あらすじ
「ブタ野郎」を捨て台詞にリストラ予備軍の巣窟、社史編纂室行きとなった玉木敏晴。煙たがる家族の元には帰れず、時間を持て余す日々。ある夜、公園で披露したマジックが喝采を浴び、編纂室のメンバーを巻き込んでマジック団を結成。それぞれの人生の再生に向けた計画が始動する。窓際に追われた社員の意外な反乱の行方は? 笑いと涙の痛快小説!
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Posted by ブクログ
その夜、悟は来来軒で時給九百円の労働に精を出しながら思った。課せられた”ノルマ”を補填するために始めたアルバイト。お金のためだけに始めた生まれて初めての労働に、お金ではない何かを感じるようになったのはいつ頃からだろうか。注文を取り、水を出し、レジを打ち、食器を洗っているうちに時間があっという間に過ぎてゆく。仕事に没頭していると、全てを忘れることができた。レジ打ちを手早くできた時、たまった食器をタイミングよく見計らって洗えた時、入口で逡巡している客さんに声を掛けてうまく店内へ案内できた時。そんなさあいなことひとつひとつに達成感を覚えるようになった。「おつかれさまでした」の挨拶のあとで身体を包む心地よい疲れ、シャツに染み付いた汗や油の臭い。いつしか、一時間九百円の仕事に没頭しているこの時間が、とても好きになっていた。
これは自分にとって必要な日々だったのだ。そんなふうに受け入れることができた。