【感想・ネタバレ】世界に嗤われる日本の原発戦略のレビュー

あらすじ

福島第一原発の事故を受け、日本の電力政策は転換点を迎えたが、エネルギー問題はもはや一国の利害だけでは判断できない時代となった。全世界70億人には等しく豊かな生活を送る権利があり、今後も増え続ける膨大なエネルギー需要を、再生可能エネルギーだけで賄うのは難しいのが現実。今後も海外では原発建設が計画されており、日本のエネルギー政策は世界から取り残されている。そこで本書は、原発の安全対策を冷静に分析し、増え続ける核廃棄物に関しても具体的提言を行い、原発の必要性を考える。まさに、全人類が文明生活を享受し、世界が繁栄し続けるための原発論。「(原子力は)人間が制御できない技術であるとか、神の領域とか、それこそ神がかったことを言う人がいますが、それは人類の進歩を放棄し、進歩の芽をつみ取ることです」と語る著者。再稼働への道はいまだ遠いが、安全対策から技術開発まで、日本には人類の未来に対する責任と義務がある!

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Posted by ブクログ

前提として、世界人口は増大しており、最も大量の電力使用量があるカナダと同等の電力消費が世界中に発生したら、間違いなく電力は不足する。日本やアメリカは電力使用量の多い国ではあり、あまり実感できないかもしれないが、地球上には未だ未だ安定した電源が無く、頻繁に停電するような地域の方が多い。若い頃に様々な国を旅して感じたのは、そこそこの金額のホテルでさえ停電は頻繁にあったし、停電ごときで大きく驚いた経験もある。裏を返せば日本の電力の安定さは世界最高レベルだという事である。日本がかつて太平洋戦争に突き進んだ要因の一つに、資源の無い国家がその供給を停止させられた事にある。具体的には石油がアメリカから入ってこない。この事は軍事国家化していた日本の軍事力を利用できなくなる事を意味していたし、国内で石油に代わるエネルギーを確保する事は不可能だから、やがて干上がるのを待つ前に、東南アジア(インドネシアなど)のエネルギーを確保する必要性に繋がる。そうなると当然アメリカの太平洋艦隊の脅威を取り除く必要があるから、先にハワイを封じる。この様に、資源に乏しい日本はエネルギーを始めとする資源確保が国の死活問題として現代も生きている。
東日本震災で稼働を停止した原発。あの痛ましい福島第一原発の爆発シーンは誰もが記憶に残っているし、福島県の一部地域からは住民が放射能の影響を避けるために、強制的に立ち退く結果となった。今もなおその影響は続くし、それ以降自分の生まれ育った町へ帰る事が出来ず、また帰るのを諦めて他県に移住した人も多いだろう。経済産業省配下の資源エネルギー庁のサイトを見ると現在稼働している原発は12基あるそうだ。あれだけ騒がれ脱原発と言っていた頃の事を考えると、10年も経てば人の記憶からも薄れたのか、資源の無い日本が背に腹を変えらなかった結果なのか、意外にも多く感じた。
個人的に原子力への依存に対しての善し悪しは語るべきでは無いと思っているが、「もし」稼働したなら、経済的には大きく益があるだろう事は容易に想像はつく。他国から買っている資源から全ての物作りが始まるわけだから、ガソリンなどといった分かりやすい金額だけで無く、あらゆる物の値段の中に含まれるエネルギーコスト分を安価にできる事は間違いない。だから、安全についての議論が必要であり、それを無しに、ただ原発反対と唱えるのもおかしな話だ。何より本書の筆者が言う様に、ネットには大袈裟で面白く人々の共感を得ようとするだけのフェイクニュースや誤情報が多いから、何も考えずに受け入れる様な事はしたくない。
本書はそうした将来の日本のエネルギー政策や、それが社会に与える影響などについて、少しでも課題感を持っている方なら読んでおくべき内容なのでは無いかと思う。基本的には筆者は原発自体に賛成の立場を取っているが、何故この様に原発に対する相当の向かい風がある中で、筆を取り書こうと思ったのか。そして反対の立場の読者であれば、筆者の考え方を聞いた上で、反論してみるのも良いだろう。先ずは知らなければ始まらない。知らずにただ、物価が高い、税金が高い、電気代が高いなどと言うだけなら、それこそただのクレーマーと変わらない。
なお、原発再稼働に向けては様々な安全性に関する議論がなされているが、それをする人材も今の様な世の中では減りつつあるそうだ。一方で世界にはロシアや韓国など、我々が安全性を確認できない原発が世界中に建設されようとしているし、中国もプレイヤーとして登場してきた。我が国日本は福島第一原発のイメージも払拭できないまま、国内でも代替エネルギーの議論ばかりが増えている。国が長期のエネルギー政策を考える場合は、日本の事だけを考えていれば良いと言う物では無いし、人材までもが失われて仕舞えば、誰が福島の事故の再発を防ぐのか。筆者が言う様に「絶対の安全」など無いし、我々が求めているのは「充分な安心」であると考えるなら、安全に不足する部分を、悲惨な事故を起こした国の人間が考え、それを政治が国民に説明して不安を取り除くべきでは無いだろうか。その努力をした上で、安全確保が出来ず、不安な国民がいる間は、当面原子力は使わない方が良いだろう。勿論、その間の電気代の高騰には文句を言わずにだ。
だから私はこれからもずっと考えたいし、本書の様な書籍を多少は読みながら考えているし、スーパーに言って「キャベツが398円っておかしくない!?」ガススタでは「ハイオク186円って何だよ!」と叫んでいるのだ。ちゃんと考えてみたい人が、読んでみると心置きなく叫べる一冊だ。

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2025年01月12日

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