を実施していくか、という課題です。評価制度や報酬制度、目標による管理やキャリア開発、メンタルヘルスの施策などが具体的な取り組みとして含まれてきます。
ここに挙げた「戦略」「構造」「業務の手順や技術」「制度」は一度決定されると明文化されて形ができ、変更しない限りは形が変わらないので、組織のハードな側面のマネジメント課題といえます。
一方、図1の下に位置する「人(タレント)」と「関係性」はソフトな側面といえます。「人(タレント)」(以下「人」)は、個人の能力、スキル、リーダーシップ、意識やモチベーション、感情や満足度などです。「タレント」とは人の能力や才能のことを指します。
最近では、才能や能力がある人材を採用し、その力量を高め、リーダーとして養成していく仕組みは「タレント・マネジメント」と呼ばれています。人(個人)がもつ力を引き出し、活き活きと仕事ができるように働きかけていくことは、組織における重要なマネジメント課題です。
そして、同じくソフトな側面である「関係性」にはさまざまなレベルがあります。部署内のレベルとしては、コミュニケーションの仕方、お互いの協働性やチームワーク、リーダーシップのありよう、などがあります。部署間や部門間のレベルとしては、他部署・他部門とのコミュニケーションや連携、組織全体のレベルとしては、組織の文化や風土が挙げられます。
ここまで、組織の六つのマネジメント課題について見てきました。ここで押さえておきたいのは、組織のハードな側面とソフトな側面、その両方が重要な経営課題だということです。「組織は人なり」といわれるように、「人」や「関係性」という人間的側面の重要性については、多くの経営者は気づいています。しかし、人間的側面のマネジメントこそ最重要課題だと捉え、それに投資して継続的に働きかけている経営者は少ないのではないでしょうか。
最近、会議を短くすることを推奨する企業が多く、その傾向も個業化に拍車をかけています。もちろん、会議やミーティングを長く行えばよいというものではありません。しかし、会議やミーティングという対面の場で、同時性コミュニケーションを行うことでしか生まれないものが三つあります。それは、創造的思考、②チーム学習、③将来のビジョンや目標の合意、です。
①の創造的思考は複数の人々と対話することで生まれます。1人で考えても思いつかないような斬新なアイデアは、多くの人とともに自由な雰囲気の中で対話することを通して生まれることが多々あります。
創造的思考が生まれるコミュニケーションを阻害する一つの要因は、マネージャーのスタイルです。指示伝達型のマネージャーは、自分が考えたアイデアを会議でメンバーに伝え、それを実行するように指示します。この形のコミュニケーションでは、マネージャーのアイデアを超える考えは生まれず、部下は創造的なアイデアを自ら考えるよりも、マネージャーの意向に沿う姿勢になっていきます。
世の中が安定していて、作れば売れた大量生産の時代であれば、経験豊かなマネージャーが最も正しい答えをもてたので、指示伝達型のスタイルも有効でした。しかし、現代は不安定要素や変化が大きく、競争が激しい時代です。したがって、マネージャーさえも経験したことがない環境や状況に置かれていることになります。マネージャーが正しい答えをもっているとは限らず、部下とともに思考し、他社との競争で優位に立てるような、創造的で斬新なアイデアを生み出す会議やミーティングが必要とされています。
②のチーム学習は、マネージャーやメンバーがチームとして学んでいくことです。仕事上の内容や課題について学ぶとともに、業務の進め方や仕事の仕方、会議やミーティングの進め方やお互いのコミュニケーションの仕方(創造的思考をするためにはどのように話し合えばよいかを含めて)を学んでいきます。つまり、会議やミーティングの場が学習の場になっていくわけです。ちなみに、話されている内容(仕事上の内容や課題)について学ぶことは「シングルループ学習」、その内容を話す過程で仕事の仕方や話し合いの進め方を学ぶことは「ダブルループ学習」と呼ばれています。このようなチーム学習は、報告型のコミュニケーションでは起こらず、双発的な対話がなされる場で起こります。
③の将来のビジョンや目標の合意については、前提の説明が必要です。まず、多くの会議やミーティングでは、短期的視点から目の前のこと(特に結果や数値とその対策)について話されることが多く、長期的視点から組織について語られること(特に戦略実行、人材育成、強い組織をつくるための関係構築など)は少ないと私は考えています。
特に、多忙化し、効率性が求められ、会議やミーティングの時間を短くしようとすればするほど、短期的視点から問題対処について話されることが多くなります。そして、将来のビジョンや目標は、前述したように、上から数値目標の形で伝達されることが多く、部下だけではなく、リーダーさえも将来のビジョンや目標を意味づけし、腹落ちさせることが難しいという現状があると私は考えています。
