あらすじ
日本の“真正保守”は、なぜやたらと社会を“革新”したがるのか? 保守とネット右翼・愛国主義はどこが違うのか? ヒューム、バーク、トクヴィル、バジョット、シュミット、ハイエク……西欧の保守思想の源流から、本来の保守が持つ制度的エッセンスを取り出し、民主主義の暴走から社会を守るための仕組みを洞察する。
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Posted by ブクログ
ヒューム、バーク、トクヴィル、バジョット、シュミット、ハイエクの六人の思想をとりあげ、解説している本です。
著者はこれらの保守思想家を、「制度論的保守主義」と呼んでいます。現代日本の「真正保守」が、日本の伝統と結びついた精神的価値を高く掲げる道徳志向的な性格をもっています。これに対して制度論的保守主義では、理性やその他の精神的価値に基づく設計主義を批判し、慣習的に形成される制度によって社会に安定がもたらされることの効用を正しく見積もることが重要とされます。
著者は、ヨーロッパにおいてはそのつど原点となる契約や慣習法の基本原則を参照しながらあたらしい制度が構築されていったことに触れ、そのことが制度論的な保守思想の形成される地盤になっていることを指摘しています。他方日本では、天皇制をのぞいてあたらしい国家体制がそれ以前の法・政治制度を明確なかたちで継承するということがなされておらず、いきおい精神論や文化論的なかたちでしか保守思想が展開されない状況にあると主張しています。
日本の真正保守の思想家である西部邁の著作では、しばしば解釈学などの成果を参照しながら保守思想の原理について考察をおこなう議論がなされていますが、そこでは伝統的な価値が守られるべきだという規範性が密輸入されているのではないかという疑念をしばしば感じてきました。そのようなこともあって、これまで保守思想の「思想」レヴェルにおける基礎づけに疑問を感じていたのですが、本書を読んでようやく保守思想の中心問題に触れることができたように思います。
Posted by ブクログ
仲正昌樹さんの『精神論ぬきの保守主義』新潮選書をちょうど読み終えた。保守とは字義の通り「古くからあるもの」を“守る”思想的系譜のことだが単純にあの頃は良かったと同義ではない。本書は近代西洋思想におけるの伝統を振り返りながら、現下の誤解的認識を一新する好著。まさに「精神論ぬき」です
仲正昌樹『精神論ぬきの保守主義』新潮選書は6人の思想家を取り上げる。ヒューム(慣習から生まれる正義)、バーク(相続と偏見による安定)、トクヴィル(民主主義の抑制装置)、バジョット(無駄な制度の効用)、シュミット(「法」と「独裁」)、ハイエク(自生的秩序の思想)。
6人の思想家の保守を横断すると、保守主義とは「取り戻す」ものではない。現在の社会を安定させている制度や慣習に注目し、できるだけ抽象的思考態度のラディカルさを退けていこうという透徹した現実主義。極右も極左も観念的ユートピア主義に他ならない
ヒュームにはじまる保守主義とは、私たちが安定して暮らして「いる」制度を、「いける」制度へと、外側からではなく歴史的な経験を通じての内側からの改革を不断に追求するものだ。徹底して精神論を排した漸進的改革論といってもよい。
「美しい国土」や「大和魂」といった言葉も自称保守が忌み嫌う外側からの変革の抽象性と同じである。今の地平に足をつけて未来を展望するのが保守主義の「現実さ」とすれば、日本社会において、保守すべき伝統や制度や思想はあるのだろうか。今読むべき本。