【感想・ネタバレ】牛を屠るのレビュー

あらすじ

著者が作家専業となる以前、1990年から埼玉の屠畜場に勤めていた日々を綴る。「おめえみたいなヤツの来るところじゃねえ!」と怒鳴られた入社初日から10年半、ひたすらナイフを研いで牛の皮を剥き続けるなかで抱いた、働くことの実感と悦び。仕事と人生の関わりを普遍的に描き得た一冊。

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Posted by ブクログ

表紙のイラストのイメージ通りに骨太で力強い。屠殺の是非よりも職業人、プロとしての誇りを感じる文章。この光景が今だって全国で繰り広げられている。

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2022年07月30日

Posted by ブクログ

文章が上手い。
エアナイフ等うまく想像ができない作業も多かったが、仕事として淡々と牛を捌いていく職場の雰囲気が伝わってくる本だった。前作も読もうと思う。

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2021年12月07日

Posted by ブクログ

ーー働くことの意味、そして輝かしさを描いた作品だ(p.162 巻末対談より)
ーー天職を探すのが先決と思っているよりは、わからないままでも飛び込めば、ブレイクスルーできる地点に辿り着く。(p.164 同上)

就活の時に読んでみてはどうでしょうか。
散々迷って自己評価さげまくってズタボロになった果てに手にした仕事がブルシットジョブ。なんてことが珍しくない世の中ですが、羨ましがられない仕事ほど人の役に立っていて、しかもやりがいがあるんだということがとてもよく描かれていると思います。資本主義は労働者を労働から解放するのではなく、労働を中身から解放する、とはマルクスの指摘ですが、中身から解放される前の労働が与えてくれる喜び、みたいなものが感じられました。内山節もそれに近いことを「稼ぐ」と「働く」という対比で指摘していたような。
分業は効率化と増産のための必然ですが、それが奪うものの大きさも考えさせてくれる良書です。

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2021年06月06日

Posted by ブクログ

圧倒された。
作家となる前に10年以上にわたって埼玉の屠畜場で働いた作者のノンフィクション。私たちがスーパーで綺麗にパック詰めされた牛肉を買う前段階にはこのような作業があることをしっかりと認識させてくれる。
屠畜、という仕事から被差別部落問題に直結させたり、「命の尊さ」などという「美しい」価値を持ち出したりすることなく、仕事をするとは、真剣に対象に向き合い、工夫して、熟練度を上げていくことであることを力強く提示してくれる書。
巻末の対談で、「他人や他人の仕事に対してちょっとでも舐めた口をきくような人間に自分をしたくなかった」とあり、この姿勢がよく表れていると思った。

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2021年05月22日

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一昔前の大宮と場に勤務した佐川光晴さんの体験記。と畜場作業員としては異色の経歴であった佐川さんがなぜと畜場作業員になったのか、そしてそこでどのように「働いていく」ことを自身の気持ちの中に落ち着かせていったのかということが感じられる作品でした。

牛を屠るというタイトルから想像するほど、血なまぐさい風景が展開されるわけではなく、むしろ淡々と語られる中に、現実感が迫ってくるようでとても興味深かったです。

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2020年01月26日

Posted by ブクログ

家畜というより、哺乳類を解体するという営みは、差別的な視線ではとても覆いきれない、ものすごく永い──人類が人類になる以前から繰り返してきた行為があるわけです。その末に辿り着いた道具の形があって、その道具に潜むポテンシャルを自分が解放できるようになった時の嬉しさといったらないですよ

この労働観について書かれてる。
面白い。

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2015年12月26日

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「ここはおめえみたいな奴の来る所じゃねえっ!」怒鳴られた初日から10年間、著者は牛の解体の職に従事することになります。「職業を選ぶ」「働き続ける」とは、自分の人生にとってどういうことなのか――。




どうも僕はこういうなんというか、他の人があんまり見向きもしないようなテーマを扱った本のほうに興味が行くようで。

著者は北海道大学を卒業後、出版社に勤めるも、上司とそりが合わずに、ケンカして会社を辞め、転職活動の末に食肉製造の会社に転職し、そこで働いていたときのことを書いたものです。僕も一時期、スーパーの精肉部門でアルバイトしていたことがありますので、少し分野は違うかとは思いますが、本の中に描かれている彼の技術は目を見張るものがありました。

家畜を屠殺して、私たちのところに届けられるおいしいおいしい「お肉」になるまでには日の当たることのない裏側であって、僕らは決して見ないものがイラスト入りで克明に描かれているので、興味のある方はぜひ一読をお勧めします。

この本の中で作者の解体のスキルがどんどんとあがっていって、しまいには先輩の職人を追い抜いていくのですが、それがまたすごいなぁなんて読みながら思っていました。出来ればもう一回読み直して、
「仕事とは?」
「働くとは?」
という疑問にもう一度しっかりと向き合ってみたいと思います。