しかし、職場のメンバーが個業化せず、団体戦として協働していくには共通のビジョンや目標が必要で、しかも、共通の目標が意味づけられ腹落ちしていることが重要です。共通の目標について話し合い、可能ならばともに目指す目標を自分たちで決定することを通して(もちろん、上から降りてきた数値目標を無視するわけではなく、その数値目標の達成と矛盾しない方向で、何を優先するか、どのように行動していくかという共通の目標を自分たちで合意していくことで)、共通の目標を達成することへの内発的動機づけが高まり、ともに協働するチームになっていくことが可能となります。そして、このような共通のビジョンや目標を合意するためには、メンバー全員での対面のコミュニケーションの場が必要となります。
組織開発の定義と目的
組織開発の定義にはさまざまなものがありますが、基本的には、組織開発は「組織のプロセスに気づき、よくしていく取り組み」といえます。多くの定義で共通しているのは、
・行動科学の理論や手法を用いること
・組織の効果性や健全性を高めていくこと
・組織のプロセスに対して計画的な働きかけをする取り組みであること
という点です。
私が最も気に入っている、組織開発らしさが込められた定義はウォリックのものです。彼は、「組織開発とは、組織の健全さ(health)、効果性(effectiveness)、自己革新力(self-renewing capabilities) を高めるために、組織を理解し、発展させ、変革していく、計画的で協働的な過程である」(筆者訳)と定義しました。
この定義に基づきながら、次に組織開発の特徴を考えていきます。
組織開発の目的は「組織の健全さ、効果性を高める」こととされています。この「効果性」「健全さ」を高めるという表現は他の研究者による定義でも頻繁に使われています。組織の効果性は、組織の目標に到達する力、組織の構成員やチームの潜在力を発揮できること、環境の変化に適応し対処できることを指しています。また、組織の健全さは、仕事生活の質、お互いの関係性の質、権力の最適なバランス、ワークモチベーションの高さなどの、極端に表現すると組織内の人々の「幸せ度」と関連しています。
そして、組織開発の目的としてウォリックが挙げているのが、組織の自己革新力を養うことです。これは、組織が絶えず学習し続け、外部コンサルタントの支援がなくても、自らが変革に取り組み続ける力をもつことを意味しています。
根底にある四つの価値観
組織開発は「価値観ベースの実践」といわれています。これは他の組織変革のアプローチと組織開発が異なる点です。マーシャクは、組織開発の根底にある価値観として、①人間尊重の価値観、②民主的な価値観、③クライアント(当事者)中心の価値観、④社会的・エコロジカル的システム志向性、を挙げました。これらを順に見ていきましょう。
①人間尊重の価値観(ヒューマニスティックな価値観)とは、人間は基本的に善であり、適切な場さえ与えられれば、自律的かつ主体的にその人がもつ力を発揮すると捉えることを重視する考え方です。ということは、前述したように、マクレガーが提唱したX理論(人間は本来怠け者で仕事をしたがらないという人間観や持論)とY理論(人間は自己実現のために行動し主体的に仕事をするという人間観や持論)のどちらをベースにしているのかといえば、Y理論の考え方になります。
②民主的な価値観(デモクラティックな価値観)とは、ものごとを進めて決定するには、それに関連する、できる限り多くの人が参加し関与した方が決定の質が高まり、関与した人々やお互いの関係性にとっても効果的である、と捉える考え方です。たとえば、組織や部門で戦略を立案する時などは、可能な限り多くの人の意見を聞くとともに、立案の過程に参加し関与できることを組織開発では重視します。
③クライアント(当事者)中心の価値観とは、これまで述べてきたように、組織の当事者が現状と変革にオーナーシップをもつこと、つまり、当事者意識の高まりと主体的に変革に取り組むことを重視します。
④社会的・エコロジカル的システム志向性とは、組織開発が目指すところは、組織内の視点だけで語れるものではなく、より広いシステムである社会や環境レベルを考慮する必要がある、と捉える考え方です。つまり、組織開発の結果、社会や環境、そして世界に悪影響が生じることは避ける必要があるという発想です。
