あらすじ
母子家庭で育ち、幼いときに母に捨てられた少年・慶吾。孤独の中で囲碁に打ち込む慶吾の姿を、写真部の香田のカメラがいつも捕らえていた。香田の屈託ない態度のおかげで徐々に心を開いた慶吾は、それまで避けて通ってきた母の家出の理由と向き合おうとするが……。囲碁を通じて自分を取り戻す青春ミステリ。
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Posted by ブクログ
5歳の冬に帰ってこない母に捨てられ、施設で育った慶吾。
当時母が夢中になっていた囲碁をやるようになり、高校の囲碁部で、香田と出会った。
高卒後、信金で働きながら夜間の大学に通い、彼女もできた。
それなのに、体調を崩して大学も中退をせざるを得なくなり、彼女にも愛想をつかれてしまった。
母に捨てられたという気持ちから逃れられないままの自分。
香田と喧嘩して、自分の殻をわずかにでも破ることができた慶吾は
自分を捨てた母が当時何をしていたのかの真相と向き合うことにした。
一人になりたくて、一人で生きてきたつもりだったけど
自分の味方になってくれる人は何人もいた。
一見物わかりの良さそうで実は押し殺した部分を持っていて、どこか諦めていて、頑なだった慶吾が
香田に自分の思いを爆発させるところが
よかった。
Posted by ブクログ
題材の1つに、将棋や囲碁が関わっているとつい読みたくなる。将棋や囲碁はルールが分かる程度のド素人で、詳しい事はよく知らないのだけれど。将棋や囲碁を扱う小説の多くは、対局場面など緊張感があり、棋士同士の駆引き、思考の深淵に沈み究極の1手を探すと言った展開など、少なくても私を惹き付けるストーリーがある。
ただこの小説では囲碁はストーリー上、重要な要素ではあるが、ストーリーの根幹をなす「メインテーマ」は「孤独」或いは「育児放棄」であり、囲碁は添え物にすぎない。
この小説を読み進んでいけば、この「育児放棄」が、世間一般に言われている育児放棄と違い、己れ自身の生き方を貫くための己れと息子に対してのギリギリ取れる最後の境界的行為だったのだろうと言うことが分かる。
これが最後!という行為は、しかし思わぬ事態が起こり、母と息子の致命的なすれ違いを招く。他人は母を「無責任」と言い、息子である主人公は母を求めながらも怨みそして憎む。主人公「沖田慶吾」の、この母請いとそれが叶わない怨み辛みが、主人公自身を1人「孤独」に追いやる。そしてその「孤独」が、周囲の人の優しさを撥ね付け、恋人を去らせ、親友を傷付ける。
親友「香田純隆」と喧嘩して暫く会わなかった時の慶吾の行動が悲しい。慶吾の部屋の冷蔵庫の中の大量のコーラは、香田がまた来てくれるかもしれない期待の表れ。自分から謝りに行けない不甲斐なさ情けなさの象徴。
慶吾の人生が、無意味なものから有意義なものになるには、真っ正面から「母」そして「囲碁」と向き合わなければならない。
慶吾の背を押したのも香田!慶吾は母と「自分を捨てた」時そのままの碁を打つ。ただ途中から当時の自分の手ではなく、今の自分が考え感じた手を打つ。それが慶吾の成長、そして母への思いを語っている。
私的には、けっこう面白く一気に読めた作品だった。