あらすじ
筆跡鑑定人が犯人を追い詰める!
世紀末の大晦日午前9時、ワシントンの地下鉄駅で乱射事件が発生。間もなく市長宛に2,000万ドルを要求する脅迫状が届く。正午までに“市の身代金”を払わなければ、午後4時、午後8時、そして午前0時に無差別殺人を繰り返すという。手がかりは手書きの脅迫状だけ――。FBIは筆跡鑑定の第一人者、パーカー・キンケイドに出動を要請した。息もつかせぬ展開とどんでん返しの連続に心ゆくまで陶酔できるJ・ディーヴァーの逸品! 2000年週刊文春ミステリーベスト10第5位。
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Posted by ブクログ
読み終わって、しばらく目を閉じ、その余韻にうっとりと酔いしれた。
凄惨な事件が描かれた作品だというのに、あと味がよく、希望を感じた。最高のエンターテインメント作品だ。
昨年は<リンカーン・ライム・シリーズ>に翻弄された。脳細胞を懸命に働かさなければならない読書は、貴重な体験となった。今年は、その最高のお気に入り作家となったジェフリー・ディーヴァー作品を、遡って読んでみようと思っている。
そこで、今回はこの『悪魔の涙』を手にした。世紀末の大晦日午前9時、ワシントンの地下鉄駅で乱射事件が発生する。正午までに2000万ドルを払わなければ、午後4時、8時、そして深夜0時に再び無差別殺人を行なうという脅迫状が、市長宛に届く。犯人、動機ともに不明。手掛りは手書きの脅迫状だけだ。そこで、元FBI文書検査士のパーカー・キンケイドに、FBIから出動要請がくる。証拠物件は「文書」。紙、筆記具の特定、筆跡、綴りのミス、文法の組み立てなどから、ありとあらゆる情報を導き出し、犯人に迫る。ここが本書のおいしいところ。本書では読者を、「文書鑑定」という新たな領域に誘い込む。
犯人とFBIの攻防に息を呑んで、読み進めた。緻密なプロット構成と魅力的な人物造形、そして現代社会の闇。それらをギュッと詰め込んだ、読者を手玉に取る物語の完成度には、度肝を抜かれる。読み応えがありながらも軽快。意表を突く、ひねりの効いたストーリー展開に唸らずにいられない。ストーリー・テリングの巧さに舌を巻かない人などいるのだろうか。ライム・シリーズに比肩する面白さだ。
途中、嬉しい再会があった。そのリンカーン・ライムの登場だ。キンケイドが電話で、微細証拠物件の分析をライムに依頼したのだ。ライムの分析結果から、犯人のアジトを突き止める展開は、もうお馴染みのことながらもワクワクしてしまった。
「さぁ犯人よ、大人しくしていろよ」ってな具合である。まあ、大人しくしているような犯人のわけはないのだが。
パーカー・キンケイドと、今回の事件を担当した、FBI女性捜査官のマーガレット・ルーカス。2人とも悩みを抱えている。事件捜査と併行して、2人のプライベート生活をつぶさに描写することにより、人物像がより鮮明に浮かび上がってくる。人物の裏表を丁寧に描き込む、ディーヴァーの小説作法にはいつもながら頭が下がる。主人公たちに愛着を抱かずにいられなくなるからだ。2人の恋の行方も気になる。
シリーズ化すると嬉しいのだが、どうだろう。
ちなみに、タイトルの「悪魔の涙」とは、アルファベットの小文字の「i」の、上に打たれた点のこと。人それぞれの癖が出るところだそうだ。
Posted by ブクログ
ベースが狂人な殺人鬼が当たり前のように存在する定番が光り輝く海外サイコサスペンス。
一転 二転と大きく動く展開が楽しかった。
ただ一夜の出来事にしては大容量過ぎて、おっとりポケポケ風の「ジャガー」は裏方ではむっちゃ急いで行動してたんだろうな、といらん想像にクスッとしてしまいました。
首謀者が発覚してからの確保を経てもまだまだ落ち着こうとしない終章は心から興奮した。しかしその最終対決の呆気なさは少し寂しい。初戦と復活戦のあっさり度が同等でまるで再放送を見ているかの様だった。