OD実践者は「チェンジ・エージェント(変革推進体)」と呼ばれます。これは初期のTグループ(人間関係のトレーニング方法、「T」はトレーニングの略)で重視された発想で、その後の組織開発の発展の中で受け継がれていきました。すなわち、ヒューマニスティックで民主的な組織や社会になっていくことを目指し、OD実践者がチェンジ・エージェントになっていくという考え方です。
組織に起きやすい四つの諸問題
第1章で、組織におけるマネジメント課題として、「目的・戦略」「構造」「業務の手順・技術」「制度」「人」「関係性」の六つを挙げました。これは、組織開発の手法を四つに分類した、カミングス&ウォーリーのタイプ分けを参考にしながら、私が細分化したものです。ここでは、カミングス&ウォーリーの用語を紹介しながら、さらに詳しく述べていきます。
カミングス&ウォーリーは、組織に起きやすい諸問題として次の四つを挙げました。
①戦略的な諸問題
②技術・構造的な諸問題
③人材マネジメントの諸問題
④ヒューマンプロセスの諸問題
です。
①の戦略的な諸問題とは、現代の競合的な環境の中で、将来どのような製品やサービスをどのような市場に提供していき、どのように優位に立っていくか、というものです。
②の技術・構造的な諸問題とは、仕事をどのように分け(部署や部門などの組織構造の構成)、部署間をどのように調整するか、仕事をどのように進めるか(仕事の仕方や従業員の関与による改善)という、組織構造と業務プロセスに関することです。
③の人材マネジメントの諸問題とは、人々のモチベーションを高めるためにどのように目標を設定するか、どのように報酬を与えるか、どのように人々のキャリアを発達させるか、というものです。
④のヒューマンプロセスの諸問題とは、既に先に述べたように、組織内の人と人との間で起こるプロセス、たとえば、コミュニケーション、意思決定、リーダーシップ、関わり方、風土や文化などを指します。
日常でいかに実践するか
ここまで、組織開発で用いられる手法について述べてきました。しかし、ある手法や取り組みを大々的に実施するだけが組織開発ではありません。自分の部署をよくしていくためには、計画的に実施される大きな取り組み以上に、日常での組織開発的な関わりが大切になってきます。組織開発の基本は「プロセスに気づき、働きかけ、よくすること」です。これは日常の部下や同僚とのコミュニケーションや、会議などで行うことが可能です。
たとえば、会議を始める際に、チェックインとして「今日の会議に入っていく、今の気持ち」を一巡してわかちあう、会議の途中で、進め方やコミュニケーションの様子を確認するために、「今の進め方で気になっていることは?」と尋ねるプロセス・チェックをしてみる、などがいい例です。日頃のこのような関わりが実は重要で、このようなプロセスに目を向ける関わりを積み重ねることが、プロセス・ロスが少なく、効果的で健全な部署、部門、組織をつくっていく鍵となると思います。すなわち、日常での実践が組織の体質改善につながって目を向けていきます。
ただ、ここで注意が必要なのは、チェックインやプロセス・チェックをすれば職場がよくなる、という、単純なものではないということです。
先に、ドゥアブル(行動内容)とデリバラブル(提供価値)という視点について触れましたが、日常で実践する組織開発的な関わりについても、「チェックインを会議前に毎回しています」というドゥアブル(何をしているか)、という視点以上に、どのような職場にしていきたいか、そのためにあなたは何をもたらしたいか、というデリバラブルの視点が大切になってきます。
組織開発での究極的な問いは、「あなたはどのような職場や組織をつくりたいのか?」、さらに絞り込むと、「あなたはどのような関係性が育まれている職場や組織をつくりたいか?」ということだと私は考えています。
1人ひとりが活き活きとし、働く幸せを感じる職場をつくりたいと願うならば、そのような価値を提供できるように日々の関わりを自ら実践すること、これが組織開発の基本であり、最も重要で本質的なことだと考えます。
その後、Aさんは次の質問をしていきました。
「この営業所で、うまくいっていると感じているのはどんなところですか?」
「この営業所で、問題だなぁと感じているところや改善が必要だなぁと感じているのはどんなところですか?」
「営業担当者の間の連携やコミュニケーションの様子についてどんなふうに感じていますか?」
「事務担当者の間の連携やコミュニケーションの様子についてどんなふうに感じていますか?」
「営業担当者と事務担当者の間の連携やコミュニケーション、関係性についてどのように感じていますか?」
開放領域が広がることの重要性
職場の中で日頃からお互いにプロセスを共有することができれば、開放領域も広い状態が維持できます。しかし、お互いの間に起こっているネガティブな影響関係は、伝えると関係が壊れるのではないかという不安から、自分の中で収めてしまうか、伝えやすい仲間に愚痴をこぼすことで対処することが多くなります。