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2024年07月16日

Posted by ブクログ

オーストラリアの屠殺場で働いたことがあったので、屠殺関連の小説を調べてこの本にたどり着いた。

オーストラリアの屠殺場では、ナイフを使う事はなかったが、ナイフを巧みに使って、肉を削ぐ姿やこまめにナイフを研いでいる姿はよく目にしていた。

屠殺場には様々な工程があり、いくつかの工程を担当した。トラックに詰め込まれた生きている羊が、エスカレーターのような機械で、1匹ずつ工場内に運ばれてくる。羊が工場内に入る手前で、電気ショッ
クさせて1度気絶させる。これを失敗すると、次の工程担当が苦労する。羊の頸動脈を切り、後脚1本を引っ掛けて宙吊りのまま血を抜いて、首を切断する。
それからナイフや機械で皮を剥いだ後、余分な脂身を削いでいく。これまでの工程に約40人ほどを要する。

引用

われわれは「屠殺」と呼んでも、自分たちが牛や豚を殺しているとは思っていなかった。たしかに牛を叩き、喉を刺し、面皮を剥き、脚を取り、皮を剥き、内臓を出してはいる。しかしそれは牛や豚を枝肉にするための作業をしているのであって、単に殺すのとはまったく異なる行為なのである。
「屠殺は、屠殺である」(『新潮』二〇〇一年八月号)というエッセイでも書いたことだが、小説「生活の設計」には「死」という文字がほとんど出てこない。まして、解体されつつある牛や豚を指して「死体」と呼んだことは一度もない。「命」や「いのち」にいたっては、ただの一度も登場しないはずである。自分の目の前には、生きている牛や豚が枝肉になるまでの全過程がパノラマとして展開されている。しかし、ここが命と死の境目だと指差せる瞬間はないと思っていたからだ。

こう書かれていることについては、私もほぼ同じ気持ちでいた。仕事を始めて約1週間は、「いのち」をいただいているということに深く考えたり感謝の気持ちもあったのだが、目の前の仕事で一杯一杯なのと、慣れにより何も感じなくなったのは事実。

引用

今では建物は銀色の外壁に覆われて、トラックから牛や豚を降ろすところさえ外から見られないようになっている。会社の敷地に入っても、糞尿の臭いもしなければ牛や豚の啼き声も聞こえず、これはこれでなかなか恐ろしいことである。もっとも、そうした遮敵を当て込んで、会社の周辺には矢継ぎ早に最新式の高層マンションが建設さ
ときとき総務部に、高層マンションの住人から、洗濯物に臭いがついたと苦情の電話がかかるというが、ことさら隠すから余計につけあがるのだ。「いのち」などという目に見えないものについてあれこれ語るよりも、牛豚の臭いや啼き声といった、現実に外にはみ出してしまうものをはみ出させたままにしておくことのほうがよほど大切ではないかと、私は思っている。

非常に同感。



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2024年06月05日

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屠殺、というものに興味をもったのはいつだったか。
品川(芝浦)のことを知ったのは何気なく写真集を手に取ったのがきっかけだったように思うし、岐阜の養老のことも知識としては知っていたし地形や社会史との関係で解釈していた、ただし実作業工程までは当然わかっていなかった。

屠殺場で働くきっかけを「偶然」と表現するのも素直だし、父親の反省に対して「会社を辞めず給料をもらい続けたおかげで親としての役目は果たした」「人生に運不運は付き物だし、信念を曲げず生きてこられただけよしとすべき」という感想もまた、考えさせられる。

「おいそれとは身に着につけられない」「技術と経験を求められる」仕事を志向し、そしてこの就職は間違った選択ではなかったと知ったというのにも共感する。
怪我もあるし、牛に蹴られるおそれもあるし、技術とメンタルの鍛錬に満ちた仕事であることもわかるし、携わっているからこそ味わえる美しい光景や体験にもまたうなづける。読んでよかった。

差別・偏見もまた否定しないものの、そういうことに拘らず付き合える仲間というのも、チームワークあっての作業ゆえのもの、かもしれないと思う。
無論、労使の関係のなかで地位向上させてきた歴史も、屠殺を考えるうえでは避けられないこと。とはいえ、日々の仕事ぶりのみによって互いを認め合い、評価あるいは証明するというのも格好良い。
そしてそのような環境に(時には自らの身体的特長も含めて)、「これぞ自分にとっての世界だ」と信じて打ち込んでいく様子もまた、尊く感じたのである。

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2021年05月08日

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なんとも読み応えのある、屠畜の仕事の貴重な体験談。初っ端から引き込まれる。
入り込むことのできない世界を見せてもらった。著者のいた大宮と、機械化が進んだ芝浦との違いも興味深かった。関連書籍を読んでいきたい。

