【感想・ネタバレ】古代エジプト 失われた世界の解読のレビュー

あらすじ

ヒエログリフ(神聖文字)、スフィンクス、死者の書…。本書一冊で古代エジプトがわかる、概説書の決定版。どのような国土にどのような人々が、どのように暮らしていたのか。紀元前三〇〇〇年あたりからアレクサンドロス大王に征服されるまでの二七〇〇年余り、三十一王朝の歴史をひもとき、数少ない資料を丹念に解読し、その宗教、死生観、言語と文字、文化などを概観する。(講談社学術文庫)

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Posted by ブクログ

本書も、2025年1月1日~4日のエジプト旅行(カイロ・ルクソール)の副読本として、読んだ。
今回の旅行で、最も印象的であったのはルクソールにあるカルナック神殿、ルクソール神殿の巨大かつ精巧さである。
本書では、古代エジプトの歴史や文字、宗教や死生観について幅広く紹介しているが、すべてについてメモする時間もないので、筆者が推している?イクナトンについて記しておく。
イクナトンは、改名前はアメンホテプ4世と言うが、アメンホテプ3世の息子である。アメンホテプ3世は、それまでの好戦的な王たちによる拡大と収奪による巨万の富を持っていたとされる。そして、その富を惜しげもなく使い、世界一の都市として現在のルクソール、当時のテーベを作ったのもこの人物である。上述の通り、ルクソール神殿やカルナック神殿は驚愕するほどの大きさと荘厳さを持っており、アメンホテプ3世の治世の強大さを感じざるを得ない。ちなみに、メムノンの巨像とよばれるルクソールにある20メートル超の巨像も、アメンホテプ3世のものとして建てられたものである。アメンホテプ3世はその名にある通り、強大なアメン神とその神官団に支えられたいた。また、当日の古代エジプトの神は非常にアバウトであり、日本における八百万の神々のように、支配下となった住民たちの土着の神なども自らの神々のカタログに追加していくなど、比較的柔軟なものであった。そうした中で、アメンホテプ3世から引き継いだアメンホテプ4世は、古代エジプトの歴史上はじめて、一神教的世界観を持ち込んだ人物である。元々アメンホテプ3世の次男であり、王位を継承する予定がなかったために、テーベにおける人脈的基盤は弱かったことにも由来するが、アメンホテプ4世はこれまでのアメン神の路線から方向転換し、アトン神による一神教の世界観を作り上げた。その際に、アメンと入っているアメンホテプの名を捨て、イクナトンと名乗る。もちろんアメン神官団には多いに反対され、結果としてテルエル・アマルナへの遷都が行われる。イクナトンの妻は、有名なネフェルティティであり、彼女も遷都の際に存在感を表したとされる。イクナトンは文化や仕組みを大きく変えたが、政治的経験や権力基盤を持たないため、悉く政権は失敗を繰り返し、その後のイクナトンの姉妹の子であるツタンカトンの時代には、遷都も廃止し、またテーベに戻ることになる。そして、このツタンカトンこそ、最も保存状態がよく見つかり、黄金のマスクで世界で最も有名なツタンカーメンその人である。こうしてみるとわかりやすいが、ツタンカトンは名前にアトン神を含んでいるため、テーベへ再遷都し、アメン神の世界へ戻る際にアメンを含むツタンカーメンに改名している。もっとも、ツタンカーメンは幼くして王となり、死してミイラとなったことから、彼がどの程度の認識能力をもってテーベへもどり、政治機構を再構築したかは不明であるが、この辺りの登場人物や、宗教改革の側面は非常に面白かった。

また、古代エジプトの人々は、生前の世界と死後の世界をそれほと区別していなかったとされる。
多少は理想化されているものの、死後の世界も生前の世界と同じような世界として理解しており、死後も農業に依存した経済の中で、働いて生きていかなければならないとしている。そのため、人々が死後の世界でも生きていけるように、装飾品が多く存在した。なお、古代エジプトの人も、バアとカアという心身二元論的な発想をもっており、死後もバアとカアは死体に戻らないと、本当の意味で「死んで」しまうと考えられていた。そうした中で、死後の世界でも、戻れるミイラをや墓を作ったと考えられている。

最後に、ヒエログリフについても面白かった。ヒエログリフには表音文字と表意文字があり、表意文字は特定の部首のようなものが何かの概念を表す点で漢字と似ている。例えば、太陽、日、時間、昇る、1日を過ごすという意味のヒエログリフには、太陽を表す共通の表意文字が含まれている。なお、ヒエログリフの解読には、ナポレオンのエジプト遠征の際に帯同した学者たちによってはじめられ、進められていったが、読み解いたのは有名なシャンポリオンである。シャンポリオンはエジプトに現存するキリスト教系のコプト教が使うコプト文字の研究者であり、コプト文字が多いにヒントになったと言われる。
また、余談であるが、ヒエログリフは表音文字と、表意文字が混在しているが、実は日本語も同じく、表音文字である仮名と、表意文字である漢字が混在し、視覚と(仮想的な)聴覚で言語読解がなされている。マンガという絵と音が同時に出現する文化的素地は、この独特の言語慣習によるものではないかという声もあるが、ヨーロッパ系の言語においては、基本的にすべてアルファベットをはじめ表音文字のみである。アルファベットが単独で何かの意味を示すことはない。そうした中で、ナポレオンと帯同し、ヒエログリフの解読にあたった学者たちは多いに苦戦したとのことで、論点はやはりヒエログリフは表音文字なのか、表意文字なのかという二者択一であり、誰も混在している、一緒に文章が形成されているとは思わなかったのである。筆者は、このことから、日本人が初期の解読チームにいれば、もっと早く解読がなされたのではないかと言うが、これは面白い歴史の「if」だろう。

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2025年01月07日

Posted by ブクログ

ヒエログリフ(神聖文字)、スフィンクス、死者の書がこの一冊でわかる。古代エジプトには、どのような人々がどのように暮らしていたのか?十一王朝の歴史をひもとき、その宗教、死生観、言語と文字、文化などを概観する。

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2019年01月17日

Posted by ブクログ

一冊でわかる概説書とあるのだが、言語学の教授が書かれた本なので言葉・文字・文学についての記述が多め。エジプト文学に触れられたのが良かった。

古代エジプト展に行ったので、もう少し学びたくて手に取った本。エジプト史は本当に難しい。
難しいのは研究者にもそうらしく、未だにはっきり解明されていない理由も色々書かれており、なるほどと思った。

もう少し図解などでわかりやすく、そして記述も易しめだとより理解出来る気がした。

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2022年08月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

古代エジプトの生活や死生観、言語などに関しての解説書。とくにヒエログラフやコプト語に関する記述が多く、ヒエログリフが好きな方はおすすめ。私はミイラのことについて知りたかったのだが、具体的な製造過程はヘロドトスの「歴史」を元に考察している。むしろ葬儀などの風俗に詳しい描写有り。古代エジプト人の生活、考え方を知りたい人にはよい本。

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2015年06月08日

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