あらすじ
大学教授の夫が大学教授の妻を殺害? 殺されたとされる史学教授のサンドリーヌ、彼女はその誠実さで誰からも慕われていた。一方、夫の英米文学教授のサミュエルは、自信の知識をひけらかし周囲をいつもみくだしていた。彼は無実を訴え、証拠も状況証拠にすぎなかった。しかし町の人々の何気ない証言が、彼を不利な状況へと追い込んでゆく。やがて、公判で明らかになるサンドリーヌの「遺書」。書かれていたのはあまりに不可解な文章で……妻と夫の間に横たわる深く不可解な溝を、ミステリアスに描き出したサスペンス。
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Posted by ブクログ
これは、ものすごく身につまされた。
周囲を見下し、孤高を保つ夫・サミュエル。
過剰な自意識。自分はこんなところにいるはずではない。
頑なに自分を守り、他人を排除する。
内心は不平・不満・怒りに満ちている。
これは学生時代の私か?
しかも私は、そのプライドの高さから、そんな自分すらも他人から隠していた。
自分の不平・不満・怒りは日記の中にだけ。
いや、年齢と共に頑なに自分の中に閉じこもっていく姿は、私の母のようにも思える。
感情が表面にあらわれることはなく、他者への興味・共感を失い、家族の心配に心を向けることはない。
いや、いや。やっぱりこれは夫婦の問題。
知らず知らずに変わっていくのは人間として当たり前。
しかし、人として大事なものを失っても気づかず、相手の些細な変質を騒ぎ立てる。
自分を棚に上げて、相手への不満ばかりがたまっていく。
そんな夫婦にならない自信、ある?
読みながら、思考は過去へ未来へと揺れ動く。
サンドリーヌもサミュエルも、どちらも相手を愛していた。
愛していたから期待もした。
期待に応えてもらえないからサミュエルは孤高の存在を演じた。
そしてサンドリーヌは。
サミュエルは、自分ができる人間だから周りを見下していたのではない。
ゆきすぎたコンプレックスが、彼を鼻持ちならないインテリへと押しやった。
なんて深くて繊細な人の心と、その闇。
なんて深くて広い愛情。哀切。
読んでよかった。
Posted by ブクログ
新作が出ると読まずにいられない作家のひとり。
本音を言えば『ローラ・フェイとの最後の会話』あたりから作風が変わって来たように思える。これまでの自分の本棚とレビューを読み返しても「ついつい読むのだけれど、前の方がよかった」とぼやいている。
過去の何があったのか、読者はよくわからないまま、でも重大なことがあったのだろうな…と思わせつつひっぱってくるといういつもの手法ではなく、裁判劇である。裁判ゆえに過去なにがあったか、微に入り際に渡りほじくり返され衆人の目にさらされる。
そして読者は、主人公の「わたし」という人物を、本人はどう思っているか、他人はどう思っているかも知っていく。
物語の運びは、少々平坦で退屈である。
だがしかし、最後の証人による証言で、読者も主人公もあっと胸を強打される。そして、最後の一ページ。クックは読者を泣かせるのがほんとうに上手い。