【感想・ネタバレ】イモータルのレビュー

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Posted by ブクログ

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ムガル帝国皇帝の息子からフランス革命期の学者、そして現在日本の普通のサラリーマンへと、時代の垣根を越えて受け継がれる「智慧の書」の物語。「智慧の書」とは古代インドより伝わるウパニシャッド哲学(ヒンドゥー教の聖典)であるが、この内容については多く語られておらず、どのようなことが書かれているのかとても興味を持った。この本を読んで感じたことは、時代背景や文化、習俗、さらには宗教さえもが違っていたとしても、人が人である限り、我々が人生で感じる悩みや苦しみは根本的に同質であるのだ、ということである。これは言い換えれば、時代や文化が異なっていたとしても変わらない人間の普遍的な価値観が存在する、ということで、それを知るためのヒントを我々に教えてくれるのが、哲学や思想、宗教なのだと思う。自分としても、時代や文化、世俗の考え方に縛られないで自分だけの価値を人生の中で見つけたいし、そのためにも、過去の悩み抜いてきた先人たちの知恵を借りたい。科学技術がここまで進歩し、生活環境が100年前と比べても激変した現代だが、そこに生きる我々は、1000年前2000年前の人間が抱えていた悩みや苦しみと同じような感情を未だ持ち続けているのかもしれない。

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2022年09月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

小説として、各章それぞれは、面白かった。
読みやすく描写も生き生きとしていて惹き込まれたので一気に読み進めることができた。
でも、一冊の物語として読み終えた感想としては、モヤっとしている。

各章に描かれている主人公たちが直面している問題が、共感できるものだった分だけ、物語全体の主題となる筈の「賢者の書」に記されている内容がそれに釣り合うものなのか、自分の中に納得感が生まれなかった。

私がもっと哲学に精通していて、ウパニシャッドの実体を理解していないまでも、凡そこんな内容が書いてある、といったことを知っていれば、もっと違ったのだろうか。

デュペロンの章の「言葉」と「金」についての、それぞれの哲学と人間ドラマは、とてもドラマチックで面白かった。
そこから、また現代に戻るのかと思いきや、更に遡るとは思わなかった。

シコーの章の「神」と「この世」の有様も、構造として面白かった。この世で対立していた弟ではなく、占星術師を対立する存在として書いてあったところは、なぜなのか、私には自分なりに解釈しきれていない部分ではあるけれど、「生き方」「あいまみえぬ哲学」に主題をおいたものであれば、そういうものか、とも思う。

ただ、シコーの章を読み終えて、これから、物語の中心線に戻るのだろう、この前提から、日本人の主人公はどう動いていくのか、という期待をもって次の章に進もうとして、残りページの少なさに愕然とした。

なんで日本人がインドに行かなきゃならなかったのか?
デュペロンの章で日本に言及されているけれど、シコーとは関係ないんじゃ?
あえてインドに行って時空を超えることに、納得感がまるでなかった。
デュペロンとシコーの章が、現実の存在としての「言葉」を丁寧に扱っていた分だけ、書物や言葉って物理的に時空を越えるためのものではないよね、と感じてしまった。

各章それぞれが、小説としてとても面白かったので、残念だ。
読後の釈然としない思いをどうにかしたくて、他の方の感想を拝見した中で、それぞれ別の短編としても良かったのではないか、というのを拝見し、大いに同意した。
論理的に構造化しようとしたことで、返って、矛盾が大きくなってしまっている印象。

あと、小説としての感想。
各章に登場する人物全てに対して、きちんと人格と信念を認めている、いわゆる「モブ」として使い捨てにするような人物が一人もいない描写、その視点はとても良いと思った。
最近の小説に多い、全ての人間が醜い矛盾した部分をもっているという視点を強調した物語とは違っている。
だから、読んで良かった。

あと、女性の描写が上手いと思った。
各章の主人公たちのどうしょもない部分を受け入れてくれる存在として描かれているのは皆一緒なのだけれど、それを無条件じゃなく、ちゃんと葛藤と諦めの中で受け止めてくれている、というのがリアルで良かった。作者が女性だったら、こんなに綺麗な印象で彼女たちは終わらなかっただろうな、と思う。

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2018年11月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

物語の大きさと、それを内包する構造に圧倒されながら読んだ。また、「物語」というものが、ひとことで語り得ない歴史を宿している、という認識を新たにできた。
うつわを傷つける敵は外にあるだろう。が、中身を傷つけられるものは、実は、その敵を怖れすぎる自分の気持ちだけなのかもしれない。など、とも。
2018.8.20.

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2018年08月20日

Posted by ブクログ

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なかなか不思議な、幻想的な一冊でした。

「智慧の書」を介して現在、18世紀フランスの革命、17世紀インドのムガル帝国とまるで3冊を同時読みしたかのような感じです。

本作の主人公は隆なんです。

その隆の兄はインドで消息を絶ち、そんな兄が残した「智慧の書」を手にしたところから不思議な世界が始まります。

当然、過去の時代には隆は登場しません。

難解だからこその「哲学」。

己が未熟故に、まるで歴史物語を読んだのかと錯覚さえしてしまう。



説明
内容紹介
18世紀フランスの革命、17世紀インドのムガル帝国――兄の遺品の中から見つけた一冊の本が導く、言葉と哲学の時空を超えた闘い。
内容(「BOOK」データベースより)
インドで消息を絶った兄が残した「智慧の書」。不思議な力を放つその書に導かれ、隆は自らもインドへと旅立った…。ウパニシャッドからショーペンハウアー、そして現代へ。ムガル帝国の皇子や革命期フランスの学者が時空を超えて結実させた哲学の神髄に迫る、壮大な物語。『不滅の書』を改題。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
萩/耿介
1962年東京生まれ。早稲田大学第一文学部ドイツ文学科卒。2008年『松林図屏風』で第二回日経小説大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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2021年11月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「智慧の書」を巡る壮大なドラマ。現代、18世紀のフランス、17世紀のムガール帝国。ウパニシャッドの原理を伝えようとする意志が現代に繋がる。

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2018年10月21日

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