【感想・ネタバレ】「流れる臓器」血液の科学 血球たちの姿と働きのレビュー

あらすじ

血液についての「真っ赤なホント」の話! ミクロの細胞たちの驚くべきシステム。血液は固まらないから流れ、流れるから固まらない!? ヘモグロビンは酸素を運ぶが、炭酸ガスは回収しない!? 血液の凝固と止血とは似て非なるシステム!? 血液型性格診断のウソを見破った実験とは!? (ブルーバックス・2009年2月刊)

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Posted by ブクログ

【目次】

はじめに

第1章 血液を観る

1-1 血球の多彩な姿
血液の固体成分 / 極小・多彩な成分 / 美しい血球像 / 赤血球の変形能力 / 鎌形赤血球症 / 赤血球の構造 / 赤血球には核がない / 白血球の姿 / 血小板の姿

1-2 血漿とその成分
血漿の正体 / アルブミン / グロブリン / アルブミン対グロブリン(A/G)比 / 血液凝固因子など

第2章 血液の循環と働き

2-1 血液の通り道
血液は最大の「臓器」 / 血液を巡らせる「圧力」と「しなやかさ」 / からだの中の上・下水道網

2-2 血液の働き
血液の六つの働き / 水分の保持 / ラクダの超能力 / ガス交換 / ヘモグロビンについての誤解 / 血液は弱アルカリ性 / 赤血球は酸素がいらない / 栄養・ホルモンなどの運搬 / 体温調節 / 脳を守る冷却システム

第3章 ヘモグロビンの正体

3-1 血液はなぜ「赤い」のか
血はなぜ赤く見えるのか / 静脈はなぜ青く見えるのか / 静脈が「赤く」見える場所 / 筋肉はなぜ赤いのか

3-2 ヘモグロビンの構造と役割
酸素の運び屋 / リン酸化合物の仕事 / 高地順化 / 「大人のヘモグロビン」と「赤ちゃんのヘモグロビン」 / 青白い母親と真っ赤な赤ちゃん / 新生児黄疸がなぜ起きるのか

第4章 白血球の姿と働き

4-1 顆粒球と単球
染色による観察 / 好中球はピンク色 / 好酸球はサーモンピンク / 好塩基球は青紫 / 単球は大食漢

4-2 リンパ球
スカイブルーのリンパ球 / リンパ球の種類

4-3 白血球による免疫の仕組み
感染に対する幾重もの備え / 好中球とマクロファージの働き / B細胞による免疫 / 抗体の発見 / 免疫の記憶 / 顆粒を持つ大型リンパ球 / T細胞による免疫

第5章 凝固と溶解の驚くべき仕組み

5-1 血液はどのように固まるのか
「止血」と「凝固」 / アクセルとブレーキ / 「凝固の謎」解明の道のり / 外因性の凝固ルート / 保存血液への応用 / 内因性の凝固ルート / 血が凝固しない病気 / 複雑な凝固のシステム / ビタミンKは凝固の「K」 / 血液凝固の「滝」

5-2 血管内の血液はなぜ固まらないのか
血管内の「防火システム」 / 線溶の仕組み / 抗凝固の第一段階 / 抗凝固の第二段階 / 抗凝固の第三段階 / 抗凝固の第四段階

5-3 血栓の予防
流れているから凝固しない / 怖い鬱血 / 血小板や凝固因子の抑制 / ワルファリン / 凝固の所要時間判定法

第6章 血液の一生

6-1 血球の「故郷」骨髄
細胞の寿命 / 造血幹細胞の落ち着き先 / 骨髄移植への道 / 骨髄のスクラップ&ビルド

6-2 赤血球と血小板の誕生
骨髄系とリンパ球系 / 赤血球の産生 / ヘモグロビンの合成 / 核を吐き出す / 血小板ができる仕組み / 血球のデビュー

6-3 白血球は学ぶ
顆粒球ができる仕組み / 骨髄芽球→前骨髄球 / 骨髄球→後骨髄球 / 杆状核球→分節核球 / 単球の誕生 / リンパ球の社会のできかた / T細胞の教育 / B細胞の誕生 / 白血球の帰巣能力 / B細胞の「根城」リンパ節

6-4 血球の最終処分場
血球の寿命 / 脾臓の「簗場」が最終処理場 / 脾臓の簗場の仕組み / 鉄のリユース

第7章 血液「常識」の非常識

7-1 「サラサラ血液」の誤解
「サラサラ血液」は何を見ているのか / 「ドロドロ血液」は多血症 / 「サラサラ血液」は貧血症

7-2 血液型の非常識
血液型への誤解 / 血液型の発見 / ABO式血液型 / Rh式血液型 / 母と胎児の血液型不適合 / 白血球の血液型 / 「血液型性格判断」のウソ

7-3 覆ったコレステロールの常識
コレステロールの発見 / 乏しい科学的根拠 / 悪玉・善玉コレステロール

参考文献
さくいん

【感想】

貧血治療ではヘモグロビン(Hb)値が重視されるけど、酸素運搬の担い手としてHbだけでなく2,3-DPG(2,3-ジホスホグリセリン酸)も重要とのこと。しくみをちゃんと理解しなきゃと思った。

その他、血液成分の解明の歴史は血液凝固の解明の歴史、血液は「凝固しないから流れている」と同時に「流れているから凝固しない」、鉄のリユースなど、興味深い話が多く勉強になった。

