あらすじ
それは、予言されざる死だった??著者の意図せぬ主人公の死、その少年に託された「アルタッド」という名のトカゲとの生の日々。選考委員の保坂和志氏、大絶賛! 衝撃の第51回文藝賞受賞作。
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大学を卒業したが、進学も定職に就くこともせず、バイトと小説の執筆だけで日々を過ごす主人公の本間。ある日、その小説も自分の意図に反して主人公・モイパラシアが死ぬという展開に陥り、書くこともやめてしてしまう。本間は原稿用紙と「死んだ主人公の腕」を庭に埋めようとするが、そこからは小説内でモイパラシアが飼っていた、トカゲのアルタッドが現れるのだった。同時期に庭に現れた同じく小説内のサボテン・アロポポルもアルタッドもある意味「普通の」動植物だが、ともに生活し彼らを見つめるうちに、本間は少しずつ変わっていく。(続
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bound proof 未校正版にて。
「書くこと」とは何か。そのことに対する逡巡。これはとても素敵な、そしてとても大切な作品だと思った。
書きたいけれど書いたことがない人は論外として、小説を書き始めたならば、避けては通れない問題がある。なぜ書くのか。いかにして書くのか。小説世界は作者が創るものだとしても、作者の思惑通りにすべてが進むわけではない。作者が創ったはずの登場人物たちにはそれぞれに感情があり、それぞれの為すべきことを為す。だから作者は、書き手であり、同時に第一の読み手でもあるのだ。本間は書き始め、モイパラシアの死によって書くことの孕む問題に突き当たり、そして怖くなって物語を葬る。しかし既にモイパラシアもアルタッドも、そしてアロポポルも存在を始めており、物語を葬ったところで、その事実は覆せない。それは強迫観念であり、また同時に希望でもあると思う。それは、本間が再び書き始めるための、希望だ。
モラトリアム、と言ってしまうことは簡単だ。しかし人間には、人間らしく生きるために思索の時間が必要なのだと思う。ただ思索をするためだけの時間が。その思索の時間を経るからこそ、次に進むことが出来る。それで再び書き始めることが出来ないならば、それまでのことだ。
書くことの歓喜と恍惚。書くことによって汚される物語世界。言葉とは、何か。書かなければならない人間は不幸だ、と誰かが言っていたけれど、これは書きたいとか書きたくないとかの問題ではない。「書かなければならない」のだ。書かずに済ますことは出来ない。書かないことは死を意味する。だから、書く。歓喜と恍惚を与えてくれるような言葉。本間と亜希が点描によってアルタッドの生きた証を描き出したように、書くことで何か大切なものを掬い取れるかもしれないから、そんな奇跡のような一瞬を求めて、書くのだ。
この作品の中で一つ気になったのが、「さて」と「ところで」の使い方だ。この二つの接続詞によって、所々文章が分断されている感じがする。この接続詞だけが宙に浮いているような。これはわざとそうしているのだろうか。
しかしこの作品は間違いなく、美しい小説だった。
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現実なのか、はたまた現なのか。
物語でふいに死なせることとなった人物から
一匹のトカゲ「アルタッド」を受け取った男。
そして、もう一つ彼はその人物から
植物を受け取るのです。
アルタッドとの不思議な生活。
そして、現実と空想の狭間にいる苦悩。
読み終えても、これは本当の世界での
本当の出来事だったのか。
はたまた少々頭のイカれた男の
煩悩の中だったのか。
わからないだらけだけど、読み心地は
非常によいものでした。
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小説の主人公である少年が作者の知らないうちに死に、現実の世界には少年から託されたトカゲのアルタッドとサボテンが出現する。架空のものだったはずのそれらを、現実世界で育てていく作者(小説家志望の大学院浪人生)の話。
