あらすじ
11月19日午前6時42分、僕は彼女に再会した。誰よりも真っ直ぐで、正しく、凜々しい少女、真辺由宇。あるはずのない出会いは、安定していた僕の高校生活を一変させる。奇妙な島。連続落書き事件。そこに秘められた謎……。僕はどうして、ここにいるのか。彼女はなぜ、ここに来たのか。やがて明かされる真相は、僕らの青春に残酷な現実を突きつける。「階段島」シリーズ、開幕。
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Posted by ブクログ
新潮文庫創刊10周年の記念カバーにて販売されていたので、手にとってみました。 学園物の推理小説と思いきや、ある若いカップルの純愛を描いた恋愛小説とも取れる内容でした。 自己を犠牲にしても相手の全てを守ろうとする主人公と、その気持ちに応えたいと思う不器用な彼女。 すごく爽やかで心温まるラストシーン。 続編がある様子なので機会があれば読んでみたいと思います。
Posted by ブクログ
ずっと不思議な世界が広がっていて、ちょっと中二病っぽい(?)主人公の言い回し。けどこのミステリの核心に迫るにつれどんどん引き込まれる感じ。
以下はネタバレになるけど、
"成長"の傍らには自分の中で捨てた自分がいる、ということ、これが今までは考えたこともない発想だった。
そして自分が恋する相手の捨てられた部分に出会ったとき、走り出してしまうまっすぐさはいかにも青春って感じ。
個性が、人と人の関わりの中で、または大人になっていく中で、そのままである尊さと丸くなっていく必要性。なにが正しくて間違ってるのか、ぐるぐると考えさせられた。
Posted by ブクログ
七草と真辺の関係性が面白いと思った。
自分の性格が真辺とよく似ていて、理想を貫きたいと思う心境に共感できた。そんな真辺の人格が七草は自分にないものを持ってるから、好きなんだろうと思う。反対に真辺は自分についてくれる人が居ないから孤独を感じていて、それを埋めてくれたのが七草なんだろうと思う。
捨てられた人格が集まった島。
もし自分が主人公ならどんな人格を捨てるだろうかと考えてみたが、うまく言葉にできないと思った。
自分で自分自身の人格を理解していないからなのか
自分にコンプレックスがあるとしても何かよく分からない。改めて自分に対して向き合えるような小説だった。
Posted by ブクログ
本棚の目立たないところに置いてあった、学生の頃に読んだ記憶がある作品。だが、表紙以外ほとんど覚えていなかったので最後まで初見の気持ちで楽しめた。
階段島の暮らしぶりがとても綺麗で羨ましい、好ましい。捨てられた自分自身がいるとはいえ、階段島に悲しみや切なさはあまり感じなかった。
私は、七草的な考えを持つ。また(真辺ほどの理想主義者ではないとは思うが)真辺のような友人もいる。なので読んでいて、七草と同じような感情で読み進めていた。七草のように、自分が我慢すればことが上手く進むと思っている。正しさを信じ、理想を語る人を怪訝な目で見てしまい、理解ができない。その曖昧さに時に愚痴ってしまうこともあるけれど、言い換えるとどこかで理想を追い求める姿を眩しく感じている気がする。それでも、やっぱり波風を立てず平穏に生きることが性に合っているし好きな生き方である。
ただ七草と違って、真辺への恩はないので七草以上に真辺の理想に圧倒されてしまった。しかし、自分自身を捨てることで成長するわけではないと魔女を批判するといった旨の真辺には賛同できた。自分自身をも受け入れて生きていくことの方が、俯瞰的な考えを持ちあわせることができると考えているため。
プチミステリーという感じで、読み進めるまで結末や仕組み?が私には分からなかったので面白かった。魔女は何者なのかしら。何者でもないのか?続きもぜひ読みたい。
Posted by ブクログ
不完全な人たちだらけの世界。元の場所に戻るには、「無くした」ものを探さないといけない。最初は世界観がつかめなかったけれど、最終盤になって「そういうことか…!」と理解した。大人になる上で、無くしていかなければいけない部分、自分の愛せない部分、みんなそれぞれあると思う。それを切り捨てることは肯定的に捉えられがちだけれど、中にはその切り捨てた部分を愛してくれる人もいる。捨てないで抱えて生きていかないといけない物事もあるんだろうな、と思った。ほんの少しだけ、自分の中にある完全ではない部分を愛せた気がした。
Posted by ブクログ
村上春樹を思い出させる語り口だが、彼ほど陶酔的でなく、個人的でない部分は、村上春樹が好きな人と嫌いな人がいるように、この作品もまたしかりなのだと思う。
ライトノベル文庫なので、表紙の感じからしてターゲットは中高生向けに書かれた本だと思うが、大人が読んでも十分耐えうる作品になっていると思った。
自分のこれまでをこういった形で考えたことがなかったのですごく新鮮だったのと同時に、過去の恥ずかしい自分や今はなかなか出せていない当時の自分もどこかの島にいるのかと思うと、久々に会いたくなった。
最後の最後まで話の結末が見えず、ワクワクしながら読めたこともいいことだったと思う。
Posted by ブクログ
「階段島」と呼ばれる不思議な場所を舞台にした青春ファンタジー小説。そこは、捨てられた人間だけがたどり着く島。島から出るには「自分が失くしたもの」を見つけなければならない。
主人公の七草は徹底した悲観主義者。対する真辺は理想を追い続ける少女。島からの脱出をめぐって、痛みを伴なおうとも突き進む真辺と、小さな損失であっても拒む七草の対立は、本作の軸であり最大の見どころです。理想も損失のない世界も、結局は現実には存在しえない幻想に過ぎません。それでも、届かぬと知りながらも譲らない姿に、青春の苦さと眩しさが凝縮されています。
印象的だったのは、七草と真辺が「大人になった彼ら自身が切り捨てた人格」であるという設定です。彼らは、現実の七草達が既に捨て去った理想の化身であり、その擬人化とも言える存在。彼らが理想の体現者であれば、外敵のいない「虚無の楽園」としての階段島は、彼らの心象風景を映す舞台だと思いました。
その空虚さが物語に独特な空気感を醸成している一方、終盤に至るまではやや退屈さを覚える場面もあるのが正直なところです。
本作を読み進めると、妥協することを拒み、大人になることを拒否した彼らの叫びが、ひしひしと伝わってきます。理想を信じ続ける強さと、妥協を選べない弱さ。そのどちらも抱えながら足掻く姿は、読む者に「自分は何を切り捨てて大人になったのか」と問いかけてくるかのような小説です。
Posted by ブクログ
好きな人の無垢な部分を汚さず、ありのままで持ち続けてほしいという願いが切なく、それによって生まれる矛盾を受け入れている主人公が逞しく見えた。