その結果、当事者に伝わらず、関係が改善されずに、同じ行動パターンが繰り返されることになります。このようなプロセスが改善されるためには、安全な場で、プロセスを共有するための対話が必要になります。
データ・フィードバックは、OD実践者から現状についてのデータがフィードバックされることで、自分自身が感じているプロセスを開示するきっかけとなります。そして、フィードバック・ミーティングの中で、日頃感じていたプロセスを自分の言葉で開示し、それが共有されることで、職場内や組織内のプロセスに気づいていく(開放の領域が広がっていく)という機能があります。
第1章で述べたように、個業化が進んでいる現代の職場は、開放の領域が以前に比べて狭くなっています。開放の領域が狭いと、お互いがわかっていないことにより、個々人が悪い方に推測して、さらに関係が悪化することも多くなります。チームとして協働していくためには、そして、ストレスが少ない職場にしていくためには、開放の領域が広がることが鍵となります。
グループ間の対立や葛藤は、相手に対する不信感や不満から生まれます。また、社会心理学で「内集団びいき」と呼ばれる、自分が所属している集団に対してはひいきをして高めに評価し、他の集団に対しては厳しめに見て低く評価するという現象があります。
不信感や不満がある他のグループに対しては、さまざまな推測や否定的な解釈をしてしまいがちで、それによって相手のグループに対する誤解や曲解が増えて、心理的な対立や葛藤がさらに大きくなっていくことがあります。つまり、心理的な過程によってグループ間の対立や葛藤が形成されるといえます。
そのような関係を改善するには、お互いの見方を共有して誤解に気づくこと、共通の目標を見出して(合意して)部分最適から全体最適を目指すことが鍵となります。
Posted by ブクログ
『マンガでやさしくわかる組織開発』で参考文献として挙げられ、新書版で読みやすいだろうと思い続けて読んでみました。後で気が付きましたが、著者が同じなんですね。
こちらは『マンガでやさしくわかる~』よりももう少し詳細について記述があります。使われている言葉も(もちろんそれぞれに説明はありますが)「X理論・Y理論」「学習する組織」「マネジリアルグリッド」といった、ビジネス書では出てくる専門的な言葉が使われています。
ただ、当然ながら「当事者自らが主体的に自分の組織を良くすることを目指す」といった組織開発の根本的な部分は同じですので、すっと入っていけるように思います。
チームを率いる人や、メンバーに主体的に仕事をしてほしい、といったことを考えているマネージャーやリーダーは得られるものが多い本になるでしょう。
Posted by ブクログ
組織には二つの側面がある。ハードな側面とソフトな側面がそれ。ハードな側面は部門・部署、制度・規律、職務内容と手順などの明文化されたもの。一方、ソフトな側面は、意識・モチベーション、コミュニケーション、信頼関係・影響関係など可視化されていない心理的側面。
ハードな側面のほうはバブル崩壊後に大規模な変革が行われて今に至るそう。一方、ソフトな側面のほうは軽視している経営者が多いのではないか、とある。でも、このソフトな側面は重要なのです、というのが本書の出だしなのでした。
組織開発とは、大きく、このハード面とソフト面を変革して、より合理的に利益を得ていけるようにすることと、働く人たちがより無駄なストレスなく活き活きと働くことができるようにすることを推し進めていくものです。
組織開発はアメリカで1950年代終盤に生まれた概念で、1960年代には日本にも入ってきています。ただ、日本では人事異動の際に組織開発に携わっていた人たちが、うまく次の担当者へと引き継ぎができない構造になっていて、そのノウハウは早くも70年代には失われていったそうです。しかしながら、近年再注目されてきていて、本家アメリカでは70年間の歴史の中で受け継がれ発展してきた分野でありますから、アメリカに学ぶ形でまた日本も再導入しようという先駆けのひとりなのが、著者なのでした。著者はアメリカでプログラムを受けており、その知見をこうしてもたらしてくれているのです。
マネジメント観には「X理論」と「Y理論」と呼ばれるものがあるといいます。「X理論」を持つマネージャーは、人は生まれつき仕事が嫌いで、したがって人には監督と命令が必要とします。そして、目標に達成無い場合は罰則を与えるべきだとします。一方、「Y理論」を持つマネージャーは、人は自ら実現したい目標のために自己統制を発揮し、個人と企業の目標が一致すれば、人は自発的に自分の能力を高め、創意工夫をし、自発的に行動すると考えます。