設定こそ奇妙でシュールだが、テーマは「書くこと」とそれによって与えられる「命と死」である。物語からこぼれ落ちてしまったトカゲとサボテンの飼育を通して、作者は書くことの根源、意義を真っ向から見据えて、ラスト数ページで明らかにしている。
トカゲとの生活はリアルで、微笑ましい。爬虫類は得意でない私ですら、愛着が涌くほどだ。小説が完成したとき、アルタッドは現実の世界から消えてしまうのだろうな。
元恋人との距離感も絶妙だ。
頭でっかちで堅苦しくなりがちなテーマを、じつにうまくアレンジしている。
文藝賞を受賞したデビュー作で、大学院在学中に執筆したそうだ。新鮮さに今後どんな魅力が加わるか、楽しみな作家だ。
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献本企画にていただきました。
突拍子のない始まりから続くリアルの物語。正直あらすじを読んだ時からこれはどういう意味だろうと思っていたのだけれど、本当にそのままの意味だった。作中で死ぬはずのなかった人物が死ぬという不可思議な事態に陥るのは面白い。現実にはありえない非現実性が逆に魅力に思えた。
固有名詞に少し引っ掛かりは覚えたが、文章は読みやすい。アルタッドに対する思いが溢れていて、思わずトカゲ飼いたくなった。
しかして現実にはありえない現象である。不意の出来事で筆は止まり、書くことは頓挫した。その代わりにアルタッドの世話を焼くがそれでは前に進まない。やる気がうすく、現実を直視したくなくて逃げる言い訳を探している。
「書くこと」それ自体は少しでもしたことがある人なら完結させることの大変さがわかるかと思う。言い訳を探して書かないことなんざ、日常茶飯事。気分が乗らない、夢見が悪い。箪笥の角で小指をぶつけた。さまざまな言い訳ができる。けれど書き上げることができたなら、そこには奇妙な高揚感がうまれるだろう。主人公は書くことではなく描くことで、その気持ちを思い出したように思う。
迷子たちを再び物語のなかに帰してやる、という表現がなんともその気分の高まりを表しているようにも思える。
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第51回文藝賞受賞作 刊行前サンプル版レビュー。
理屈をこねるような文体なのだが、言葉選びは適確のようで、物語の終結点までの流れは淀みなく体に浸み透った。本質的にとまでは言わないまでも、作者の言わんとする恍惚や高揚が生に対して持つ意味、あるいは死に向かい合う緊密な距離のようなものを享受できた。そんな気がする。
本間は人間の本性をある程度バランスよく備えた人格を持っていて、だからこそ生きているということが死んでいくことと同義であることも心から理解している。
モイパラシアの生を受け継ぐかのような始まりだったが、本間の生を彼のものに戻し、彼の死をあるべき位置にまで遠ざける契機を与えたのが、亜紀であることは意外だった。
「点描の恍惚の夜」を迎えるまで、アルタッドとの関わりはアロポポルと同じくモイパラシアの残像としてのそれだった。
しかし本間自身の学生時代…彼には大切だった時間の共有者であると同時に、彼と現実社会を軋ませることなく繋いでいる唯一の存在である亜紀が、まるで触媒のような働きで、本間の生と死を本間の中に取り戻したように感じる。
そう言えば、妄想の産物であり、実体など存在しないはずのアルタッドに亜紀は触れ、餌をやり、絵に描く。
亜紀もまた、本間の一部。そんな陳腐な言い方しか浮かばないが。
ものを書くひとりの人間が、ものを書くという行為それ自体に倦み、取り憑かれ、現実の中に非現実を生み出す狂気。彼の言う積極的諦念はアルタッドとの穏やかな暮らしの中で醸成され、生が死の対極ではないことをも悟らせてくれたのだと思う。
心地よく、本当に心地よく読み終えた。清々しい。だからこそ、一部の文学愛好者には物足りないかもしれない。私には丁度良い。
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作家を目指す23歳の主人公。大学を卒業して、大学院の試験を再受験しようというところだけれども、傍ら小説を書いていたみたいです。アルタッド、は、その小説に出てくるトカゲ君。
