あらすじ
高校生・聖司と駿介は春休みの学校で一人の少女と出会う。彼女は休み後に留学予定で、その前に思い出の時計塔を見にやってきたという。しかしそれは壊れていた。二人は、少女・慧のために修理することを誓うが――
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Posted by ブクログ
パイセン本。時の流れの中に置き去りにされた記憶を、もう一度手のひらにすくい上げるような一冊だった。
『青春時計』は、その名の通り「青春」という曖昧で、けれど誰にとっても確かな時間を、複数の視点で丁寧に描き出している。森橋ビンゴ、川上亮、緋野莉月という異なる作家たちが、それぞれの感性で紡ぐ青春模様は、まるで一つの時計の針が異なるリズムを刻みながらも、最終的に同じ時を指し示すような統一感を見せる。
恋や友情、すれ違い、後悔――そうした青春の断片は決して派手ではない。けれどその静けさの中に、確かな熱がある。登場人物たちは誰もが「今」という瞬間を懸命に生き、その不器用な姿に、読者は自らの過去を重ねずにはいられない。
特筆すべきは、作品全体に漂う“俯瞰の眼差し”だ。甘酸っぱさにとどまらず、どこか人生を見渡すような成熟した筆致があり、単なるラブストーリーの域を超えて、人が成長していく過程そのものを描き出している。
ページを閉じたあと、胸の奥に残るのは郷愁と静かな希望だ。
「青春」は過ぎ去るものではなく、誰の中にも今なお時を刻み続けている――
『青春時計』は、そのことを優しく、そして深く教えてくれる作品である。