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2021年04月01日

Posted by ブクログ

解放出版社版を読んだ。表紙がよりリアル、かな。
この手の内容の本は初めて読んだ。淡々とリアルで、違和感を感じる以前にグイグイと読み終えてしまった。被差別部落・云々に関しては、恥ずかしながら知識が無いので浅い読書しか出来ていないのだろう。同系他者の著書とは食い違う現実が描かれているようだが、どれも恐らく嘘では無いのだろう。興味深く読めた。

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2020年11月23日

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 「働く」ということを教えてくれた。そのとおりだなぁと思うと同時にそんなふうにオイラは毎日を過ごしているかなと振り返らせてくれた。オイラの好きな言葉に「何をしたかよりも、誰としたのかが大切だ」がある。定年を迎えた父親が息子に向けたラジオ番組への投稿だった。定年までいろんなことがあったけど、記憶に残っているのはどんな仕事をしたかよりも誰と仕事をしていたかということだった。
 佐川にとっても新井さんをはじめとする屠殺場で一緒に働いた先輩や後輩は生涯、忘れられない仲間なのだろう。オイラも新井さんみたいになりたいものだ、歳ばっかりとって貫禄がない。自信を持てる働き方をしていないからだろう。自信が持てるまでやりきってないのかな。いずれにしてもいい本に出会った。
 「おばさん」シリーズがどうしてできたかも理解できた。薄っぺらな作り話じゃないことがわかって嬉しかったな。

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2017年05月26日

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知らない世界で面白く読めた。屠殺場での刃物を使っての仕事…危険この上ないけどお給料はたくさん貰ってるのかな…ありがたい事です。お肉は残さず食べようと思った。

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2017年02月12日

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大卒の著者が出版社を退社してついた仕事は家畜の解体。差別的な目で見られる仕事を、ただひらめきで、なんとなく、と理由のつかないまま職業安定所で探し、就職。ナイフがうまくつかいこなせたる嬉しさ、たくましくなる肉体、1日の解体分が終われば昼で退社できること、など、仕事の誇らしさが描かれている。世の中にはよそうできないほどのいろんな仕事があるけれど、選んだ仕事が何であろうと、一生懸命な人は輝く、と思った。いろんな世界のいろんな仕事をもっと知りたい。

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2015年11月20日

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屠畜場での就労経験に基づいた興味深いエピソードの数々。毎日のように肉を口にしながら屠畜に関する知識に乏しい読者にとって現場の描写は衝撃的だ。決して快適とはいえない労働環境や被差別部落に対する偏見が影を落とす職場にあって働くことの本質が見えてくる。

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2014年10月26日

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【本の内容】
作家専業となる以前、埼玉の屠畜場に勤めていた日々を綴る。
「おめえみたいなヤツの来るところじゃねえ!」と先輩作業員に怒鳴られた入社初日から10年半。
ひたすらナイフを研ぎ、牛の皮を剥くなかで見いだした、「働くこと」のおおいなる実感と悦び。
仕事に打ち込むことと生きることの普遍的な関わりが、力強く伝わる自伝的エッセイ。
平松洋子氏との文庫版オリジナル対談を収録。

[ 目次 ]
1 働くまで
2 屠殺場で働く
3 作業課の一日
4 作業課の面々
5 大宮市営と畜場の歴史と現在
6 様々な闘争
7 牛との別れ
8 そして屠殺はつづく
文庫版オリジナル対談 佐川光晴×平松洋子―働くことの意味、そして輝かしさ

[ POP ]
2009年に解放出版社から刊行された『牛を屠る』が文庫化。牛や豚の解体作業を通して、働くこと、生きることの本質に迫る。

巻末に、佐川光晴と平松洋子との対談(文庫版オリジナル)を収録。

人生は流れであるという感覚について、「のめり込んでいた場所でできる限りのことをやったら、次の世界が始まっていく」という著者の言葉は説得力がある。

「自分の手と直結した何かを使って働」(平松)いたからこそ紡げる言葉があると知る。

[ おすすめ度 ]

☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

[ 関連図書 ]


[ 参考となる書評 ]

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2014年08月27日

Posted by ブクログ

作者が作家になる前に勤めていた埼玉の屠畜場での日々を綴る自伝的エッセイ。
職業的に、差別問題や命のあり方に重きをおかれそうだが、職の尊さをテーマにしているので、親近感を覚える作品だ。
大卒の作者が、初日に先輩から「おめえみたいなヤツが来るところじゃねぇ!」と怒鳴られてから10年間、職を全うした経験をは、今の新人社員やこれから職業に就く若者に是非読んでほしい。

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2014年09月21日

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