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ひと月の間、天下の武田信玄を城に食い止めるという、菅沼新八郎定盈の壮挙が描かれる。そのクライマックスで語り終えるのでなく、東三河の野田から関東の阿保へ、菅沼家が移封されるまでを丁寧に描いているからか、それとも、架空の人物である野田四郎の因縁にも6巻越しの決着をつけているからか、物語完結の余韻をしみじみと感じさせる、堂々の最終巻。
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歴史小説を書くということは、歴史の中に一つの視座を定め、その視座に沿って一つのストーリーを切り出すということである。
長く中国古代史を書いてきた宮城谷さんは、日本の三河の小豪族の物語であっても、堂々たる正史の視座をとる。即ち、王者となるものには王者たる正当性があり、徳があり、その徳を慕って義や勇を備えた部下が集まってくる。そして欠かせないのは悪役というか、ライバルの存在。殷の紂王は暴戻に走って徳を失った、項羽は軍事において劉邦より優れていたが度量の大きさで劣っていた、と、ライバルの高い壁を乗り越えたのも単に戦に勝ったとか、幸運だったでは済まされず、ライバルよりも王者に相応しいことの立証が求められる。
そう思って読むと、この物語は面白い。徳川家康は何故天下を取れたのか、さまざまな歴史家や小説家が取り組んできたテーマだけれども、豊臣秀吉か、石田三成か、はたまた織田信長かと、彼のライバルをどう設定するかで描き方が変わってくる。本書では武田信玄をライバルと捉え、三河の山河に護られた者たちと武力優先の甲州軍団の攻防を、物語のクライマックスとして描く。そのクライマックスを導き出すために半世紀にも渡る三代記を描いたのだから筆者の執念は相当なものだ。執筆当初は「筆が進まなかった」というのも、長い年月を貫く徳なり情義なりを見出すのに時間がかかったということだろう。
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中国の春秋戦国時代を主に書いている作者の日本の戦国時代を書いた作品。
一代ではなく三代に渡ってひとつの作品としていること。そして三代というと徳川三代なら家康・秀忠・家光と考えるところだが、ここで出てくるのは清康・広忠・家康。そもそもなかなかスポットライトの当たらない家康に至るまでの三代の時代を描いているのだが、その三人が主人公ではなく、それに仕える管沼家が三代描かれている点が斬新といえば斬新。
歴史のスポットライトが当たるのはごく一部。でも、それを光り輝くために働いた人々が居たことを忘れるなよ!ということを痛切に感じさせてくれたのが本作品だ。
作品の中では、何となく流れていく部分と歴史の変節点となる部分に向かって流れていく部分など、自分の半生もそんな感じで流れてそうだなぁと何となく共感してしまうところが印象的。(いや、そんな歴史に残る人に仕えてはいないんですよ・・・。雰囲気の話です)
名誉・名声は確かに羨望してしまうものだが、堅実に生きることが大事。そう感じさせてくれる作品でした。
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本書のクライマックスとも言える野田城での30000(武田軍) vs 400(野田菅沼軍)の攻防戦。
リアル、スリーハンドレッド基、フォーハンドレッド in JAPAN!
約400年前にあった日本の話です。
そして、舞台は長篠の戦いへ・・・
戦国の明暗を分けた戦いの1つの顛末が、筆者独特の哲学にて語られます。
こんなこと、本当にあったんだ?
日本人は、なんだかすごいな。
そんな風に思える本書です。
それにしても塩を送ったり水を送ったりと、
日本の戦いは泥臭いのに結構妙なところでフェアです。
これも基質か?
結末はわりと切ない・・けど事実だから変えようがないのですね。
合計6冊中々読み応えがありました。
戦国時代の徳川、三河武士に興味があるなら特にオススメの本です。
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久々に読み応えのある長編を読んだ。
宮城谷氏は元々中国モノが得意ということで、使用される漢語が硬めなのと、序盤の豪族に関する記述が詳細なので、1~2巻は少し読みにくいかも知れない、、、と言うか、ここまでで挫折する方が居るかも?
が、3巻以降は非常にテンポ良く読めるようになる。
戦国時代中期以降に東三河に勢力を伸ばした野田菅沼氏の視点を通して語られる、織田・今川・松平・武田各氏の興亡は戦国モノ好きには堪らない。
特に序盤の松平清康(家康の祖父)に関しては、大著で扱われていることが少ないのでとても興味深く読めた。
以前から文庫化を楽しみに待っていたが、大満足でした(*´▽`*)
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清康から家康までの三代における三河地方の攻防を、徳川家家臣の野田菅沼家を主人公に描く。家康や信長などの武将達は突然現れたわけではなく、先祖から続く周囲との関係性や歴史的な流れの中にあるという、当たり前のことを、これまで意識していなかったと感じた。ある断面の分析ではなく、継続した流れが見えると、理解が深まる。
著者である宮城谷昌光氏は、司馬遼太郎の私淑しているという。文章に司馬さんが影響が感じられ、読んでいて心地よい。
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最終巻は小説全体のクライマックス。
武田信玄上洛時における菅沼氏による野田城籠城戦。
寡兵でもって武田の大軍を一月釘付けにしたその攻防は、作者がもっとも描きたかった場面だろう。
読み応えがあった。
その場面以前にも、武田方が侵攻してくる場面は読んでるこちらも息が詰まるようなドキドキ感を持った。
歴史上、信玄の上洛時のエピソードは家康の三方原の敗戦とか、
城攻め時の信玄狙撃疑惑とかは知っていたけれど、
それがこの野田城のことで、しかも一月にわたる攻防があったことは、今回初めて知った。
こういう新しい発見があるのが歴史小説のいいところだと思う。
シリーズ六巻の前半は菅沼定則が、後半は定盈が主人公だけど、実は全体を通しては野田四郎が主人公というか、狂言回しのような役割を担っている。
彼はおそらく創作上の人物だけど、それがこの物語に読者を引き入れる魅力となっていると思う。
久々に読む歴史小説だったけど、最後まで楽しませてもらいました。