【感想・ネタバレ】庶民たちの朝鮮王朝のレビュー

あらすじ

18世紀、朝鮮王朝時代。王宮文化が開花する一方で、都に住む庶民たちは独自の文化を育んでいた。西欧人の見聞録を通してのみ語られてきた、王朝時代の「庶民の暮らし」に迫る、初の韓国庶民生活誌。

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Posted by ブクログ

李氏朝鮮時代の庶民の生活の記録はほとんど残っておらず、その把握は難しいという。庶民の識字率が低く、支配階級である両班も庶民の生活を記録しようという意思がなかったためのようだ。しかし、著者は韓国に残る資料を丹念に調べて、庶民の生活を幅広く整理したようだ。庶民の生活を知りたい私としては分かりやすく、とても楽しめた。ここから、さらに庶民の生活を深く知る書籍があれば、ぜひ読んでみたい。

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2018年12月29日

Posted by ブクログ

李氏朝鮮、500年続いた王朝であるにも関わらず、私はこの時代についてまったくの無知も同然であった。先日読んだ『中世倭人伝』から得た知識、壬辰倭乱(日本でいうところの文禄・慶長の役)の際の記録、閔氏朝鮮から日韓併合に至るまでの世界史の授業で得た知識、これが私にとって李氏朝鮮の全てだったのである。江戸幕府を上回る長期政権となったこの時代について、少しでも多くの情報を得られればと思い読み始めた本書だったが、多くの古記録の分析を通して著者が再現してみせた朝鮮の姿は思った以上に鮮明で、あと少しの努力で完全に再現してみせることができるのではないかと思わせてくれるほど細かいところまで解説が行き届いていた。両班だけでなく、庶民の服装、食事、酒、はては賭博といった娯楽まで網羅している風俗集というのは他の国のものでもなかなかないだろう。

ただ、本書は古記録から得られる事実のみを網羅的に記しており、著者による考察は爪が甘く、情報には矛盾していると思われるものも多く見られた。以下に私が読んでいて疑問に思った点を抜粋して載せておこうと思う。

まず食肉に関する記録だ。朝鮮末期に緩和されるものの、牛の屠殺は年に一回元旦のみと法律に定められていたとのことだったが、居酒屋で庶民に愛されていたククパプ(クッパ)の材料には牛肉が含まれていたことが記されている。官吏が賄賂を受け取っていたこともあり、この法は不徹底で牛肉を食べている人間も多かったとのことだが、一方では殆ど食べられていなかったという記事があったりと、食肉に関して矛盾している部分が目立つ。夜間外出を厳しく取り締まることに成功していたこの国家の体制が、ここまで法の執行がおざなりになることを許していたとは信じ難い。また、商人達の種類の一覧の中には牛肉を専門的に扱う者も記されていて、もうわけがわからないことになっている。この辺りはもう少し丁寧に整理して記して欲しかった。

次に両班を含めた国民達の生活の糧を得る手段だ。朝鮮は農業立国だった故に農業に従事する者が圧倒的に多いとのことだったが、それにしては記録の中に商人の姿が目立つ。また、奴婢(奴隷)が逃亡して自ら商売を始める例もあったようだし、林業や漁業、服飾関係の仕事に従事している者や輸送を生業にしている人々もいたはずだ。著者の引用する記録からはそういった人々の姿が見えてこない。こういったところは推論でもよいから切り込んで欲しかった。

上述した件にも関連することだが、庶民や両班、奴婢達がどうやって富を蓄えていったのかがいまいちわからなかった。両班はその地位を維持するために経済力が必要だったとのことなので何かしら金を稼ぐ方法を持っていただろうし、官吏の地位を買えるようになった18世紀、庶民はより多くの富を得るためになにがしかの方法を考案したはずだ。一番わからないのが奴隷扱いの奴婢で、奴婢の立場で自分より身分が上な庶民の娘を嫁にもらっている例がある。金もない奴婢に大切な子供を嫁がせるわけがない。奴婢もどうにかして金を稼いでいたはずだ。後半にて取り扱う賭博の件だけではこういったことを説明できない。本書に述べられている以上に朝鮮王朝下の漢江は複雑だったんじゃないだろうか。

以上、よくわからなかった点を挙げ連ねたが、こういった点を差し引いても本書は資料として貴重だ。朝鮮の歴史に興味を持ったあなた、是非手にとって読んでみてほしい。

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2025年12月14日

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