【感想・ネタバレ】ぼくは物覚えが悪い 健忘症患者H・Mの生涯のレビュー

あらすじ

脳手術の後遺症で記憶を新たに作れない脳障害患者H・Mが記憶の科学に残した遺産はいかに巨大だったか。長年治療にあたった医師自身が綴る、「医学史上最もよく研究された患者」の記録。映画化決定!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

望みをかけて臨んだてんかんの治療のための手術で
脳の一部を切除し、術後からの記憶をとどめることが
出来なくなったヘンリーの記録。

現在に閉じ込められた…と聞いても
中々どんな状況なのかなんて想像もつきません。

会う人々がみんな知らない人。
今いる場所もわからない。なぜそこにいるかも。
お腹がすいているかもや喉の渇きもわからない。
時間がたつとどこがどういう風に痛いのかも説明できない。
家族が亡くなったのも覚えていられない。

こんな状況で、いつも笑みをたやさず
自分からすすんで脳科学の研究に協力するヘンリー。

自分らしさを形作るものは、膨大な過去が
積みあげてきたものによると思っていた私。

毎日が新しいことの連続なのに、
会う人には冗談を交えた会話をし、
家電機器の変化も、引っ越した家も
医療機器の変化やコンピューターにも
鏡の中の老けた顔の自分までも丸ごと受け入れるヘンリー。

読んでいるだけで頭が痛くなりそうな記憶検査。
質問にはきちんと答え、たまには期待に応えようと
作り話っぽいことまでしてくれることも。

不安やふがいないことも沢山あったはずなのに
誰も恨まず何がヘンリーをそこまで協力的にするのか。

それは「誰かの役にたつこと」が支えていたんだと思います。
この検査が、この質問が、自分が発するものが
みんなの役に立っている。
そこに自分を誇るものがあったのだと私は思います。

この著者は長年研究者という立場でヘンリーの傍にいましたが、
決して研究者だけの関係ではありませんでした。
温かく家族亡き後のヘンリーを支えてくれています。

論文などで有名になったヘンリーを
マスコミなどからも守ってくれました。

研究対象者としてだけではなく1人の大切な人として
長年接していたコーキン博士。
手術後に出会った人が覚えられないはずのヘンリーが…。
大切なことには奇跡がつきものなのかもしれません。

とにかく難しい本で、ほとんどわかりませんでした…。
記憶といってもなんと種類の多いこと!
そして私たちの脳のなんと複雑怪奇なこと!!

ちょっと医学的な部分を端折って、
ヘンリー・モレゾンの記録中心に読みましたが
それだけでも感動です。

神経回路とは、まさに神の路。
分断されたとしても、大切な路は
紡がれていくものなのです。

0
2015年02月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

てんかんの外科的治療のため両側の海馬+海馬傍回を切除したHMは新しい物事を覚えようとしても15秒以下しか記憶がもたないという重度の健忘症に苦しめられるようになった ー 非常によく調べられ、有名な患者であるHMについて、主研究者であったスザンヌ・コーキンが記した本。内容的にはセンチメンタルな部分は少なく、神経心理学的な話が中心。多少なりとも神経科学の知識がないと難しいかもしれない。

これまであまりよく知らなかったが、HMは手術を受けたあともてんかん発作には悩まされていたという。また、抗てんかん薬の副作用らしき小脳萎縮も顕著で、運動を指標とする検査結果の解釈は若干慎重に行うべきらしい。

HMは両側海馬の前方3分の2、海馬傍回が切除されていた。現代の神経科学の知識によると、この手術によって短期記憶は損なわれなかったが、短期記憶を長期記憶に変換する過程が障害されていたということになる。

日常生活では陽気で人懐こかったという。日常生活上の不安や苦しみの多くは長期記憶や未来の心配から生じることを考えると、ヘンリーが人生の大半をストレスに煩わされずに生きてきた理由も見えてくる、と著者は言うが、扁桃体が切除されていたせいもあるのかもしれない。また、未来の出来事を想像する時は過去の体験を組み合わせるため、脳回路も過去を思い出す時と同様、内側側頭葉、前頭前野、後頭頂皮質などに依存する。ヘンリーには未来を想像して不安や恐れを抱くということがなかったらしい。

・陳述記憶はほぼ全て失われていた
陳述記憶はエピソード記憶と意味記憶に分けられる
意識してものを記憶するためには海馬とそれに隣接する海馬傍回が必要である。
海馬傍回はさまざまな知覚や文脈を海馬に伝え、海馬はこれらの情報を結びつける
見たもの、聞いたこと、匂いなど、その時の複数の情報、出来事の順序、他の体験との関連

・非陳述記憶は保持されていた
手続き記憶
運動の学習は初期には運動野と前頭前野、頭頂葉、小脳などが活性化する。習熟してより自動的になってくると線条体や小脳もこれに加わってくる。海馬や海馬傍回はこれに関わってないため、ヘンリーも記憶することができた。
プライミング
プライミング効果も認められた。このことから、プライミングの神経回路は高次連合皮質内の記憶回路に局在すること示唆されている

・逆行性の健忘もあり、自伝的な記憶は障害されていたが、意味記憶はよく記憶していた。
すなわち、自伝的な記憶の固定には海馬が必要だが、事実や一般的な情報などの記憶固定は海馬系に依存しない。

・短期記憶は特定の回路同士が閉ループ内で連絡しあうことで可能になるが、長期記憶はニューロンの可塑性による。

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2014年12月12日

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