【感想・ネタバレ】河合隼雄セレクション こころと人生のレビュー

あらすじ

子ども時代、青年期、中年期、老年期と、こころにはそれぞれの時期に特有の問題がある。鋭い目で人生の真実を見抜くのびやかな子ども時代、心の底深くに得体のしれぬものを抱えて苦しむ青年期、最も安定しているはずの時期に最も大きなこころの危機を迎える中年期、生きるということの意味を再び問いなおす老年期──と、人生のそれぞれの時期のこころの問題を、臨床家としての目がこまやかにとらえた同名タイトル講演集の文庫版を電子化したもの。巻末解説は、心理占星術・神話研究者の鏡リュウジ氏。

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Posted by ブクログ

ユング派の臨床心理学者だった故・河合隼雄さんの講演から、
子ども時代について、
青年時代について、
中年期について、
老年期について、の四つを書き起こした本です。

なんていうか、
子どもにしても中年にしても、
その表面的な行動や言動なんかのベースにある、
見えないところを考えていくことで、
すごく人間理解が進むんですよね。

河合隼雄さんは膨大なカウンセリングをしてこられた方ですから、
それまでよく認識されてこなかった、
人間の行動の背景や原理、仕組みなんていうものを、
こういう比喩は適当か微妙ですが、
ジャングルの奥地の遺跡を発見するみたいな感じで、
見つけてきたような百戦錬磨の心領域冒険家みたいな印象を持ちます。

木を見て森を見ずっていいますが、
木を見て森を見たからこそできあがった学問領域です。
それは、現象学からの流れなんですかね。

本書は、河合さんのユーモラスな語りを、
会場で楽しみながら拝聴しているような感覚で読めます。
しかも、平易な言葉遣いなのに無駄がなくて、
じっくり読み進めているとけっこうきわどいところを舞台としていることに
あるとき気付いたりして、
読み手はそんな場所にいつしか誘われていたりします。
びっくりするくらいです。

そうだそうだ!とか、うわすごい!とか、
再確認したり再発見したり、
解けなかったところを上手に紐解いて見せられたり、
そういう経験ばかりの読書になりました。

そんななかでも、たとえばこういう気付きが得られました。
何か欲しいときに
「へえ、へえ」
と腰を低くして接するのは常套手段というか定石だと思いますけど、
昔からそこにどこかずる賢く立ち振る舞っている感じがして、
自分がやるにはなかなかできない、みたいなのがありました。
そして、同じように感じるかたも多くいらっしゃると思います。

でも、「水は高い所から低い所に流れるもの」と聞くと…、
あれまあ!と思っちゃう。
そっか、そういうもんだよね、と自然に腰を低く出来そうな気がしてきます。
何かが欲しいなら、自分を低くして
そこに流れ込んでくるようにするといいんでしょう。

で、ちょっと角度を変えて考えてみると、
なんか好ましくないものが流れ込んでくるなあと思うのなら、
自分が低い位置にいることに気付けるかだ、と。
そんでもって自分が低いところにいるから、
妙なものが転がり込んでくるということがわかれば、
自分を高くするように仕向けるといいんですね、理論上は。

さらっとそういうことが本書には出てくるから、
そこから自分なりのやり方で解きほぐすように、
そして自分に寄せた知見から考えてみました。
これだけじゃなしにですが、本書から窺えますが、
河合隼雄さんはすごいんです。

というわけですが、
これが本年最後の読書記事になりますが、
本書は本年最大のおすすめ本といえます。
おもしろかったです。

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2019年12月31日

Posted by ブクログ

こども、青年期、中年期、老年のライフステージに分けて、人の心理を語る。老年の死への準備。著書のゆったりとした語り口が幸いして、読んでいると、恐れることなく、死についてを正面から捉えることができる。中年期、どう危機をやり過ごすか。創造の病と表現して、危機を創造に変える発想。漱石の伊豆の大患以降の例も挙げられている。著者の話には共感するところが多い。

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2017年09月02日

Posted by ブクログ

大阪の四天王寺主催の夏期大学講座。
子供、青年、中年、老年、と4つの章があり、どれもおもしろく教訓が学べる。章の最後に仏さまの話でまとめて終わるので檀家さん相手に喋っている感じがある。なので、読み終わると、それ相応の功徳がもらえます(笑)。

アメリカの青年の問題点として、「包み込む力」というのがすごく弱い。この問題は、これからアメリカではかなり大きい問題になるだろうと河合さんは言っている。
p94「子どもというのはある程度包まれていて、自分が抱きかかえられていると思うから、そこからだんだん出ていって強くなれるわけです。ところが、日本の場合は、大学生になっても中学生みたいな顔をしているというのは、ある意味では包まれ方が強すぎるんですね。勉強さえしていたらあとは何でもよろしい、ほかのことは全部親がしてくれるわけですから、包み込まれすぎてなかなかおとなになれない。ところが逆にアメリカのほうでは、あんまりにも早く包み込みがなくなってしまって、自分の力で生きるより仕方がない。こんなふうに突き放されると、これはもう無茶苦茶をやるしかなくなるわけですね。こうしたことが青年期の一つの特徴だと思うんです。子どもがおとなになるというのは本当に大変なことです。」

河合さんは、日本でも、そういうことが起こるかもしれないとこの1994年のこの講演のときに言っている。
その後、1995年に地下鉄サリン事件、1997年に神戸の酒鬼薔薇事件が起こり、凶悪事件の内容が欧米化してきたように思う。

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2024年07月13日

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