あらすじ
東下りの国司が襲われ、妻子と山中を逃げる。そこへ、くすの実が落ちて――。いじめに遭う中学生の雅也が巨樹の下で……「萌芽」。園児たちが、木の下にタイムカプセルを埋めようとして見つけたガラス瓶。そこに秘められた戦争の悲劇「瓶詰の約束」。祖母が戦時中に受け取った手紙に孫娘は…「バァバの石段」など。人間たちの木をめぐるドラマが、時代を超えて交錯し、切なさが胸に迫る連作短編集。
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Posted by ブクログ
今まで読んだ連作短編小説の中で一番面白かった。
いきなり平安時代の話から始まるので、間違って時代小説を買ってしまったのかと思ってしまった。
全8話からなるそれぞれの話は、テーマや登場人物が共通する2つの時間軸が同時並行する形で進められる。過去と未来を行ったり来たりしながら話が進むのであるが、テーマや登場人物がリンクしているだけでなく、そこに必ず「大きなくすの木」が介在すると言っていいのか、大きな役割を果たすことで全体として一つの作品に仕上がってる感じが好きです。
個人的に気に入ったのは第2話の「瓶詰の約束」
くすの木をご神木とする日方神社の神主さんが経営する幼稚園の先生が園児のためにタイムカプセルを埋めようとする。くすの木の根元を掘っていると戦時中に空襲から逃れた少年が埋めた瓶詰めを発見する。瓶詰めの中には石ころの様な硬い塊があるのであるが、それが何か知っているのは火傷の跡がのこる園の用務員の敏三さんだけであった。
冒頭の平安時代の話は第一話「萌芽」の一節であり、くすの木生誕に
にまつわる話になっていて物語全体のプロローグとなっています。
Posted by ブクログ
千年の昔、餓死した子どもの口から飢えて舐めていたクスの種がポロリと零れ、大地に根を張り巨樹になりました。この作品はその巨大なクスの樹の下で起こったあらゆる人々の悲喜こもごもの連作短編集です。命短し人間の愚かで悲しく美しい面々を淡々と見つめた巨樹には、小さな子どもの精霊が宿っています。木の下で局面を迎えた人々は樹の霊に翻弄され、救われたり死に導かれたりする。御神木となった巨樹は人々を助けたりしない。ただ高みから尊大に見下ろしているだけ。ドラマチックで悲しく少し怖い短編集でした。
Posted by ブクログ
千年生き続けているクスノキが、
各時代の人々の生活をただ静かに見守っている話なのかと思っていたが、割とダークなストーリーだった。
辛い時代を生き抜いた人たちがこのクスノキに癒しをもらっているのかと思いきや、人間の人生はなかなかに厳しいぞと言わんばかりのストーリーだらけで、
読んでて落ち込むことが多かった。
千年樹と呼ばれるこのクスノキも、
街の人々の守り神などではなく、
人間の奥底に秘めてるドス黒い感情をさらに掻き立てようと挑発しているかのような気がした。
そして最後はあっけなく伐採される。
季節外れの青虫はクスノキの最後の抵抗だったのではないかと思った。
Posted by ブクログ
千年という長い歳月を生きてきたと言われる巨大なくすの木の下で起こる数々の物語。
時代も人も移り変わっているはずなのに、繰り替えさえられる人間の過ちや愚かさの全てを、このくすの木は見続けています。
言葉を発することもできず、歴史を語ることもできず、ただ見続けているだけのはずのくすの木の存在感が圧倒的で、時には恐怖を感じ、時には暖かく見守られ、その時々でいろいろな表情を感じ取れるのがとっても不思議でした。
Posted by ブクログ
*東下りの国司が襲われ、妻子と山中を逃げる。そこへ、くすの実が落ちて―。いじめに遭う中学生の雅也が巨樹の下で…「萌芽」。園児たちが、木の下にタイムカプセルを埋めようとして見つけたガラス瓶。そこに秘められた戦争の悲劇「瓶詰の約束」。祖母が戦時中に受け取った手紙に孫娘は…「バァバの石段」。など、人間たちの木をめぐるドラマが、時代を超えて交錯し、切なさが胸に迫る連作短編集*
樹齢千年を超える巨木くすの木が見守る中、過去と現在が交差しながら紡がれる物語たち。
読み応えはありますが・・・重いです。
特に過去のお話たちは、惨殺や飢餓や戦争と言った悲しくやるせない題材ばかりなので、いつものユーモア溢れる筆致の出番がない。荻原さんらしい、くすりと笑える表現や温かな希望や救いを求めている層には向きません。構成、展開はさすがですが・・・