あらすじ
駅の出口の案内は黄色。東京の地下鉄の案内表示は各ラインカラーの「○」――こうした日本の駅のデザインを決めてきたサイン設計の第一人者が、駅のデザインを、自身の手がけた豊富な実例をもとに語り尽くす。案内表示に求められるものとは何か、そのデザイン思想とはいかなるものか、1970年代に始まった日本の空間・サイン整備の歴史をたどりつつ論じ、現在の日本と海外の駅とを比較。混迷を深める日本の公共空間を批判的に検討し、利用者本位の、交通システムのあるべき姿を展望する。
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Posted by ブクログ
毎日東京都心で鉄道を利用する者として筆者の主張はほぼ全て肯定できたことが、作中でも度々述べられている通り本気でパブリックなデザインを考えている証拠なのだろうと感じた。理想を実現するためには例えば新宿駅大改造のような夢物語は現実的でないとした上でこれからの駅デザインを考える土壌を作ることにまずは行政の本気の取り組みの必要性を訴える点にも違和感はなかった。テーマの身近さ、内容の分かりやすさ、主張の納得感がある良著だと思う。
Posted by ブクログ
僕は仕事柄全国を鉄道で旅をしていて思うことがあるが、日本の駅は大抵醜い。東京駅や、新宿駅に見られるようにそもそも構造が人に親切でなく(東京駅などまだ新線増設でさらに駅構造が立体化される!)、それに輪をかけるように不快な空間設計、広告なのか何なのかわからない案内・誘導サインにあふれていて、一体自分がどちらに向かっていって良いかわからない。誰でも大きなターミナル駅で迷った経験の一度や二度あると思うが、それはあなたが悪いわけでも田舎から出てきたお上りさんだからでもなく、駅が悪いのだ。まさしく、列車に乗ってもらうのではなく、乗せてやるという鉄道会社の意識そのものが駅自体に現れている。
そうした酷い駅の中でも感心するような駅が有り、みなとみらい線各駅や、改装後の横浜駅は迷うこともないし、比較的快適だと思っていたら、著者が案内サインや空間設計で関わった案件だった。
本書は、過去の営団地下鉄の案内サインの基本設計(東京メトロになってから醜いけど)やみなとみらい線、つくばエキスプレスで同様の仕事を行い、公共交通機関の案内・誘導サインや空間設計に関わって来た著者による、駅設計への提言を一般向けに記した物だ。
著書の中でも述べられているが、都市のターミナル駅を鉄道会社にのみあるいは会社毎に管理、設計させることに社会的な資本の損失がある。駅周辺の都市再開発が行われることが多いが、駅その物がそこに組み込まれることは先ず無いが、駅そのものの快適さや構造が都市計画自体に組み込まれ、都市と駅での思想が統一されたデザインの上に成り立つことが理想だろう。ダンジョンなどといって面白がっている場合ではないのだ。それは単純にこの国の文化的な後進性の結果でしかない。
今後、高度成長期に建設された様々な公共施設が(それには駅舎も含まれるはずだが)老朽化し、大規模な補修や作り直しが必要となってくる。そうしたときに本書で指摘された視点や考え方が反映され、つまらなくて苦痛な通勤の通過点でなく、この国の文化を表すような空間になってくれれば良いと思う。そうなれば僕くの出張も少しは楽しくなってくるはずだ。
Posted by ブクログ
まずは表紙の絵を見てほしい。
少し細かいので見にくいかもしれないが、これは営団地下鉄(当時)大手町駅の案内図で、著者が関わったプロジェクトで作られたものだという。
駅の入り口から電車に乗るまでの一連のサインが白と(千代田線のカラーである)緑を基調としているのに対し、電車から降りてから駅の出口までは黄色を基調としたサインとなっており、分かりやすい。
私は普段から東京メトロのサインは他の鉄道会社よりも分かりやすいと感じていた。特に、ホームに続くエスカレーターの上に掲げられている停車駅案内図は、ホームの左右どちらの電車に乗ればいずれの方角に向かうのかがすぐに分かって便利だし、また路線ごとのカラー分けも明確だ。
初めて駅を利用する人にも分かりやすいようにデザインすることの重要性は普段から感じていたが、この本の第1章を読んでそれを再認識させられた。
第2章第1節では、その営団地下鉄大手町駅のプロジェクトについて書かれている。このプロジェクトは成功を収め、その後、著者がデザインしたサインは営団・都営地下鉄のすべての駅で採用されることとなった(また他社のサインにも影響を与えている)。しかし2004年の民営化以降は、案内図の中で広告料を支払った花屋や書店の名前が赤字で強調されるなど、ユーザーにとって分かりにくいデザインに「改悪」されたようである(第5章第4節で分かりにくくなったデザインについて書かれている)。
私にとって新たな発見だったのは、望ましいデザインとは分かりやすい案内図すらも必要としないということ。千代田線国会議事堂前駅は自然光が地上から下層階まで差し込む吹き抜け空間となっており、遠くからでもすぐにどちらが移動方向か分かるため、移動方向を示すサインを一台も必要としていないという(p.105)。駅のデザインとは、単にこの本の表紙にあるような案内図などのデザインにとどまらず、駅の空間も非常に重要であることが分かった。
この本では空間のデザインが悪い例として、半蔵門駅が紹介されている。改札階からホームに降りる階段が壁で覆われており視界が開けず、そのためホームの様子が上からは全く見えない。ゆえに「ゴーッという電車が入ってくる音がしたので慌てて駆け下りたところ、逆方向の電車だった、などとのことが日常的に起きている」(p.209)という。これは日常生活の中でもよく経験しているので、思わず納得させられた。
第4章では海外の各都市の駅のデザインが紹介されている。ここでは、各都市の駅の様子を順に少しずつ紹介し、写真を並べて掲載しているだけで、結局全体として著者が何が言いたいのかが分かりづらい。それぞれの説明も少なく、やや不満が残る内容であった。
都市別に分けて書くのではなく、良いデザインや悪いデザインの要素について説明した上で、その具体例として各都市の写真を紹介したほうが分かりやすかったのではないかと思う。
新書ながらカラーで写真も多く掲載されており、デザインについて新たに知ったこともあり、ある程度は満足している。ただ、この本はすべてカラーというわけではなく、白黒のページも少なくない。ゆえに写真が見づらいページもあったのが非常に残念であった。また、議論が少し色んなところに飛びがちな気もした。著者が全体を通して何を伝えたいのかがやや分かりづらかったのも少し残念である。個々の話題が面白かっただけに、もう少し全体の構成を工夫すれば著者の主張がより読者に伝わりやすい本になっていたと思う。
それにしても、デザインは面白い。
この本を読んだ後、街を歩きながら色んなデザインに注目するようになった。そして街のデザインをどのように変えていけば良いのか考えるようになった。このような視点を持ち合わせる人が増えれば、自分の住んでいる街はもっと良くなっていくであろう。