【感想・ネタバレ】絶望のレビュー

あらすじ

ベルリン在住のビジネスマンのゲルマンは、プラハ出張の際、自分と“瓜二つ”の浮浪者を偶然発見する。そしてこの男を身代わりにした保険金殺人を企てるのだが……。“完全犯罪”を狙った主人公がみずからの行動を小説にまとめ上げるという形で書かれたナボコフ初期の傑作!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

解説を読むとめちゃめちゃ面白かった。
翻訳の文体が分かりにくいのかと思ったけど、完全犯罪が破れて追い詰められたゲルマンが、芸術作品として創造した手記という額縁小説のような形になっているから分かりにくい。一回通読してから読み返すと、あああの話ね、とつながる。
読み返してみれば、たしかにフェリックスと似ていると言っているのは語り手のゲルマンだけで、フェリックスだって2人が似ていると自分から言ってはいない。一人称小説だからゲルマンの主観で書かれており、アルダリオンもかなりヘボな人物に描かれているけど、ゲルマンに描かれたアルダリオン像と、引用されたアルダリオンの手紙=ゲルマンの主観ではなく、本人の言葉を通して見るアルダリオン像には隔たりがある。小説に描かれたことは小説の中では真実のはずなのに、その前提を揺さぶってくる。小説は真実ではない。小説は想像の産物、虚構でしかなく、言葉による表現は受け手によって再創造されることによって受け取られるが、客観的に目に見せることも音を聞かせることもできない以上、すべては思い込みとも言える。そもそもの語り手の言葉も本当かは分からないし、読者である自分の受け取りはミスリードされたものかもしれない。面白い。
分身なんて嘘だ。鏡だって本当の姿を映しているのではなく、「無数の鏡像からできているこの信用ならない世界」。正しく見えていると信じていたものが、本当は見えていなかったのかもしれない。

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2019年10月22日

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