「X理論」のマネージャーは指示命令的で、その結果、部下は受動的になりやすくなります。「Y理論」のマネージャーは部下に適切な目標と責任を与え、部下の力を引き出すような関わりをし、その結果、部下は主体的になっていきます。
著者は、現代日本が抱える問題として、本書刊行当時(2015年)に50代以上の上司が上意下達で育ってきた人たちであるため、「X理論」の考え方を持つ人が多いことを挙げています。現在の現場の社員などは、主体的に考えて動くことが必要とされているのに、上司は自らの「X理論」に基づいてふるまうことで、若い社員の主体性が育むことを阻んでいることを指摘しているのでした。
どんなチームや職場、組織を作っていきたいかといったことには、経営層や上司のマネジメント観が密接に関係してきますから、若い社員の成長や働きがいなどのためには、上層部の意識の変化が必須ということになります。
昨今さまざまな本が出ている「コーチング」や「ファシリテーション」といった手法にしてみても、組織を活発にするものなのは間違いないものだととしたって、その手法を行使する者のマネジメント観が「X理論」であるならば、あまり意味をなさなくなるというようなことも書いてありましたし、なるほどそうなだろうな、と納得がいきました。
「コンテント」と「プロセス」という言葉が出てきます。「コンテント」とは、WHATの側面で、つまりは何が話されていて、何が取り組まれているかという、話題・課題・仕事の内容的な側面になります。一方、「プロセス」はHOWの側面で、関係的過程、つまり「いま、どのような気持ちか」「どのように参加しているか」「どうのようにコミュニケーションがなされているか」「どのように課題や仕事が進められているか」「どのように決められているか」「お互いの間にどのような影響があるか」といったところを見ていきます。「プロセス」は人間関係的な部分に踏み込む視点だと言えると思います。だからこそ、企業の風土や現場の空気のマイナス面に光を当てることができ、言語化し意識化を進めることでそれまでマイナスだったところをゼロに戻す努力をしていくことができるようになる。
他方、ゼロからプラスに転じていく手法もあります。AI(アプリシェイティブ・インクワイアリー:真価の探求)がそれにあたるもので、組織や個人の潜在力・強みに着目し、それらがさらに発揮される未来を描いてアプローチしていく、という道筋をたどります。
他にもさまざまな手法を、紙幅の関係かとは思いますが、その骨子とでもいうべきところを手短に説明していくような体裁で、組織開発というジャンルに触れられる仕組みになっています。これって、職場のハラスメントを無くすための根本的アプローチになっているので、経営層のみならず人事担当者などもまずこれらを知っておき、それから自分の内にインストールするかのようになじませていくと、その企業・会社の発展ひいては社員や職員の活気やパフォーマンス向上に繋がっていくのだと思います。そしてそれらを経て、企業イメージ向上があとからついてくるものだと思われます。
最後に、「マネジアル・グリッド」という言葉と考え方を付記します。グリッドというくらいですから座標でその職場環境の様子をあらわします。「1.9型 社交クライブ型(人や関係性を重視する)」「9.1型 専制型(業績最優先で人の関係性は考えない)」「1.1型 伝達型/消極型(業績も人との関係も最低限)」「5.5型 妥協・中間型(業績と人との関係の両立は無理なので両者のバランスをとるあり方)」。また、「9.9型 理想型(業績と人の両立。組織目標と個人目標の統合)」という本当にかつては理想とされたタイプがあるのですが、まず組織開発で組織のソフトな側面を改革していくことによって、達成が見えてくるものだと思われます。本書でも、この理想型を目指すことの大切さが説かれています。
というところですが、たとえば実践してみたとすると、非協力的な従業員などが絶対にでてきますよね。目に浮かびますからねえ。でもそこに負けずに、ぐいぐいと、働きやすくて働きがいのある職場にするために、この組織開発、それもソフトな側面についての開発は、どこの組織や会社でもやっていってほしいなあと願うところなのでした。
Posted by ブクログ
組織開発における基礎知識が体型立てて学べる。
一番の学びは、
目に見える「コンテント」ではなく、
「プロセス」を捉え働きかける必要があること。
また、「何をするか(Doable)」ではなく、
「どうあるか(Being)」に注目すべきということ。
Posted by ブクログ
組織開発をザクっとかつ体系的に学べた。細かいところはもっと深い文献に頼るとして、大まかに学べて良かった。
ソフト面への働きかけの手法も概要を学べた。
Posted by ブクログ