本書を書かれた当時の著者の年齢と重なるところもあり、小説を書く過程での葛藤みたいなものが刻まれているような気もしてきます。
先日『生=創x稼x暮』を読んだところだったので、その中の一人のお話みたいだなー、と、創ることをどう続けていくか、稼ぐや暮らすこととどうバランスをとっていくか、という視点も持ちながら読んでいました。
お金は底をつきそうだけれども、どうしてもそのお話を殺してしまってはいけない、自分にある使命感をどう保ちつつ、それを通して自分を保ちつつやっていくか。
元カノとも久しぶりに会うのですが、どうやって暮らしも崩さずに、創る、とつなげていけるのか。
アルタッドを養いながら、養われながら、何とか進んでいく、空想的であり現実的でもあるお話でした。
でもやっぱ、創りたい何かがあるって、強いなー。そして、その意志を必死で支えるためにも、周りからの支えや、想像上の支えの大事さ。
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勝手に死んでしまった小説の中の少年からトカゲとサボテンを託された作者。
あらすじだけではさっぱり意味のわからない不条理小説のようなのに、内容はむしろ現実的であわあわとしている。
小説を書かなければいけない、まだ書くべきではないとせめぎ合い、1年もの何者でもない期間を、トカゲとの生活に費やす。
ひいてはなんのために生きるのか、と。
モラトリアム期の鬱屈を陰鬱に書くでなく、ユーモラスに書くでなく、ただ淡々と、ありのままに書いている感じ。
面白いけど、あともう少し、何かが欲しい。
最初の数ページの、アルタッドが現れる辺りが一番面白かった。
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架空のような村の民族の話しから始まり、現代社会へとそれがリンクしていく。実は村の民族の話しというのが小説の中での出来事だった……。
普段知ることのないトカゲの習性、生態がわかった小説でした。
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1ページ目でぐっと引き込んできて、あとはチョットしりすぼみだったかな。設定をそのまま書いているような説明的な文章、死生観も唐突だし、もうちょっとうまく書けたのではとどうしても思ってしまった。
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献本企画でいただきました。文藝賞受賞作です。 幻想と現実が入り混じった小説家の卵のお話。どこからが幻想でどこまでが現実なのかわからない。すべてが妄想なのかもしれない。きっとどちらでもよいのでしょう。哲学ぶって、理屈をこねくり回しているだけかもしれないけれど、無為に過ごす日々がいつか有為になるかもしれない。ならなかもしれない。それすらもどちらでもよいのでしょう。只々すごく雰囲気のある小説でした。その分、好き嫌いが分かれるかもしれません。
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小説家を目指すニート青年が原稿用紙から飛び出してきたトカゲもどき(ファンタジー作品の動物なので実在はしない)の世話をする話。
原稿用紙から実際に飛び出してくるからファンタジーかと思いきやそこから事件が起きたり話が展開したりするわけではなく、主人公もそれを当然として受け止めているのでファンタジーではない。
持って回った言い回しや凝った文章を書きたい青年の妄想録のような文章は面白かったが、ストーリーがない。
登場人物は自分と創作作品のキャラと元カノだけで、行動範囲は基本的に家の中だけで世界がとても狭く感じた。
創作作品の描写は細かくて情景が浮かぶような文章力はあると思うけど、分かりやすい話が好きな自分には合わなかったな。
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成熟した文章表現と
あまりに幼い主人公の思考とのアンバランスさ。
主人公は学生なのだから考え方が幼くても
不思議はないのだけれど、
計算されてのことだとするとすごいな、と。
自分の創作した世界の顕在化は
