【感想・ネタバレ】インフラ事故 笹子だけではない老朽化の災禍のレビュー

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Posted by ブクログ 2015年03月01日

自治体の実態調査によると未補修の橋(15m以上)の割合は全国で4割、一番割合の高い香川県では86%にのぼる。20年後には築50年を越える橋が5割未満なのはわずか8道県のみになる。全橋梁の架け替えはおそらく無理で長寿命化が対策なのだが目先の修繕費が増えてしまう。予防保全へと舵を切るのははおそらく正しい...続きを読む、しかし予算や人手の制限があり自治体ごとの工夫はあるがそう簡単な話でもない。

笹子トンネル事故で日本のインフラが危ういことが明らかになった後、点検による異常が見つかった場所の事後保全では事故はなくせないことがはっきりしてきた。例えばJR西日本のケースでは半年前に点検して異常なしとされた高架橋を補修した被覆材4kgが剥落した。後半で補強したが為に床版の劣化が見えなくなった例もある。コンクリーと劣化の最大の要因は水の侵入だ。表層の補修で細かなひびに気がつかないと見えないところでさびが進む。一方で古くても劣化の少ない構造物もある。通称銀橋こと大阪の桜宮橋は1930年完成だがコンクリをはつったところ鋼材は錆びていたが破断に至るひどい損傷はなかった。鋼材の端部にコンクリを増し打ちし水が侵入しない構造にしていたからだ。比較的安価な対策ながら長寿命化の効果は大きい。工場などもそうだが設備投資を抑えようとして初期塗装を簡単に済ませたり、コンクリのかぶりが薄かったりすると結局補修で余計な費用がかかってしまう。中国ですら人件費が高く人手のかかる再塗装やコンクリ補修はそう安くはすまない。

各自治体の取り組みはいろいろある。例えば宮崎県は重要度により対策にメリハリを付けた「汗人(アセット)マネジメント」という割り切った維持管理計画を作成した。全ての橋を予防保全するには予算が足りない、しかし海岸部の橋は架け替えが必要だ。重要度の低い橋の予防保全を当面は見送り当初10年の修繕費を2億円削減した。また職員による簡易点検と専門家の診断を分けた。10年間で重要度の高い橋の予防保全は終了する。11年目から優先順位の低い橋の予防保全に取り組む計画だ。

青森県では2003年度に始めた橋梁点検を7年間で2巡させ12年に修繕計画を見直した。その結果当初計画では11年以降14.5億の計画が32年度以降は12.6億に減らすことが出来るようになり今後50年間のコストを675億円削減できるようになった。例えば補修で足場を組んだら一緒に塗装もするなど計画的に予防保全を進める効果が顕著に出ている。長崎県では民間の技術者や県職員OB、一般市民も巻き込んで「道守」という制度を作った。市民講座レベルの知識を身につけた道守補助員が創設4年で151人、点検作業が出来る道守補が114人診断や点検計画を作れる特定道守が36人、道路の維持管理が出来る道守が7人だ。まだ概略点検に活用できた例は1件しかないがインフラの異常に気がつく人が増えれば点検や診断への効果が期待できる。

小さな自治体でも取り組みはあり福島県田村市では予算が1000万円しかとれないところを通常の維持管理を充実させることで乗り切ろうとしている。側溝がつまったら清掃する、躯体に水がかかるような配水管なら長さや向きを帰る。予算はなくても人口比では人手が多いのでなんとか出来るのだ。また南会津町などでは集落を孤立させないように国道や県道より町道の橋を優先して保全している。

長寿命化の対策はいろいろあるのだがインフラのストックがピークに達するのは2020ねんごろ。その半分が道路で治水(ダムなど)、水道、港湾と続く。人口減少が続くと一人当たりの負担は1.5倍に増える需要を上回るインフラを維持する余裕はなくなり、老朽化したインフラを撤去し選択と集中を計っていかざるを得なくなってくる。もはやクマしか通らない道路を新たに作っている場合ではなさそうだ。それでも未だにバブル期の道路計画が生きているのだが・・・

ちなみに中国は2011年から3年間で66億トンを使用した。20世紀のアメリカの使用量45億トンをはるかに越える量だ。上海あたりでは既に2000年頃建てられたマンションの水回りが劣化し埋設配管のため建物ごとスクラップ&ビルドするしかない例も多いと言う。ただでさえ「おから工事」と呼ばれ鉄筋が入ってなかったり、コンクリの中にゴミを混ぜてたりするし、建設中の橋が崩れたニュースもたまにある。建設は出来ても維持保全や予防保全が苦手な中国の30年後はちょっと怖い。

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