一方、血球を顕微鏡で見るとどれもとても美しいと著者は語るものの、肝心の写真がモノクロ。良書なので、改訂の際にはぜひ血球の美しさをカラーで伝えてほしい。

【まとめ】

★ 【血液の6つの働き】①水分保持、②ガス交換、③栄養・ホルモンなどの運搬、④体温調節、⑤からだの防御、⑥傷口の補修

- 【血液は臓器】血液はまとまった働きをしている点で、臓器と見なすことができる。肝臓よりも重く、からだの中で最大の「流れる臓器」。
- 【学習のポイント】血液成分の解明の歴史は、血液凝固の謎を解き明かそうとする歴史だった。そのため、血液凝固のしくみ(凝固と抗凝固)を知ることは、血液の成分や働きを理解するうえで役に立つ。
- 【鉄のリユース】赤血球が寿命(≒120日)を迎えると、脾臓や肝臓で分解・処理される。その際、ヘモグロビン(Hb)から鉄(Fe)を完全に回収・再利用する。大人のからだの総鉄量は3-5g(3,000-5,000mg)ほどだが、ほぼすべての鉄は繰り返し体内で再利用することでまかなっている。ただし、排泄などによる微量の鉄損失があるので、それを補うために1日に1mgほどの鉄を食事によって補給する必要がある。1mgの鉄を補給できない場合、やがて体内の貯蔵鉄が枯渇して貧血(鉄欠乏性貧血)になる。

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2025年10月04日

Posted by ブクログ

一言結論:
難しい話もたくさんあったものの、分かりやすい表現と専門的知識の絶妙なバランスで読み応えのある良本。

感想:
著者が前書きで「血液の語り部」と表現している通り、正しいことをヘンにうやむやにせずしっかり伝えながらも、表現があまりに難しくなりすぎないよう配慮・努力されていて大変面白かったです。それでも分からない話は多々あったのですが、一つ一つを完全に理解しなくても血液についての理解が深まりましたし、さらに知りたい時にまた開きたいと思います。この本を通して血液や体の仕組みの素晴らしさを再認識できたことは大きな収穫でした。
個人的にとても興味深かったのは最後の章、血液の常識についてです。いかにメディアが不正確な情報を流しているか分かって衝撃でした。それが共通して「血液とは簡単なものだ」というイメージを植え付けていることに意図を感じずにはいられません。この本をもっと多くの人が読んで、いかに血液が素晴らしく複雑でよく運用されているか知って欲しいと思いました。

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2025年02月11日

Posted by ブクログ

酸素を運ぶ赤血球、侵入者を攻撃する白血球、傷を塞ぐ血小板。
ほとんどの人が、血液については他の臓器と違いその構成物まで知っている。
だからこそ、本書を読めば、血液について何も知らなかったということを知れるだろう。

赤血球はどうやって酸素を受け取り、どこで手放すことを決めるのか。
白血球はどうやって血中を移動するのか。
血小板はどうやって傷口に集まるのか。

単純な疑問に真正面から回答してくれるが、決して簡単というわけではなく。
例えば「血液が固まる場合と固まらない場合」のメカニズムは
内因性凝固系、外因性凝固系、12種類の因子、抗凝固の4段階のシステムを用いて解説されるし、
”二酸化炭素の運搬”という単純な役割に関しても、『血漿の水分に炭酸(H2CO3)として溶け込み、すぐに重炭酸イオン(HCO3-)と水素イオン(H+)とが解離して、イオンの平衡状態に達し、この平衡状態で肺へ運ばれている。』と説明される。

これだけの複雑性が明らかにされているからこそ、好塩基球の詳細やマクロファージの成熟過程など、わからないことがまだまだあるという事実が際立つ。
血液について、全く知らない人はその奥深さを、よく知っている人はその詳細を知れる、人体理解の入り口となる一冊。

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2021年12月31日

Posted by ブクログ

『はたらく細胞』という血液を含めた細胞を擬人化した不思議な漫画を思い出しながら読む。本書は擬人化したり戦闘シーンのない、例え話がない通常の教養本だ。だけど、この漫画のせいか、読めば読むほど、血液細胞にも人格が宿っているような気がしてしまうのである。

それはそうとこうした本で気になるのは「健康への影響」。少しでもタメになる情報を求めて、原理的な話よりも生活に役立つ話を欲しがってしまう。

一つ例示するなら〝サラサラと流れる血液“議論。サラサラってどういう状態?と、雰囲気だけで良さげだと解釈していた事に気付く。じつは健康な血流はもともと自力で血管内を流れることができないほどドロリとしているらしい。で、それがサラサラ流れたら、むしろ不健康な状態。それなら、「サラサラ=健康」というのはまやかしだったのか。

サラサラ血液の典型は再生不良性貧血などの重症の貧血、と続く。強い放射線や薬剤など何らかの原因で、骨髄での血球再生能力が造血幹細胞の段階で損われた状態だと。一体、サラサラに何を求め、サラサラの何を信じてきたのだろう。詰まらない血管=サラサラ血液、という錯覚である。

後はコレステロールの話とか。ともかくコレステロール値が低いほうがよいと思って、不必要に総コレステロール値を気にするのではなく、HDLとLDLに注目すべき。コレステロールは体内で合成される量が圧倒的で、食品からの影響はほとんどなく、一日一個の卵でコレステロール値は上がらないので、気にしなくて良いというのはここ数年で卵悪者論を覆してきた。

『はたらく細胞』のように子供向けではないが、擬人化されなくても、血液がしっかりと働いてくれている事がよく分かる良書である。

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2025年05月16日

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