個に焦点をあてた人材育成で組織を活性化するには限界がある。だからこそ、ではどうしたら組織は活性化できるのか、組織開発(OD)のこれまでの歴史や国内外の動向、理論と具体的事例から、コンパクトにわかりやすく俯瞰した良書です。
これまで組織開発の関連書籍は数多く出版されていますが、海外に偏っていて日本での適用可能性がわからなかったり、一手法の説明に特化していて組織開発全体をザックリ把握することがなかなか難しかったので、TグループからAIまで網羅した本書は組織開発の入り口あるいは復習に、とても役に立つと感じます。
企業経営者、人事部門関係者、組織を扱うコンサルタントにオススメです。
Posted by ブクログ
組織のソフト面に焦点を合わせる「組織開発」の入門書。入門書とはいえ、組織の基本構成など主要なキーワードが網羅されており、とりあえず手に取る一冊としては最適
Posted by ブクログ
組織開発は、組織とはニンゲンがつくっているのであり、
組織の目標を明確化しながら、ニンゲンの尊厳を守りながら
すすめることが 何よりも大切である。
マネジメントは『経済的な価値と人間尊重の価値』
『ニンゲンは意思や感情を持っています。仕事の意味を考えて腹落ちすることで、内発的な動議づけが高まり、その仕事に活き活きと取り組むことができるようになる。』
会議を行なうのは、
①創造的思考
②チーム学習
③将来のビジョンや目標の合意。
の 三つの点を 確保しなければならない。
時代の急速な変化の中で、
『指示伝達型のスタイル』では、古い方法になっている。
そのなかで、『同時最適解を得ること。』がポイントだ。
人材開発とともに 組織開発が 必要だと思った。
職場が 活き活きと 働きがいのある場所にすることが、
ひとつの目標となる。
Posted by ブクログ
仕事で組織レベルの改善について考える必要があったため、最近のノウハウではなく基礎を知りたいと思い購入しました。戦略や制度といったハードの側面はさまざまな事例があるけど、人や関係性といったソフトの側面はあまり学ぶ機会がない。特に日本では研究も少ない。本書を通じて、1960年代アメリカでの組織開発の起こりから現代までの歴史から紐解かれています。OD(Organization Development)実践者が組織に対してとりうるモードを分類し、体系として解説されており、まさに入門といったかんじです。そもそもOD実践者というロールを意識したことがなかったので、その立場から組織を捉えてみようと思いました。また、やはりGEでの事例が取り上げられており、組織開発の好例として別の本を読んでみようと思いました。内容は消化しきれていないので、いまの組織に当てはめながら他の本も参照して理解を深めたいです。
Posted by ブクログ
どちらかというと組織の育成(発展)よりも、
個人の育成に興味のある自分ですが、
全く無関係ではないという点と
アメリカでこういった系統の授業をあまり履修しなかったので、
まず全体像をざっと知るために読んでみました。
コンパクトに全体像が知れるという点では、とても良い本だと思います。
あだ、これ読んだからと言って何か実務に実践できるか?と聞かれれば、
ほとんど何もできない、という回答になってしまうかもしれません。
(タイトルにある通り、「入門」ですので、仕方なし。)
なので、この本で自分の興味のあるキーワードを拾ってきて、
自分なりに深堀していく必要があります。
そういった用途で使う分には、結構お手軽でよい本かと思います。
Posted by ブクログ
入門とある通り、組織開発とは何かを知るのにはよくまとまっているのだと思う。ただ、実践編ではない印象で、これを読んで何かができる感じはしなかった。
Posted by ブクログ
組織開発(OD)とは何か。人と関係性に働きかけることで、活き活きと働ける職場を作るという内容。実際には、入門ということで概論から説明。
プロセスが成果に影響するという考え方をベースにしている。50キロで綱を引ける人が3人いて、その3人が綱引きに出場したが120キロしかパワーがでない。この30の差がプロセスロスが発生。さぼっているのか、角度が違うのか。このロスを最小限にして、さらに上を狙えるかということのようだ。もう一つがジョハリの窓。「私が知っていること」「私が知らないこと」「他人が知っていること」「他人が知らないこと」の四象限に分けて、「私が知っていて」「他人も知っている」というこの開放の象限が大きければ、風通しの良い職場になると。当たり前すぎて、これを堂々と伝えていることにビビった。現状を認識することは、本書で自身が述べているようにメタボだけど、まあいっかと思って何もしない人と同じ。つまり、組織開発は、自身では気がつかないという自己矛盾を抱えているからこそ、起こるのではないかと思う。