創作する者にとっては一度は夢見ることだと思う、
それを或る意味で実現させたわけですね。
”書くこと”に対する考え方に関してはあまり共感できない、というか、
なんだか十数年前の自分の日記を読み返しているような気恥かしさがあった。
それを踏まえて10~20年後、アルタッドと本間のその後を書いていただきたい。
Posted by ブクログ
今年の文藝賞受賞作。献本企画で頂き、光栄にも
読ませて頂きました。
難解なお話、というのが最初の印象。
読み進めてゆくと、村上春樹さんの
「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」
をどういうわけか思い出しました。
作者様がお好きなのかもと、ふっと考えついたり。
主人公は、何故か物語の中で死んでしまった人物から
アルタッドというトカゲを譲られます。
自ら紡ぐ物語の中からやってきたトカゲ。
アルタッドとの、現実か夢のあわいか…と思うような生活。
そういう側面を見れば、これはもちろんファンタジーで。
主人公が小説をものしようといろんな着想や言葉、
世界観を自分の中で形にしようとする経過を見れば
これは現代小説で。
まとまった作品世界を生み出すまでの、ふわふわとした
思考の塊を、何をするでもなく捻り続ける、小説家の脳内
を垣間見させることと、作品世界が書き手にとっては、
「紛れも無いもう一つの現実」
だと知らしめるような、言葉の世界から具現化してきた
アルタッドとの生活。
異質な二つの世界を、「死」を夢想するということで
繋ぎあわせたのが、この作品です。
このお話を練りながら、作者の金子さんもこういう思考や
心理状態を辿ったのかな、と深読みもしましたし。
二つの側面、どちらかに重点を置いて描いていたら、
もっと分かりやすいお話になったのでしょうね。
アルタッドという同居人を小説世界で自在に動かすために
一見停滞しているような日常の中で考えを尽くす主人公。
振り返れば「現実」にまでやってきてしまったアルタッドとの
日々は、主人公が原稿用紙の上で活写したいことなのだから
愛しくも心和む時間になるのは当然かもしれません。
いいですよ。トカゲ。うん。
実際には主人公、なかなか筆は進まないので
その閉塞感が難解さとか、なんとなく作品を覆う
疲労感になっている気がします。
魅力的な世界を生むために、こんなにも閉塞した中で
降りてきたインスピレーションと付き合うのはキツイ…と
そんな納得の仕方をさせてもらいました。
これが作者様の現実ではなく、小説だというのだから
なおすごい。
実際にこういう経過を辿って作品が
生まれてくるとしたら、本当はもっとシンプルな
掴みどころのない感じなのでしょう。
それを小説にしたら文章がドラマチックになった、という
解釈を私はしました。
書いた経験のない読者には、少々難しい感じがしますが
解りにくいからと放り出さずに、じっくり二度読みがいいかも。
次回作はどんな感じなのでしょう。
意外とガラリと違うものをお書きかもしれないと
何故か思わせる作品でした。
Posted by ブクログ
献本企画で読ませていただきました。うーん、正直言ってなかなか作者の世界に入れませんでした。アルタッドがとても魅力てきなのは伝わりましたが、カタカナや凝った表現が私的には邪魔になって、あまり入り込めませんでした。作者の力は感じましたが。つぎはもう少し気負いない作品でお目にかかりたいです。
Posted by ブクログ
文藝大賞の献本企画でいただいた。
主人公の書く小説の中から出てきた(と表現していいのかどうか?)トカゲのアルタッドとの生活。比喩表現なのか何なのか、非常に不思議で幻想的な雰囲気の小説で、それが夢なのか、現実なのか、生活のスパイスの比喩表現なのか、そもそもファンタジー要素でアルタッド実際にいるんじゃないかとか、いろんな考えが頭をもたげる。
アルタッドが妙に可愛いし雰囲気は好きだけど、巧みな表現方法が全体に及んでいて、国語の授業中にやった「この比喩表現は何を言っているのでしょうか」という課題をひたすら投げつけられているような気分になって結局の所なんだったのかよく分からないままに読んでいた。
文章に力が入りすぎてやしないか?それか私にはレベルが高過ぎたのか…