組織の二つの側面
さて、組織には、「ハードな側面」と「ソフトな側面」の二つの顔があります。
組織のハードな側面とは、形があるものや明文化されたもののことで、組織の部門や部署などの組織構造や組織デザイン、制度や規則、職務内容や仕事の決められた手順、戦略や理念などを指します。先ほどのホテルの例であれば、部署や仕事がどのように分けられているか、各スタッフの業務内容は何か、給与や昇格の制度、就業規則、ホテルの将来に向けた戦略や、ホテルの理念などです。これらは明文化・可視化され、公式的に定められているものです。
一方、組織のソフトな側面とは、人に関するさまざまな要素、たとえば人の意識やモチベーション、人々の思い込みや前提、コミュニケーションの仕方、協働性や信頼関係、お互いの影響関係やリーダーシップ、組織の文化や風土など、刻々と変化するものを指します。ホテルの例でいえば、各スタッフの仕事へのやる気、スタッフ同士がどのように協働しているか、異なる部署間の連携などです。これらは明文化・可視化されておらず、人や関係性といった心理的な側面です。
組織開発の先駆者で著名な研究者であるダグラス・マグレガーは、自らの著書のタイトルを『企業の人間的側面(The human side of enterprise)』としました。マグレガーの言葉を用いれば、組織のソフトな側面とは、組織の「人間的側面」ということになります。マグレガーは、組織における人間的側面が重要なマネジメント課題であると主張しています。
組織のハードな側面だけでなく、ソフトな側面(マグレガーの言う、組織の人間的側面)に働きかけ、その変革に取り組むアプローチが組織開発です。ここでは、組織開発そのものについて検討する前に、組織を機能させていくための捉え方、すなわち、組織のマネジメント課題について詳しく検討していきましょう。