首謀者の頭の良さが際立っているが、この時間をかけて作り上げた超大計画を一夜の間で裏をかき先回る(事が出来たり出来なかったり)な捜査官。
事実これが数時間の間に閃いてるとなるとタイムリーなサスペンスとしての見所が薄まったかのようで、脳内再生が忙しい。
Posted by ブクログ
初めてのジェフリー・ディヴァーの単発もの。リンカーン・ライムのちょい役で出ていたうれしい演出。そして逆にリンカーンシリーズにも出てきたことを思い出す。
内容的にはディヴァーらしい感じなのだが・・・なんだかしっくりこない。回りくどいというかなんというか。最初に犯人があっさりひき殺されるあたりで、あぁこれ絶対にそんな単純じゃないとディヴァーファンなら分かってします。せめて途中で真犯人が生きていることをほのめかしてくれればワクワク感が出るのだが、それもないのでなんとなく半信半疑で読んでします。ラストもあっさりすぎるというか、唐突すぎだ。真犯人の完璧も、その完璧性がいまいち感じられない。ウォッチメーカーや魔術師のような者がやはり完璧な犯罪者だと思うし、同時期に書いていた『コフィン・ダンサー』に犯人の方がそれに近い。やはり自分としてはリンカーン・ライムの捜査手法やキャラクターが性に合っているのかもしれない。ただ、そっちも1作目ははまれなかったので、パーカーのもシリーズになればはまれるか?ただ、捜査手法としてもっと筆跡鑑定的なものが入るといい。本作では実質的に脅迫状からの手がかりはほぼなく、最後の謎解きにちょいと役に立ったのみ。むしろ訳だったのはリンカーン・ライムだろう。
Posted by ブクログ
ライムがちょこっとだけ出演していた!
初めてのキンケイドとルーカスの物語。
ふむふむ。ニューヨークにはライムとサックスで、ワシントンにはこの2人か。
ライムのシリーズを全部読んでるので、ストーリーの進み方はいつも通り。わくわくしてどんどん読み進められる。リチャードは関係なかったかー。
いつも通り、殺人犯はまったくの外部の人間で、彼を動かす人間が裏にいる。そんなに簡単に警察内部へ潜り込めるのか!!
ジェフリーさんは、強く、美しく、孤独な女性が好きなのかしら。
Posted by ブクログ
ディーヴァーらしくどんでん返しやら各所の仕掛けやらが満載、なのでもうお腹一杯よ!になる人も決して少なくないんじゃないかと思う。ディーヴァーといえば何と言ってもリンカーン・ライムシリーズが有名だけど、その世界とも今後とも関わってくる筆跡鑑定の第一人者、パーカー・キンケイドが主人公。ライムはゲストでちょこっとだけ登場するよ!
ストーリーは本当にラストに向けて疾走してターン、またターン!みたいなスピード感溢れるもの。そもそも「●時までにこれこれをしろ、さもなくば」というのが犯人の要求なんだから、作中の時間経過が緊迫感と焦りを連れて来るのも無理からぬところだ。そういう雰囲気を描くのがディーヴァーはとても上手いから、特定の人物に感情移入するというよりも、ただそのスピード感と謎を解く感覚に酔いながら進むべき本かもしれない。
そもそも文書鑑定って仕事が興味深い。事件には関係ないんだけど、ストーリー内でキンケイドが行っているトーマス・ジェファーソンの手紙の鑑定話とかもっと読みたかった!出てくる贋作者の話とかも。
筆跡鑑定というジャンルは、実際に鑑定すべきものがそこにあるという意味で、プロファイリングとかキネクシスよりも「理解されやすい」のではないか、と思う。読んでいるこちら側だけでなく、作中の人物達にとっても。派手ではないけど鮮やかなキンケイドの手並みをもっと見てみたいので、シリーズ化されたらまた読んでしまうんだろうな。
でもまあ、
[※ここからちょっと犯人に関するネタバレ※]
最初に「未詳」とされた人物が、犯人とされた証拠が首を傾げるものだったので、現実にはどうかわからんが小説的には「ああこれ真犯人別にいるわ」と思ってしまったのが残念。もっと驚きたかった。
[※ここまで犯人に関するネタバレ※]